3章、シェスカとカイン
1、来訪者はカインの知り合い?
カインがハヤトとアミアのパーティに加わってから一週間。
それまで単独で依頼を達成してきたハヤトだったが、カインが仲間に加わったことで、今まで受けてきた依頼よりも高額の報酬を受け取ることができる依頼を達成できるようになっていた。
この日も、依頼達成の報告をして、報酬を受け取ったあと、食事をしながら次の予定を二人と一匹で話し合っていたのだが。
突然、カインがハヤトから顔をそらした。
どうしたのか問いかけようとした瞬間、背後から少女の声が耳に届く。
「あなたが、ハヤトくんとアミアさんね?」
振り返ると、そこには黒髪をポニーテールにまとめた、意思の強そうな瞳をした少女がいた。
「え、えぇ。そうですけど」
「えぇと、どちら様?」
グランバレアに滞在するようになって、一か月近くは経過している。
だが、ハヤトもアミアも、目の前にいる少女を見かけた覚えがまったくなく、声を掛けられる理由もまったくわからない。
疑問が頭の中をぐるぐると回っていると。
「あぁ、ごめんなさい。わたしはシェスカ、このギルドに所属している冒険者よ」
そう言いながら、右手を伸ばしてくる。
ハヤトもまた右手を伸ばし、彼女の手を握ると、簡単に自己紹介をして、声をかけてきた理由を問いかけた。
「で、俺たちに何か?」
「えぇ。実は協力してほしいことが……」
そう言いかけて、シェスカはハヤトの背後にいるカインに気づいたのか、悲鳴を上げる。
その悲鳴で、カインも自分が見つかったことを知ったらしく、隠れていたことを悪びれる様子もなく、久しぶりだな、と声をかけた。
その言葉とシェスカの反応から、二人が知己ではあるが、あまり穏やかな関係ではないらしい。
「ハヤトくん、アミアさん。あなたたち、こんなろくでなしと組んでるとろくなことにならないわよ? さっさと縁を切ることを勧めるわ」
「おいおい、失礼なこと言うなよ? これでも俺たち、けっこううまくやれてるんだぜ?」
「そんなこと言って、実際はハヤトくんとアミアさんにだけ働かせて、自分はおいしいところを横から奪ってるんでしょ?」
「こいつら相手にそんなことはしてねぇって」
「どうだか?」
手が出るということはないが、ぎすぎすとした言葉の応酬が二人の間で繰り広げられている。
下手に長引けば、流血沙汰になってしまうのではないか。
そんなことを危惧したアミアが、シェスカの方に声をかけた。
「と、とりあえず、シェスカさん。落ち着いてください」
「何か、俺たちに話があるんでしょう? ひとまず、座って話しません?」
アミアを援護するように、ハヤトもシェスカに着席を促す。
二人の言葉に答えることこそしなかったが、多少は冷静さを取り戻したらしい。
物騒な顔のままではあるが、シェスカはハヤトが勧めたように席に着く。
だが、殴りかかろうとすることこそしないものの、なおもカインに向かって殺気を放っている。
カインはそれを飄々と受け流してはいるが、一触即発の雰囲気であることに変わりはない。
「え、えぇと……シェスカさん?」
「………………………………」
「あ、あのぉ……そろそろお話を聞きたいんですけどぉ……」
「………………………………」
アミアが声をかけても、シェスカは答える様子がない。
話があると言って声をかけてきたのは彼女の方だというのに、これはある意味、理不尽だ。
さすがに、カインとの間に何があったのか気になり始めたハヤトではあったが。
「……いい加減にしてください。話があると声をかけてきたのはあなたでしょう?」
そう口にした瞬間、周囲にいた冒険者たちが一斉にハヤトの方へ視線を向ける。
その表情は物珍しい光景を見るような、好奇心に満ちたものではない。
まるでドラゴンや
「は、ハヤト? と、とりあえず、落ち着け? な??」
「俺はいたって冷静だぞ?」
「だったら、その顔と威圧をやめてくれねぇか?! 正直、息しにくくて仕方ねぇんだよ!!」
パーティを組んでいるカインも、こんな状態になったハヤトは初めてだったため、内心、がくがくしながら、必死の様子で頼んでいる。
それだけ、今のハヤトは威圧感に満ちていた。
「ハヤト、僕も気持ちは同じだけど、さすがにやりすぎ」
「……ん、わかった」
アミアからの言葉でようやくハヤトも落ち着いたらしい。
一言だけそう答えた瞬間、周囲に満ちていた威圧感と息苦しさはなくなり、ギルドにいた冒険者たち全員が安どの表情を浮かべる。
その中には当然、カインも含まれており。
――や、やべぇ……マークスさんから聞いた話じゃ、からかい過ぎた冒険者を地面から首生やした状態にしたって聞いてはいたけど、まじで怒るとここまで怖ぇのか……
巻き込まれることこそなかったが、ハヤトをからかって遊ぼうとした冒険者たちを生き埋めにしたという話はすでに知っていたため、あまりからかって遊ぶことはすまいと思っていた。
だが、今回の件で、ハヤトが怒りを覚えるようなことは絶対にやめておこうと、カインは改めて心に刻むんだ。
なお、真正面に座っていたシェスカは、カインに向けて殺気を放つことはしなくなったが、威圧が解除されても恐怖心が消えておらず、話を切り出してもらうまで、またしばらく時間を浪費することとなってしまった。
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