12、不安な先行き

 トネリコ村を出発してから数日。

 マークス率いる行商人一行は無事にグランバレアに到着した。

 マークスたちはハヤトとカインはマークスに依頼達成の証明書を受け取ると、依頼達成をギルドに報告するため、マークスたちと別れ、ギルドへと向かっていく。

 ギルドに到着すると、アミアはようやくポシェットの中から出てきて、ハヤトの肩へと移る。

 ポシェットの中に隠れていた時間が長かったこともあり、ハヤトの肩で器用に体をほぐしているうちに、三人は受付カウンターに到着した。


「ただいま戻りました」

「戻ったぞ~」

「おかえりなさい、ハヤトさん、アミアさん。それにカインさんも」

「おいおい、俺はついでか?」

「そういうことは、もう少しちゃんと依頼を受けてから言ってください」

「あははは……正論だね」


 受付嬢とアミアの言葉にぐうの音も出せないカインが唸っていると、ハヤトはマークスのサインが記された依頼書を取り出し、受付嬢の前に差し出す。

 にこやかに依頼書を受けて取ると、目を丸くしてハヤトに問いかけてくる。


「か、確認しました……え? 逃げ帰ってきたわけじゃないんですか?」

「いや。逃げ帰るって……なんでそうなるんですか?」

「えぇと……ま、まぁ。カインさんのこれまでの実績から導き出された推察、とだけ」


 どう答えればいいか、必死に考えたのだろう。

 ある程度、オブラートに包まれてはいるものの、その一言だけで、これまでカインがどんな態度で依頼を受けてきたのか、手に取るようにわかる。

 能力としてはそこそこ優秀なのだろうし、何より、道を外れるほど性根が腐っているわけではないのだが、パーティを組むことに再び不安を覚えてしまう。

 覚えてしまうのだが、一度はパーティを組むことを受け入れたし、今後も一緒に行動していくことを約束したのだ。

 どこまでも、心配だけれど。本当に大丈夫かものすごく不安に駆られるけれども。ここでパーティを組んでおかなければよかったと、後悔することになるような気がまったくしないわけではないのだが。

 それでも、一応はパーティメンバーになるのだ。

 過去の行いについては、ある程度、目をつむることが肝要というものだろう。

 自分に向けてそう言い訳をするハヤトだったが。


「あ、あはははは……」


 乾いた笑みを浮かべてしまっていた。

 ともあれ、こうして依頼を達成したことはマークス本人が認めている。

 依頼を達成できたという事実が虚偽ではないことは、受付嬢も認めざるを得ない。

 これまでのカインの実績、というもののせいで、どこか納得できなさそうではあるが。


「では、報酬をご用意しますので、少々お待ちください」


 だからといって、報酬を渡さないということはできないと思っているようで、カウンターを離れ、報酬を用意しに奥へと下がっていく。

 その背中を見送り、呼び出されるまで座っていようと考えたハヤトは、カインがどこにいるか、視線を巡らせる。


「どうしたのさ?」

「ん? いや、カインはどこにいるのかなと思ってね」


 突然、周囲を見回し始めたハヤトに、肩に乗っかっている相棒が問いかけてきた。

 問いかけられた本人は、アミアを肩に乗せたまま、耳の後ろや首の付け根あたりを指でなでながらそう返す。

 久方ぶりにリラックスすることができているためか、もっとそこを強く、とかもう少し右のほうなど、ハヤトの指使いに要求を出してくるアミアを少し微笑ましく思いながら、要望通りに指を走らせていると。


「ハヤトさん、アミアさん」


 受付嬢がハヤトを呼び出す声が聞こえてきた。

 アミアを撫でまわす指をここで止めて、ハヤトはまっすぐにカウンターへと向かっていく。


「今回依頼の報酬はこちらになります」

「ありがとうございます」


 お礼を言いながら、差し出された報酬を受け取るハヤトとアミアの目には驚愕の色が浮かんでいる。

 いつもは単独でも十分達成できる依頼しか受けてこなかったが、それは裏を返せば、つつましく暮らしていく分には問題のない程度の報酬しか受け取っていなかったということ。

 今回、二人の目の前にある報酬は、今まで受け取ってきた報酬の倍以上はある。


「……依頼の規模が違うだけで、かなりの差が出るんだねぇ」

「正直、これは僕もびっくりしてるよ」

「お二人はいままで単独依頼ばかりでしたからね。驚かれるのは当然かと」


 二人の反応に、受付嬢は温かな微笑みを浮かべながらそう返す。

 だが、いくら高額な報酬を受け取ったからといって、アミアはそう簡単に気が大きくなるような性格をしていない。


「け、けど計画的に使わないと、無一文になっちゃうかもしれないよ!」

「そ、そうだな! 慎重に、しっかり吟味して使っていかないとな!!」

「そうそう! 特にこれからはカインっていう金食い虫候補がいるんだからね! 今まで以上にしっかり管理していかないと!!」


 一応、今まで財産管理をしてこなかったわけではない。

 だが、予想以上の出費が出てしまったり、宿代の支払いができなくなるかもしれない不安に駆られたこともあった。

 一人と一匹でさえこうだったのに、さらにギャンブルや酒、女にだらしがなさそうなカインがパーティに加わるのだ。

 これまで以上に気を引き締めて、財産管理を行う必要がある。


「え、えぇと……頑張ってくださいね?」


 その気合の入りように、受付嬢は引きつった笑みを浮かべながら、二人を応援するのだった。

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