11、出立と突然の提案
トネリコ村滞在予定、最終日。
マークス率いる専属の護衛冒険者と、急遽雇われたハヤトとカインは村の門に集合していた。
「お見送りいただき、ありがとうございます。アレックス村長」
「いやいや。こちらこそ、いつもありがとうございます。マークスさん」
「では、また訪問いたします」
「えぇ。その時をお待ちしております」
マークスとアレックス村長がそんな会話を交わし、一向はトネリコ村を出発する。
隊列はトネリコ村を訪れた際と同じなのだが、斥候役として前に出ていたはずのカインが、なぜかハヤトの隣を歩いていることが、唯一の違いだった。
「カイン、一つ聞きたいんだけど」
「んぁ? なんだよ?」
「なんで斥候の君がこっちにいるんだ?」
「いいじゃねぇか、どこにいたってよ。別にマークスさんに迷惑かけてるわけじゃねぇし」
「いや、それはそうだけど」
ハヤトの問いかけに、不貞腐れたように返すカインに若干の違和感を感じ、ハヤトは思考を巡らせる。
少しの間、カインの変化の原因を考えていると、ある可能性を思いつき、口に出してみた。
「もしかして、専属雇用してもらえないからって不貞腐れてる?」
「ばっ?! そんなわけねぇだろ!!」
ハヤトの問いかけに、カインは少し慌てた様子で返してくる。
どうやら、図星だったらしい。
だがカインの反応は、ハヤトが予想していたものだったらしい。
「まぁ、どうでもいいけど」
「なんだよ、それ……」
淡々としているハヤトの様子に、カインはげんなりとした様子でため息をつく。
だが、変に追及されることがない上に、からかってくるような様子もない。
そのことは、少しばかりカインの心の負担を軽くしていた。
そんなやり取りがありながら、一向は何事もなく進み、日が暮れ始めた頃、野営に適した場所を見つけた斥候に案内され、準備することとなる。
帝都からの往路である程度慣れたためか、ハヤトはほかのメンバーの役割を把握しつつ、自分が何をし、どう動くべきかを把握できていたため、心なしか手早く設営が終わり、料理もできあがり、それぞれの場所で食事をとり始めていた時。
「よぉ。ここ、いいか?」
「構わないぞ? というか、パーティなんだから遠慮はいらないと思うけど」
「なら、遠慮なく」
カインが相席を求めてきた。
パーティを組んでいるため、別に遠慮する必要はないため、普段のカインならば許可を求めることなく、勝手に横に座っている。
だが、なぜか今回、カインはハヤトに相席を求めてきた。
その奇妙さに、何かあるのではないかと、ハヤトだけでなくポシェットの中に隠れているアミアも自然と身構える。
その様子に、カインは思わず吹き出し。
「なぁに身構えてんだよ? 別に取って食いやしねぇよ」
「いや、あの横着で横柄で酒と金にだらしない、不謹慎な冒険者の典型例みたいなお前がわざわざ許可を求めたんだぞ?」
「警戒しないほうがおかしいよ。というか、カイン、何か拾い食いしたんじゃないだろうね?」
「……言い返せねぇのが悔しい……」
さすがに自分の性格はある程度、把握しているようだ。
アミアの言葉に言い返すことができず、カインはうなだれてしまった。
だが、カインはさほど打たれ弱いわけではない。
数分とすることなく、まるで何事もなかったかのように食事を始め。
「なぁ、ハヤトはこの依頼が終わったらどうするんだ?」
食べながらそんな話題を切り出してきた。
「ん~……まぁ、二、三日は休んでまたギルドの依頼を受けるかな?」
「その間に、防具や道具を新調したいしね」
「ふ~ん?」
「そういうカインはどうするんだ? マークスさんに雇ってもらうって目論見は外れたんだろ?」
「……痛いとこ突っついてくるじゃないか、ハヤト」
「そんなことはどうでもいい。で、どうすんだ?」
カインの言葉を容赦なく一蹴し、ハヤトは問いかける。
嫌味のつもりだったのだが、まったく意に介していない様子に、カインは面白くなさそうにため息をつき、ハヤトの質問に答えた。
「そうだなぁ。まぁ、お前さんらと行動するってのも面白そうだから、そうすっかなと思ってるが」
「……え?」
まさかの言葉に、ハヤトは目を丸くする。
おそらく、ポシェットの中に隠れているアミアも同じ反応をしていることだろう。
「……んだよ? 俺と行動するのがそんなに嫌なのか?」
「あぁ、いや……そういうわけではないんだけど」
「じゃあ、どういうわけだよ?」
「いやぁ、カインって一匹オオカミというか、特定のパーティは組まないぜ! とか言いそうな性格してたから」
より正確には、金儲けの匂いがする依頼を受けるパーティを渡り歩く。印象が悪くなる言い方をすれば、寄生虫のようなスタイルだ。
今回の護衛依頼で急遽パーティを組むことになった理由も、カインが一刻も早く収入を得なければならないことと、専属雇用される可能性があることに気づいたから。
それらがなければ、カインはパーティを組もうとはしなかっただろう。
だが、それがどういう風の吹き回しか、突然、パーティを組みたいと言ってきているのだ。
何かおかしいと感じないわけがない。
「まぁ、言った通りだよ。お前さんらと組んでた方が、この先、なんかでかいことや面白いことにぶち当たりそうな気がしてるってだけだ」
「……随分とまぁ、冒険心にあふれているというか」
「それでこその冒険者だろ?」
アミアの言葉に、カインはにっかりと笑いながら答える。
この回答を聞く限り、カインは本気でパーティを組みたいと思っているようだ。
どうするか、ポシェットの隙間から覗いているアミアの瞳に視線を送ると、アミアは少しばかりうなり。
「僕としては心強いけど、ハヤトはどうする?」
「まぁ、斥候役がいるのはありがたいと思うよ?」
実際、そろそろ一人と一匹では心もとないと感じてきたころだ。
だが、いきなりほかのパーティに入れてもらうより、多少でも気心が知れている相手と組んだ方がアミアとしても精神的に楽だろう。
もっとも、カインの性格と言おうか、いい加減な気質だけはどうにかしてほしいと感じていることも事実なのだが。
「なら、決まりだな! これからよろしく頼むぜ」
二人の回答を聞くよりも早く、カインはさっさとパーティを結成するものと決めつけるように返してくる。
これはもう止められない。
そう感じたハヤトとアミアだったが、ひとまず。
――まぁ、たぶんきっとおそらく頼りになる斥候が仲間になったと思っておこう
――性格に難ありだけど、たぶんきっとおそらく頼りになる斥候が仲間になってくれるんだから、ここで難色を示さないでおこう
似たようなことを考えながら、カインと本格的にパーティを組むことにしたのだった。
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