5、出発早々、気合を入れる斥候
翌日。
ハヤトとアミア、そしてカインの二人と一匹は、護衛対象者が指定した帝都の城門前に来ていた。
「遅っせぇなぁ。もう時間じゃないのか?」
「僕らが少し早く来ただけだよ。約束の時間まではまだ少しあるよ?」
「だぁから、まだ余裕があるから寝かせてくれって言ったじゃねぇかっ!!」
自分たちが早く来すぎているだけであることを指摘したアミアに、カインは怒鳴り散らした。
カインの言う通り、依頼主を待たせるわけにはいかないからという理由で、アミアとハヤトにベッドの中でまどろんでいたところを無理矢理たたき起こされたことを思い出し、苛立ちが爆発したらしい。
「けど、あのまま放っておいたら、カインはいつまでも寝てたんじゃないか?」
「まったくだよ。そうなったら、君の信頼は再び地の底どころか、冥府の底まで落っこちることになるだろうね? そうならなかったことをむしろ感謝してほしいくらいだけど?」
「うぐっ……」
これ以上、ギルドからの信頼が落ちることは、カインとしても避けたいところ。
それをわかっているため、カインはそれ以上、文句を言うことができなくなってしまった。
口やかましい文句が止まったことで、この言い争いに勝利したアミアは得意げに胸を張り、ハヤトはその態度に苦笑を浮かべる。
そんなやりとりをしていると、背後から荷馬車の音に混ざって数名の足音が聞こえてきた。
視線を音がした方へ向けると、身ぎれいではあるがそれなりの修羅場を潜り抜けてきたことを感じさせる数名の男女に囲まれ、感じのいい口元にひげを蓄えた壮年の男が手を振りながら声をかけてくる。
「あなた方がギルドから派遣された冒険者ですか?」
「はい。僕はアミア、こっちは相棒のハヤト。そんでもってこっちの軽そうなのがカインです」
「これはご丁寧に。私は今回、依頼をさせていただきました、マークスと申します」
「先ほど紹介いただきました、ハヤトです。今回はよろしくお願いします」
ハヤトは改めて名乗りながら、マークスと名乗った男が伸ばしてきた手を取る。
その背後では、アミアとカインが言い争いをしていたのだが、パーティ結成を決めてから何度も起きていたため、ハヤトはもう止める事をあきらめたらしい。
マークスが困惑しながら、止めなくていいのか問いかけてきたが。
「あれが二人のコミュニケーションの取り方なので、お気になさらず」
「は、はぁ……では、このまま出発しても大丈夫なのでしょうか?」
「えぇ、こちらも準備はできています」
「では、出発しましょう」
マークスがそう話すと、もともと同行していた冒険者たちがマークスと馬車の周囲を囲むように広がる。
その様子を見たハヤトは、まだ喧嘩を続けているカインに声をかけ、出発を促す。
さすがのカインも、ここで脱落するわけにはいかないとわかっていたのか、まだ文句を言い足りない様子ではあったが、ハヤトの言葉に従い、アミアとの言い争いを一時中断し、歩み出したのだが。
「ちと、先に行くぜ」
「え? なんで?」
「斥候役は多いに越したことはないだろ? それに、ちっとはいいところ見せないとな」
そう話すカインの視線の先には、御者台に腰掛けて馬に指示を出しているマークスの姿があった。
雇い主にちょっとでもいいところを見せて、報酬を上乗せしてもらえるよう、交渉をするつもりらしい。
あるいは、継続的に指名してもらえるよう、今から印象を強く持ってもらおうとしているのか。
いずれにしても、カインにしては珍しく、やる気を出しているようだ。
「わかった。用心してくれよ」
「任せろって。ほんじゃ、後でな」
ハヤトに笑みを向けながらそう言うと、カインは静かに姿が消え、一拍遅れて街道の脇に生えている木の枝が揺れる音がした。
どうやら、ほぼ一瞬で枝に飛び移ったらしい。
――普段、結構おちゃらけてるからわからなかったけど、もしかしてカインって結構な実力者なんじゃ?
「もしかして、カインって実は実力者だったりするのかな?」
ハヤトが抱いたその感想と同じものをアミアも抱いていたようだ。
いつもなら肩に乗っているのだが、今回は見ず知らずの冒険者が多数いるためだろうか、服の中に隠れ、周囲を警戒しているアミアがひそひそとハヤトに語りかけてくる。
服の中にアミアがいることを気取られないよう注意しながら、ハヤトはアミアの言葉に同意を示す。
カインが離れたことで、ハヤトとアミアは二人きりの状態になったのだが、そのやり取り以降、一言も話さず、周囲を警戒しながら歩き続けた。
道中、特に魔物や盗賊の襲撃を受けたり車輪がぬかるみにとられたりするようなトラブルは発生せず、順調に進んでいく。
周囲の冒険者との会話もなく、しばらく進んでいくと、突然、馬車が停止し、マークスが御者台から顔を出して声をあげる。
「皆さん、ここらで一度馬を休めます! 皆さんも一度、ここで休憩してください!」
「なら、飯にするか」
「おーい、薪を拾ってきてくれ」
休憩の言葉が聞こえた瞬間、冒険者たちは手際よく準備を始める。
ハヤトもそれに続いて、手伝いを始めるが。
「おい、あんた。あんたの相方、どこ行った?」
冒険者の一人が姿を見せないカインの行方をハヤトに問いかけてきた。
その問いかけに、ハヤトは正直に返す。
「え? 森の方へ斥候に出てから、戻ってきてませんが」
「そうか……まぁ、無事ならそれに越したことはないが。すまんな、変なこと聞いて」
「いえ。まぁ、彼も仕事中でしょうから、我々は我々で食事にしましょう」
謝罪してくる冒険者に対し、ハヤトは穏やかに返し、昼食の準備を始める。
パーティメンバーに対して、やけにそっけないような気がした冒険者ではあったが、そういう付き合い方もあるのだろうと納得し、ハヤトと同じように準備を始めた。
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