4、それなりにお金がかかる弱点を補う方法

 ハヤトに関し、色々と聞きたいことがあるのだが、なかなか聞き出せずに悶々としているカインとともに、ハヤトとアミアは魔道具店に入る。


「いらっしゃいま……あ、ハヤトさんとアミアさん。こんにちは」

「こんにちは。いつものをお願いしたいんだけど、あるかな?」

「ありますよ。少々お待ちくださいね」


 店内で商品棚の整理をしていた店員と思われる少女は、にこやかに返事をして店の奥へと姿を消した。


「なぁ、そろそろ教えてくれてもいいじゃねぇか。お前、何を隠してるんだよ?」

「ん? あぁ、そういえばまだ話してなかったっけ」


 店員が消えて、この場にハヤトとアミア、カインの三人しかいないためか、カインはハヤトが抱えている秘密を聞き出そうと問いかけてくる。

 パーティを組むことになる自分はともかく、店員や店を訪れた客に聞かれるのは不愉快と考えてのことだろう。

 一応、それなりに気遣いはできるらしい。

 そんなカインの意外な一面を、口に出すことはしなかったが、感心しつつ、ハヤトは自分が抱えている秘密を切り出した。


「俺、土属性以外の魔術を使えないんだよ」

「え? いやいや、さすがに初級魔術は使えるだろ?」


 最初の魔術とは、火属性の魔術ならば『火球ファイアボール』、水属性ならば『水弾アクアバレット』といったように、各属性で一つは存在している魔術だ。

 これらの魔術は最も扱いやすく、魔術師として修業を始めた人間が最初に修得するために『初級魔術』と称されている。

 魔術師は自分の属性の得手不得手を確かめるという意味で、必ずすべての属性の初級魔術を習得するため、一つの属性の魔術しか扱えないということはほぼないのだが。


「本当だよ?」

「まじか」


 ハヤトはその例外にあたるらしい。

 衝撃の告白に、カインの悲鳴が店内に響く。


「あんだってぇぇぇぇっ??!!」

「うるさいよ。お店に迷惑だから、ちょっとは静かにしてよ」

「いや、驚くだよ普通! 魔術師のはずなのに他の属性も使えないってどういう……」

「お待たせしました~」


 ハヤトが土属性以外の魔術が使えない理由を問いかけようとした瞬間、店の奥から先ほどの店員が大量の巻物を抱えて姿を見せた。

 その巻物の量に、カインは再び驚愕の悲鳴を上げる。


「って、なんだそりゃぁっ?!」

「えっと、見ての通り魔術巻物マジックスクロールですけど?」

「いやいや、その量はありえねぇだろ?! 一体、どれだけの金つぎ込んでんだよ?!」


 魔術巻物に限らず、魔術師が作成した魔法具はそれなりの値がつけられている。

 店員が抱えている魔術巻物も、質によってピンキリはあるものの、一冊で小さな町で一か月は働かずに生活することができるほど。

 それが両腕で抱えなければならないほどの量があるのだ。

 普段から資金繰りに追われているカインからすれば、ハヤトに対する疑問など吹き飛ぶほどの衝撃を受けてしまったことは想像に難くない。

 叫ぶなという方が無理な話ではある。

 そんなカインの心中を察してか。


「やっぱり驚かれますよね?」


 苦笑を浮かべながら、店員がカインに問いかけるが。


「けど、これ全部私や店主のお弟子さんが練習で作ったものなので、これだけの量でもそんなに高くないんですよ?」

「へ? そうなの??」

「えぇ。けど、あくまで練習で作ったものですから、うまく作動しないこともあるんですよ」


 先述の通り、魔法具にも品質というものは存在する。

 この道何十年というベテランが作成したものならばともかく、魔法具作成のための知識は教えられたが作成は初めてという初心者が作成したものは、うまく作動しないがほとんどだ。

 だが、ハヤトはあえて、その練習作品を購入している。


「なんでまたそんなもんを」

「まぁ、たしかに作動しないものも中にはあるけど」

「僕がいるからどうにか修正して使えるようにできるから」


 小さな体で胸を張りながら、アミアがカインの疑問に返す。

 どうやら、魔術巻物に描かれている魔法陣の不備を見つけ出し、修正することでうまく魔術が発動できるよう、手を加えているらしい。


「それって、結構文句言われたりすることなんじゃないの?」

「普通のお店だったら、そうですね」


 カインが言うように、自分が提供した道具を『このままじゃ不都合だから』と勝手に手を加えられるということは、作成者としては面白くないことだろう。

 だが、店員は。


「店主は『むしろ粗悪品を渡しているようなもんだから、修理して扱えるようにしてくれているだけありがたい』とおっしゃってましたし、お弟子さん方の貴重な収入源ですから、特に文句はないようですよ?」


 と、むしろありがたいことであると返していた。


「いやいや、いいのかそんなんで?」

「まぁ、いいんじゃないでしょうか? ハヤトさんとアミアさんも大量の魔法具を安く入手できるし、作成したお弟子さんたちはわずかでも収入を得られるし、店主はお弟子さんたちにたくさん練習させることができますから」


 カインの言葉に、店員はにこやかに返す。

 どうやら、作成者も販売者も満足しているようだ。

 その様子に、カインはどこか納得しきれない様子ではあったが、ひとまず引き下がることにした。

 その後、ハヤトが魔術巻物を購入し終わると、カインはハヤトたちと一緒に店を出て、拠点としている宿へと戻ったが。


――結局、あいつから大事なこと聞きそびれたな……まぁ、明日からの道中で聞けばいいか


 ハヤトが土属性以外の魔術を使えないという事実について言及しようとしていたことを思い出したが、それを聞くことは先延ばしにして、そのまま眠りに就くことにした。

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