2章、軽薄な冒険者カイン
1、変な冒険者、再び
ハヤトとアミアがグランバレアに到着し、一週間。
一人と一匹はそれなりに功績をあげてきたことで、周囲にも徐々に認識されるようになってきていた。
「このあたりのことも、だんだんわかるようになってきたね」
「うん。薬草の群生地とか、魔物の生息域や縄張りの範囲とかもだいたい頭に入ったと思う」
「そろそろ少し大きい依頼を受けてみてもいいんじゃないかな?」
今のところは、薬草や装飾品などに必要となる素材や食材の採取、魔物の討伐といった単独でも安全にこなすことのできる依頼しか受けていない。
当然、報酬はそこまで高くないのだが、それなりに数をこなしているため、一日の食事と宿代には困らない程度の収入を獲得できている。
だが、武器や防具のメンテナンスや衣服を新調することについては、もう少し収入をあげておきたいというところだ。
そのあたりのことを含めて、アミアはもう少し報酬が高い依頼を受けてみることを提案しているのだろう。
「けど、そういう依頼って、たいていはパーティを組んで挑むことが推奨されてるよな?」
「そうだねぇ……まぁ、僕はハヤトとパーティを組んでるつもりだけど」
「俺もそれは同じだけど、周囲がねぇ」
「……なんで人間はさ、大きさで判断するのかね? 僕だって霊獣なのに」
ジトっとした目で遠くを見ているアミアに苦笑を浮かべながら、ハヤトはアミアをなだめる。
依頼をこなし続けたことで、アミアが霊獣であることは、グランバレアのギルド内でも認識は去れるようになった。
だが、いまだにハヤトは単独で依頼をこなす冒険者として認識されている。
理由としては、そもそも霊獣は冒険者として扱われていないということもあるが、何よりもアミアの体躯が小さいという、外見で判断しがちな人間によくあることだった。
もっとも、ハヤト本人は。
「けど、俺はアミアの耳と鼻と危険察知力はすごいと思うし、結構、あてにしてるよ?」
アミアの能力の高さを何度も実感しているため、周囲の評価などまったく気にしている様子はなかった。
「けど、僕個人としてはやっぱりここいらでいままでの評価を覆したいよ」
「てなると、やっぱり大きい依頼を受けるのが手っ取り早いか」
「そうだね。となると、行商人の護衛か希少な素材採取か……」
「けど、やっぱりパーティで受諾することが推奨されてるな」
「そうなんだよねぇ……」
高額の報酬が支払われる依頼というものは、難易度も高く設定されている。
単独で達成できることは難しいため、パーティを組むことが推奨されているのだが、現段階でハヤトたちとパーティを組んでくれるような単独冒険者がいない。
どうしたものかな、と一人と一匹が頭をひねっていると。
「お? おまえらもその依頼受けるのか?」
「あぁ、いや。どうしようか考え中」
背後から声をかけられ、答えながら振り返る。
そこには、いつだったか初対面であるにもかかわらず、酒を奢ってもらおうとしていた軽薄そうな冒険者がいた。
「ふ~ん? 結構慎重なんだな?」
「そういうあんたは?」
「俺か? 俺は受けるぞ。そろそろ稼いでツケ払わねぇとマスターから強制労働命じられそうでさ」
「……どんだけ働いてないんだよ」
「さぁ? まぁけどどうにかなるんじゃね?」
ハヤトの心配そうな言葉に対し、軽薄そうな冒険者はへらへらしながら依頼が記された紙を手に取り、カウンターへと向かった。
意気揚々としているその背中を見送りながら、ハヤトは単独でも受理可能な依頼の中でも比較的報酬が高いものはないか、探していると。
「なんでだよっ?!」
先ほどの軽薄そうな冒険者の悲痛な叫びに、思わずハヤトを含め、ギルドに残っている多くの冒険者がカウンターの方へと視線を向ける。
「ですから、この依頼は最低二人以上のパーティでなければ受理するわけには」
「そこをなんとか! 今月中に支払わねぇとマスターからまた強制労働させられちまうんだよ!!」
「とはいいましても……というか、それってあなたが普段からぐうたらしてるからですよね?」
必死の様子で受付嬢に頼み込むも、辛辣な一言に軽薄そうな冒険者は撃沈してしまった。
どうやら、マスターからの強制労働というものはよほどの内容らしい。
少しばかりの同情を覚えはするが、受付嬢の言う通り、こつこつと依頼をこなして堅実に過ごしていればこんな事態に陥ることはなかった。
それをわかっていたのかどうかは定かではないが、ともあれ、こうなる事態を招いた原因は彼自身にある。
「ま、俺たちにはどうすることもできないな」
「因果応報ってやつだね。僕らが付き合う義理はないし、僕らは僕らで依頼を探そうか」
冷酷ではあるが、ハヤトとアミアは冒険者を見捨てるという選択をして、再び掲示板に視線を戻したのだが。
「だったら、一人誘って臨時パーティを組んでもらえば問題ないんだな?」
軽薄そうな冒険者のその一言が聞こえてしまい、ハヤトとアミアは嫌な予感がした。
そして、その予感が的中したことを告げるように。
「なぁ、あんた! 俺とパーティを組んでくれないか?!」
気配を感じさせることなく近づいてきた軽薄そうな冒険者に肩をつかまれ、ハヤトとアミアはそんな提案をされたのだった。
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