2、パーティ結成は突然に

 軽薄そうな冒険者から肩をつかまれ、臨時パーティを組んでほしいと頼まれたハヤトとアミアだったが。


「「断る!」」

「即答?! 普通ここは『終わったら一杯奢れよ』とか言って申請しに来るのが流れってもんじゃないのかよ?!」

「いや、何だよ流れって。というか、俺とあんたはそこまでの仲じゃないし、そもそも報酬独り占めしそうだから嫌なんだよ」

「理不尽っ?!」

「あ、あのぉ……一つよろしいでしょうか?」


 軽薄そうな冒険者とハヤトが繰り広げる漫才のようなやりとりに苦笑を浮かべながら、受付嬢が二人に声をかけてくる。

 二人はその呼びかけで、ひとまず言い争いをやめ、受付カウンターまで向かった。


「この場所での口論はご遠慮ください。ほかの方の迷惑となりますので」

「あ……す、すみません」

「いやけどよぉ」

「あら、カインさん。何か文句でも?」

「い、いえ……」


 素直に謝罪するハヤトに対し、抗議しようとしていた軽薄そうな冒険者に、受付嬢はにこやかな笑みを浮かべ、問いかける。

 受付嬢にカインと呼ばれた冒険者は、その笑顔に気圧されたのか、若干身を引きながら、それ以上、抗議することをやめた。


「それとハヤトさん」

「え? あ、はい」

「ハヤトさんもそろそろパーティを組んで仕事をしてみてはいかがでしょうか?」

「俺もそれは考えてるんですが」

「なら、カインさんと一緒にこの依頼を受けていただくこともできますよね?」


 受付嬢はハヤトににこやかに笑みを浮かべながら問いかける。

 元が可愛らしい顔つきであるため、その笑みも愛らしいと感じるものだったのだが。


――目が笑ってないんだよなぁ……『受けなかったらどうなるか、わかってますよね?』って顔してるよ……


 別にやましいことは何もないのだが、向けられている笑顔と威圧感に負けてしまい、ハヤトはカインの襟首をつかんでずるずるとカウンターの前まで引きずっていき。


「わかりました。その依頼、非常に、ものすごく、本当に、遺憾ながら! こいつと一緒に受けさせていただきます」

「おっ? やっとその気になってくれたか!!」

「勘違いするな」

「そうそう! 僕たちがこの人に何されるかわからないから受けるんであって、気を助けるためじゃないよ!」


 一緒に依頼を受けてくれることにカインは歓喜に満ちていた笑みを浮かべるが、一方のハヤトとアミアはジトっとした視線を向けていた。

 その反論は当然、受付嬢も聞こえている。

 自分が焚き付けたことではあるのだが、対極的な二人と一匹に態度に苦笑を浮かべつつ。


「ま、まぁ、どちらにしても、受理していただきありがとうございます」


 と、マニュアル通りの返答をしていた。

 ここまできたら、もう腹をくくるしかない。

 そう思ったハヤトとアミアはため息をつき、受付嬢の方へ視線を向けて、具体的な内容を問いかける。


「それで、依頼の内容ってどんなものなんですか?」

「依頼内容は行商人の護衛です。ここグランバレアから数日離れた村までの道中を護衛していただくことになります」

「え……それって、僕らだけじゃ人数足りないんじゃない?」


 依頼の内容を聞き、アミアが心配そうに受付嬢に問いかけた。

 行商人の規模にもよるが、普通、護衛は三人以上で荷馬車と依頼主を囲み、周囲の警戒や先行しての危険察知、盗賊や魔物による襲撃への対処を行うものだ。

 だが、今回の人数は二人と一匹。

 アミアの聴覚と嗅覚、さらには本能的な危険察知力ならば、普通の人間二人以上の働きができるだろうが、それでもいざ戦闘となった時を考えると心許ない人数だ。


「それなら問題ありません。今回の依頼は、身もふたもない言い方をすれば、数合わせですから」


 受付嬢曰く、今回の依頼を出している行商人には、専属で護衛を請け負っている冒険者たちがいるのだが、そのうちの数名が大けがのために休養を余儀なくされた。

 そのため、次の村に向かう間だけ、冒険者を募ることにしたそうだ。

 なお、働きによっては報酬金を追加するだけでなく、専属護衛として正式に雇用する可能性もあるという。

 その話を聞いたカインは目を輝かせ。


「まじかっ! こりゃ本気出していかないとなぁ!!」


 と、先ほどよりもやる気を出している様子だ。


「ちなみに、その村って?」

「少々お待ちください……あぁ、トネリコ村とありますね」

「へ?」

「え?」


 受付嬢の口から告げられた村の名前に、ハヤトとアミアは驚き、変な声を出してしまった。

 一人と一匹のその様子に、受付嬢がぽかんとしていると、ハヤトはアミアにひそひそと声をかける。


「どうする? そのうち顔出すって約束しちゃってたけど」

「すっかり顔出さないでいたもんね。まぁ、ここからだと遠いから仕方ないけど」

「ならいい機会かもしれないし」

「そうだね。受けてみて正解だったかも」


 ひそひそと話す二人の脳裏には、数週間ほど前に立ち寄ったトネリコ村に住む少女の顔が浮かんでいた。

 村を出るときに、また遊びに行くと約束していたのだが、その機会はなかなかなく、かなり先延ばしにしているような状態だ。

 明確な期日を定めたわけではないが、そろそろ顔を出しておこうか、という気持ちが湧いてきていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る