第2話 起原

影のある少年「ようこそ、我が小さき研究室へ。本来であれば誰も中に入れないようにしてあるはずだが、無意識にお前たちの魂を通り抜けられるように結界の設定をしていたようだな。罠が一つも発動しない」


美しい少女「へー、ここがあなたの研究室なんだ。わっ!ムラマサ!ムラマサがある!」


快活な少年「うぉ!?かっけー!!なんだここ!壁紙まで黒い!どくろ型のろうそく立てなんて初めて見た!」


無表情の少年「結界…?いや、そんなもの検知できなかったが。力が弱すぎて検出できなかったのか?」


影のある少年(フフフ……みんな驚いているようだな。この部屋を作るのに苦労した甲斐があったというものだ)


影のある少年「さあ、みんな、テーブルの前に座るんだ。これから円卓会議を始めるぞ」


ガチャリ


美人ママ「あらー、シンヤがお友達を連れてくるなんて初めてで嬉しいわ。これ、おやつとジュースね」


影のある少年「母さん、それは俺が運ぶっていってただろ、入ってくんなよー」


美しい少女「お世話になります」


快活な少年「おぉぉ!ありがとう!」


無表情の少年「ありがとうございます」


美人ママ「皆さん、どうかウチのシンヤをよろしくおねがいね」


影のある少年「もういいから、さっさと出て行ってくれよ、今から大事な話をするんだ」


美人ママ「はいはい、わかりましたよ。ウフフ……」


パタン


影のある少年「コホン、さてそれでは……先にジュース入れるからコップ回して」


美しい少女「いいママさんじゃない」


快活な少年「おやつもすげぇ!」


無表情の少年「さて、そろそろ話を戻そう。お前たち、もう一度名乗りなおすんだ。こちらの名前はとかく覚えにくいものだろう。本来の名前で呼び合うわけにもいかないしな。下の名前だけ名乗りなおそう。ボクはイチロウ」


影のある少年「シンヤ」


美しい少女「アミ」


快活な少年「タカアキ、だ」


イチロウ「これでこの世界でのボクたちの存在が確定された。次に過去の世界の再現だな。まずはこのルールブックを配っておこう」


シンヤ「おっと、ずいぶんと用意がいいじゃないか。プレイヤー用簡易マニュアルだな」


アミ「これ、テーブルトークロールプレイングゲーム、通称TRPGのルールブックね。どこのものなの?」


タカアキ「お!TRPGか!オレやってみたかったんだよ!」


イチロウ「独自に作ったものだ。ボクたちの力は通常のソレでは合わないことが多すぎる。このルールブックに違反する行動もとっていたが、いい指標にはなるだろう」


アミ「え?自作できるものなの!?すごい……」


イチロウ「ルールブックを読みながら少し待て。キャラクター表を用意する」


タカアキ「うへぇ……細かいルールばっかりだな。覚えられねーぞ?」


シンヤ「問題ない、ゲームマスターが全てを把握しているものだからな。ルールから外れればすぐ教えてくれるはずだ」


アミ「にしても、イチロウ、文字書くの早いわね。なに、その速度。尋常じゃないわね」


イチロウ「できた。こっちはキャラクター表だ。全員の分を全員に配っておく。ボクたちはお互いの力をすぐ理解して、連携は当然のようにやっていたからな」


タカアキ「キャラクターの顔の欄が描かれてないけど、ここは勝手に書いていいのか?」


イチロウ「各自描いておいてくれ。後で集めて清書しておく」


アミ「待って!ワタシ!ワタシがみんなの分を全部描くから。全員分が手元にあるからそこに描くね。ちょっと待ってて」


タカアキ「オレは魔獣王だからな、格好よく描いてくれよな。」


シンヤ「フン、自分の分くらい自分で描けるさ。待ってろ」


カキカキ


アミ「できたっ!どう?全員分よ?イメージに合っているでしょ?」


シンヤ「俺のよりうまい……駄目だ。俺のは消すか……」


アミ「はい、キャラクター表は自分の分をとってね。返した後でいいから、絵はこのままコピーしてくれる?」


イチロウ「大丈夫だ。問題ない」


タカアキ「うっほ。かっこいいなー。しかもなんか特徴捉えてて顔が似てる気がする」


アミ「ふふん。絵は得意なのよ」


イチロウ「舞台はラグナロックの最終局面より前、全員がそろったところから始めよう。ボクの記録は君たちの記憶をすべて残しているわけではない。あくまでボクが体験したことのみ記録されている」


シンヤ「だとすると、それより少し前から始めたほうがよくないか?どこでどう会ったのか聞いていないのか?」


イチロウ「お前たちより聞いた記録がある。最初は覇王邪神眼と女魔王が闘い、意気投合したと言っていた。魔獣王は空腹で野垂れ死にそうなところを助けられた、だったか」


タカアキ「なんでオレそんな理由で倒れてるの!?」


女魔王「フン、いいでしょう、では、闘っているところから始めるのね?イニシアティブはワタシの方が上、ワタシからの先制攻撃。フレイムアローを打つわ。あ、待って、名称変更ルールがあるわね。フレイムアローじゃ味気ないし、不死鳥乱舞フェニックスウェーブに名称変更。鳥型の炎が覇王邪神眼を襲うわ」


覇王邪神眼「魔法抵抗する。レジスト、失敗。俺が魔法をくらうだと!?おい、なんだこのクリティカル発生値は!ほぼクリティカル確定じゃないか!くっそ、クリティカルヒットだ。どうしようもないな。俺からの攻撃、邪神眼開放。接近戦だ、特技は……一閃?なんだこりゃ。名称変更。次元断裂ディメンションブレードを発動する」


女魔王「緊急回避!失敗!なによこれ!?一発でこんなにもダメージ入るの!?邪神眼発動時のブースト設定ちょっとおかしいんですけど。あぁっ!もうっ!接近されたままじゃ不利だわ。トリプルブースト発動。これ発動条件厳しくない?いいけど。ボムを、いえ、名称変更。指定爆破アンカーボムを発動と共に上空へテレポート。そのまま上空からサンダー?名称変更。雷光招来ライトニングダンス


覇王邪神眼「なにっ!トリプルブーストしたら同時に魔法を3つ放てるのか!?二つとも魔法抵抗だ!おっ!やった!クリティカルレジスト!指定爆破アンカーボムは無効化だっ!!雷光招来ライトニングダンスのレジストは……通常ダメージだな……って、ちょっと待て、お互いの攻撃力が高すぎる。二人とも次の攻撃で抵抗に失敗したら死ぬじゃないか。やってられるか、こんなの。闘うのは一旦やめだ、話がしたい」


女魔王「いいでしょう。今回は引き分けにしておいてあげるわ。次はないわよ」


覇王邪神眼「待て待て、それじゃどちらかが死ぬまで闘うのと変わらないじゃないか。なんでいきなり襲ってきたんだ。その理由を聞かせろ」


女魔王「それは……先制攻撃できたから?違うわね……そう、あなたが魔族じゃないからよ。魔族はすべからくワタシの庇護下に入るけど、あなたは違う。種族の生き残りをかけて闘うのがラグナロックなのだから、魔族以外は全部敵。わかったかしら?」


覇王邪神眼「その理論だと俺は俺以外の生物は全て敵ってことになるのだが?それは困る。俺は覇王邪神眼の力で全ての種族を我が庇護下に置き、ラグナロックの原因を叩き潰す使命を背負っている。つまり、貴様も俺の庇護下にあるといっていい」


女魔王「あなた、自分の言っていることの意味を理解しているの?それは神を倒すってことよ?神が一柱でも倒れたらその眷属は全て全滅じゃない。何がよ。笑っちゃうわ。それに得体のしれないあなたの庇護下になんて入る気はないわ。ワタシは魔王よ。誰にも屈することはないし、誰の命令にも従わない。ワタシはワタシの魔族を守るのが使命ですもの」


覇王邪神眼「意味ならはっきりと理解している。神の権能を全て奪った上で倒せばよいのだ。権能があるからこそ神殺しと共に眷属たちが全滅するのだ。ならばその権能を眷属たちに渡してやれば良い。それだけのことで全滅は免れる」


女魔王「本気で言っているの?馬鹿ね。そんなことできるわけがないじゃない。権能を奪うこと自体、不可能よ」


覇王邪神眼「試しもせずに不可能だと論じるのは滑稽だな。存在しないものの証明をすることはできない。だが、権能はその存在が確認されている。干渉できると考えられるのではないか?そもそもその権能を奪うことを目的として作られたのが、この覇王邪神眼なのだからな。邪神龍の血を受け継ぐ一族の最後の生き残りに、一族の悲願であったこの眼が託されるとは皮肉なものだがな」


覇王邪神眼(そう、最後の一人になったからこその『覇道』なのだ)


女魔王「信じられないわね。あなたの言っていることは正しいとは言えないわ。覇王邪神眼とやらの能力で神の権能の一つでも奪ったことがあるの?そうでなきゃあなたの言っていることは嘘になるわ」


覇王邪神眼「最もな意見だな。だが、覇王邪神眼はその名の通り邪神の権能の受け継いでいる。邪神龍の血を受け継ぐとはそういうことだ。そして一対しかないこの覇王邪神眼は邪神龍のすべての権能を有している。という事実はないが、その権能は持っている」


女魔王「じゃあ、やっぱり殺す」


覇王邪神眼「まぁ待て。お前は魔族の王なのだろう?ならば契約しようじゃないか。俺は今言った使命を必ず果たす。果たせなかった場合は我が魂に、覇王邪神眼も含めて貴様にくれてやる。どうだ?悪い取引ではないはずだ」


女魔王「ええ、その条件なら契約を交わすに値するけれど。もう一つ条件が必要ね。と、その前に、あなたが倒す予定の神の名を教えてもらえるかしら?」


覇王邪神眼「俺のターゲットは神シギュン。その一柱だけだ」


女魔王「ならいいわ。ワタシたちは神シギュンの眷属ではないからね。ただ、神シギュンがラグナロックの原因かと言われると分からないわね」


覇王邪神眼「神シギュンを倒すだけで全ての闘いは終わる。それは間違いない。邪神龍はその未来を予見したからこそ我が一族を創ったのだ。その命を対価としてな。さて、これで契約成立だな」


女魔王「いいえ、まだよ。を指定してないわ。あなたの対価に対してワタシの対価を指定しなければ契約は成立しない。いつもならこちらだけに利があるような対価を指定するのだけれど、今回は特別。あなたがワタシと同等に亘りあえたことに敬意を表しましょう。対価としてワタシの魂を差し出すわ。あなたが使命を果たした時にはワタシの魂をあなたにあげる。ワタシの魔族全ての魂はダメだけど、ワタシの魂はワタシだけのもの。それでいいかしら」


覇王邪神眼「いいだろう。今度こそ契約契約だな」


女魔王「ええ、では、これからよろしくね?」


覇王邪神眼「なんだその手は。握手でもすればいいのか。ほら、これでいいだろう。」


チュッ


女魔王「はい、これでワタシはあなたのもの。これからずっとあなたについていくわね」


シンヤ「な、ななな……何するんだ!いきなり!!」


シンヤ(え?え?この子いきなり何するの?え?何したの?え?えぇ?)


アミ「あら、魂の契約を交わしたのでしょう?言ったじゃない、ワタシはあなたのものだって。その時も唇は奪ってなかったんだから問題ないわ」


アミ(キャーッ!キスしちゃった!え?なんで?ワタシなんでキスしちゃったの!?あ、でもまんざらでもなさそう。良かった。フフフ……)


イチロウ「問題ないな。」


タカアキ「いや、問題あるだろう!?会っていきなりだぞ!?初めて会話して1時間もたってないのに、なんだそれ!なんだ?それ!?」


シンヤ「……俺のもの?俺の?俺?」


イチロウ「シンヤがバグったようだ。続きは明日だな」


アミ「シンヤ?大丈夫?ごめんね?」


シンヤ「え?あ。いや、いいんだ。謝ることはないよ。俺こそ、ごめん」


タカアキ「ダメだ、オレ、こいつらについていけないかもしれねぇ……」

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黄昏時のラグナロック らしぇる @frashell

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