歪み

 口をずっとゆがめていた。それがくせだった。だから歪んでいた。口だけではない心もだ。身体もだ。性根もだ。精神は身体に同調する。口をゆがめる自分は醜かった。だから孤独だった。それで良かった。自分がいる場所はそれだけで汚れた。そういうものだと理解していた。みんなが言った。自分も了解した。自分のいる場所では全ての熱が冷めた。そういうものだと理解していた。みんなが冷めた。自分はすでに冷めていた。苦しくはなかった。それが当たり前だった。当然だった。けれど、口が歪んでいた。いつも。いつも。自分の口からは不平や不満しか生まれなかった。喜びは愛は生まれなかった。生まれたとしてもそれはまがい物だった。いや真実だったかも知れない。きっとだからこそたちが悪かった。最悪だった。口のねじ曲がった男が愛を叫ぶ! 物笑いだ。事実その通りだった。口の歪んだ自分はさらにさらに口をゆがめた。やがてしゃべれなくなった。口をゆがめすぎたのだった。もう傾斜が狂っていて逆さになりそうだった。それでも自分は口をゆがめ続けた。自己に逆らうように口をゆがめ続けた。ある日顎の骨が折れた。激痛だった。自分はのたうち回った。みんなが笑った。そのとき初めて笑った。自分のことで笑ってくれた。自分のことで心が温かくなってくれた。自分は嬉しかった。激痛の中自分は嬉しかった。しかし激痛は激痛だった。それにやがてみんなも激痛にのたうち回る自分に飽きた。自分の周りはまたいつものように冷めていった。あとには激痛だけが残された。それ以外何もなくなった。自分で自分を破壊尽くして、あとには激痛だけが残った。自分はいまも激痛にのたうち回っている。見る者もいなく、なにかを感じる者もいない。自分は永遠に取り残されている。死ぬまで激痛に苛まれながら。

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