闇の歌
手持ちぶさたに深夜、一人、何かを書いている。
何かを為そうとか、起承転結のある物語を書こうとは思ってはいない。
ただ、ぼんやりと暇を潰すようにキーボードを叩いている。
たた、これが趣味だったこともあったなと思う。
これが仕事だったことすらある。
ぼんやりと過去を思い出して、それがあまり楽しくなかったことを思い出す。
特に仕事は結局世に出なかった。
まあ、自分の能力不足があるのだけれど。
向こうが何をさせたかったのかわからないままだった。
一から何かを作れと言われて、そんなものできるはずも無く。
吐きそうになりながらよたよたとものを書いていた。量だけはたくさん。1MBぐらい。
何をしたかったのか何をさせたかったのかわからない。
きっと博打がしたかったんだろう。ビギナーズラックという奴だ。
当たればラッキー程度に仕事をさせられていたような気がする。
まあ、いい。育てられること無く、見捨てられたという事実が残るだけ。
相手に育てる気は何も無く、育てる力もまるで無かった。
俺も育つことは無く、ただ、タスクのように量だけをこなした。
そして見放された。お金をくれたのが奇跡みたいなものだった。
たとえそれが労力に見合わないものだったとしても。
―――――。
人生は長い。何かを得たはずなのにそれをガラガラと捨ててしまったような気がする。
それは鬱病と、大動脈剥離。もっといえばN氏とN氏。
二人が俺をおもちゃみたいに壊した。
得たものはなくし、傷病給付の知見だけを得た。
傷病給付金、障害年金、就労移行施設B型――。
失った力の代わりにそんな知識を得た。そして俺は弱者になった。
強者だったつもりはみじんも無かったが、病気になる前の俺は間違いなく強者だった。
権能だって振るった。もっと権力が欲しかった。
そうすれば。そうすれば。
壊れないですんだかも知れない。
そして、他人を壊していたかも知れない。
それのどっちがましかなんて難しい問題で。
その答えを今も探しているくらいで。
今も探して……。やめよう。心が腐る。
俺の三十代は病気と共に過ぎていった。
もう年齢は四十だ。不惑と呼ばれる年齢なのに、俺は迷ってばかりいる。
文章を滑らせ、何もなすことは無く。
この文章も他人に読まれること無く、HDDの残骸に埋もれ。
きっと見向きさえされないだろう。
ちょうど俺が書いた小説のように。
そんな欠片が、世界には充ち満ちている。
小説になり損なった欠片。詩になり損なった欠片。歌になり損なったメロディー。
読まれなかった作品達。愛されなかった作品達。読み捨てられた作品達。
愛を。もっと。
もっと。愛を。
けれど愛は、みんなが想像している以上に、高く、希少だ。
だれもがその栄誉に預かれるわけでは無い。
寂しいことだが、それが現実だ。
そして愛は寂しがり屋だ。
みんなが愛しているものを愛したがる。
ああ、愛は不公平だ。
片方に過多に愛されている作品があり、片方に過小に評価されている作品がある。
それを思うと、むなしくなる。
むなしくなる。
むなしくなる。
ああ。
眠ろう。
こんな文さえ書いたことを忘れてしまえるくらいの眠りを求めて。
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