28.美少女でもゲームがしたい①

 とある日の昼休み、いつものように昼食を中庭でとった私達はその後雑談で時間を潰すことなく、珍しくそれぞれの教室へと戻っていた。

 なんでも楓のクラスが次の授業に体育を実施するらしく、その準備に楓が駆り出されたのだ。そうなれば桜田と二人きり、このまま一緒にいてもあらぬ誤解をされかねないのでそれぞれの席についたわけだがいかんせん何もやることがない。

 というわけでこうして暇な時間をどう潰すか考えていると、後方から興味深い話が聞こえてきた。


「うわ! お前なんだよその装備。課金でもしたのか?」

「いやこれは課金じゃない。募金だ」

「募金?」

「そう、募金をすることによってこのゲームの新たなる発展に貢献するんだ。俺はその貢献の対価を得たに過ぎない」

「つまるところ何が言いたいんだよ」

「つまりはお金を積めば強い装備が手に入るということだ」

「課金じゃねぇか!!」


 聞こえてきたのは最近よく耳にするとあるゲームの話。詳しくはよく分からないが彼らは携帯の画面をお互い見せあって話をしている。もしかして私の携帯でも出来るのだろうか?


 ゲームというものは昔から興味こそあれ、どうすれば良いのか分からないというのもあって手を出していなかった。

 だがこの際だ。丁度色々知ってそうな人達も後方にいるようだしやり方を聞いてみても良いのかもしれない。


 私は一度声の調子を整えるため咳払いをしてから立ち上がる。それから笑顔を作って彼ら──ゲームの話をしていた男子生徒二人のもとへと向かった。


「ねぇ、ちょっといいかな?」

「あ、有栖川さん!? どうして俺らなんかに……もしかしてうるさかったですか?」

「あ、いやそういうことじゃなくてね」


 全く関係ないことだが久しぶりにこの完璧美少女モードの笑顔をしたからか頬がとても痛い。

 これは私が最近弛んでいる証拠なのか、それともあの二人と関わるようになったせいなのか。

 それを考える前にとにかく今は彼らに本題を伝えることが先だろう。


「その二人がやってるゲームって私も出来るのかな?」


 私の問いかけに男子生徒二人はお互い顔を見合せ、それから再び私の方へと視線を向ける。


「もしかして有栖川さんはこのゲームに興味があるんですか?」

「えーと、うん。なんだか楽しそうだったからね」

「その、このゲームに興味を持ってもらえるのは嬉しいんですが……これは携帯を持っていないと出来ないんですよ。有栖川さんって確か持ってなかったですよね?」

「携帯……そ、そうだよね。確かに私は持ってないよ。うん、全然持ってない!」


 焦るあまり日本語がおかしくなってしまったがいきなりのことだったので仕方ない。

 それにしてもそうか、私って携帯持ってない設定なんだった。なんでそんな面倒な設定を自分に課してしまったのか。今回ばかりは過去の自分を恨まずにはいられない。


「やっぱりそうですよね」

「うんそうだね。そっか持ってないと出来ないのか」

「そうですね、お力になれなくてすみません」


 仕方ないここは素直に引き下がるしかない。

 しかし今のでどうしてもゲームをやらなければ気が済まないという変なスイッチが入ってしまった。


「一応だけどそのゲームのタイトル聞いて良いかな?」

「あ、はい。ニブルヘイムオンラインっていうMMORPGです」

「MMRG? ってやつのなんたらオンラインっていうゲームね。うん分かった、ありがとう!」

「それだとほとんど何も分かってないですが……」

「大体合ってるから気にしない、気にしない。それと私と話すときに敬語を使わなくてもいいよ。同級生でしょ?」


 そう一言だけ言い残して私が自分の席へと戻れば、後方から男子生徒二人の話し声が小さく聞こえてくる。


「なんか俺死んでも良いかも」

「同感、まさか俺達なんかに話しかけてくれるなんてな」

「感じ良かったよな、惚れそう」

「やめとけ、やめとけ。お前じゃ無理だ」

「有栖川さんの彼氏になる人ってどんなやつかな?」

「きっと完璧超人みたいなやつなんだろうよ。俺達には関係ない」

「でもな……」

「ああ、分かる」

「「羨ましいよな」」


 彼らは最後に息の揃えて同時にそう発する。

 以前までの私なら褒められることが当然で褒め言葉を掛けられてもなんてことなかったが何故だろう。

 今聞くとどうしてだが胸の辺りがとてもムズムズした。まだ風邪が治ってないのだろうか。



◆ ◆ ◆



 放課後、私は屋上に人を呼び出していた。相手はとある男、人目につかないこの場所で私は彼にとあることを教えてもらわなければならない。


「で、いきなり呼び出したりしてどうしたんだ?」

「その、ね。私に教えて欲しいことがあるの……」


 静かにそれでいて情熱的に、かつ相手の心を揺さぶるように甘えた声を出す。


「何を教えて欲しいんだ?」

「それがこれなんだけど……」


 私は相手によく見えるように汚れなき真っ白なソレを前へと突き出す。


「お、お前こんなところでソレを出しちゃ不味いんじゃないのか!?」

「大丈夫だよ、誰も見てないから。ね、良いでしょ?」

「ああ、分かった。見つかっても俺は知らないからな。それと出来るだけ静かにしてろよ」

「うん、分かった。大切にしてよね」


 一応誰かに見られていないか念入りに周囲を確認したところで私はソレを相手に委ねた。


「それでどうやって入れるの?」

「ああ、多分これをこうすれば……」

「すごい、入れるの上手いね」

「入れるのに上手いも下手もあるか。普通の男子高校生なら誰でも出来る」

「じゃあここからが本番だね。……ちゃんとリードしてよね」

「任せろ」

「ちょーーっと待ったぁああ!!」


 とここで屋上にある花壇の影から見知った人物が現れ

た。


「な、何!? ……って楓か。どうしたのそんなところで」

「そんなところも、こんなところもないです。お、お二人は一体こんな人気のない場所でど、どんなイヤらしいプレイをしてたんですか!!」

「イヤらしいってもしかしてこれのこと?」


 私はソレ──私の携帯を桜田から取り上げ、楓の視界に入るよう移動させる。


「け、携帯を使ったイヤらしいプレイなんですか!?」

「いや違うけど、良かったら楓も一緒にやらない?」

「い、一緒に!? わ、私はまだそこまで大人の階段を上る気は……」

「このゲーム」


 私の一言で止まる気配が一向にないほどヒートアップしていた楓の熱気がまるで冷水でもかけられたかのようにピタッと収まる。


「……ゲームですか?」

「うん、ゲーム。このなんたらかんたらオンラインってやつ」

「ニブルヘイムオンラインな」

「そうそう、それそれ」


 楓は一度考える素振りを見せるとそれから間もなくして満面の笑みを浮かべた。


「有栖川さんがやるなら私もやります!」


 これで一緒にゲームをする仲間が二人。うん、あの男子生徒達も二人でやっていたし、一緒にやるならきっとこれくらいの人数が丁度良いのだろう。


 ところで楓は先程まで一体何を一人で盛り上がっていたのだろうか。イヤらしいとかなんとか言っていたがまぁ気にしても仕方ない。様子がおかしいのはいつものことなのだから。

 すぐにそう結論を出した私は自分の携帯の画面上に表示されているタップスタートの文字を試しに指でタップした。

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