第12話 連合軍

 国連では対策会議が行われ、世界の警察を自称する国はミサイルの準備を始めたが直径200メートル程度の物体を宇宙でヒットするには時間が足りなさ過ぎた。

 隕石到達の1週間前に発射されたミサイルは準備不足を露呈し見当違いな場所で炸裂しただけで隕石の軌道は変わらなかった。


 宇宙関連事業者の計算では一撃目はヨーロッパのどこかに落下、二撃目は北アメリカ大陸中央部に落下すると予報が出されると避難パニックが始まった。

 王宮前に陣取っていた連中はどこかに消え去り静かなものだ。

 日本政府を通じて使徒男に会談の申し込みが殺到している。とくにヨーロッパに位置する国からの申し出が多いのは言うまでもない。

 4日前には急遽ネットでの会談が行われるが、各国首脳の威圧的な態度に会談は一時的休憩に入る。10時間後に再開された会議は世界中に配信されその滑稽な状況に誰もが吃驚した。

 各国の元首は口にガムテープを貼りI fall silentとマジックで書かれていて発言権が無い事をみじめな感じで表現させた。

 もちろん再開するにあたって使徒男が指示した演出だ。

 まず初めに言った通り君たちの神がどれだけ民の事を想い、愛しているのか考えてくれ、きっと力があれば神と祭り上げられる存在が救ってくれるはずだ。信じていれば避難など必要ないのでは?別の存在に助けを求めるのもおかしな話だと思う。

 一人の元首が口に貼られたガムテープをはがして発言した。

 神とは人間の営みには介入しない、自然災害の多い国に住んでいるのにそんなこともわからないのか、技術があるなら災害を取り除きたまえ、くだらん神様ごっこはやめるべきだ。このまま被害が出ればテロリストとして認定する。

 元首全員がガムテープをはがし賛同した。

 使徒男は笑い出した。

 神の話を、介入しない、で、すり替えるな。

 技術など持っていない、これは崇拝する神が存在を示せるかどうかの話だ。ごまかすんじゃない、シンプルに肯定している者が死ぬか生きるかの話だ。糞共が!


 国家元首たる者たちは怒りをあらわにして無能な神への崇拝を止めようとはしなかった。

 十字架の神を崇拝しながら自分たちこそ神なのだと言いたげな様子で使徒男とそれを支援する国を討伐するための連合軍を組織すると宣言した。

 まず初めにその国にいる自国民を退去させた。

 次に経済を締め付けようとするが、もはやこの国無しでは世界が成り立たないことを痛感するだけだった。

 海上にはこの国を包囲するようにヨーロッパの海軍が集結しようとしているがいまだに数隻の艦船しか到達できていない。

 国民を避難させるためにこの国に向かうだけの軍艦が確保できないまま時間だけが過ぎていく……

 某国が派遣した少数の艦船がこの国にミサイルを発射した直後すぐに潜水艦に撃沈されたのを見た国民は歓喜した。


 その日は快晴で火球が空を引き裂いていく様子をメディアが世界に発信した。

 轟音が地上の人々を破滅という恐怖に引きずり込んだ。

 ヨーロッパの都市が一つ地上から消え去った後、使徒男の繰り返される神への罵倒のお陰で人々は世界最大の宗教組織が崇拝する十字架の神に落胆した。

 人々の心の隙間に入り込み浸透していた癒されるだけの信仰はもろくも崩れ去り現実のみが世の中を闊歩する。

 宗教地図は数日で書き換えられ、使徒男の勢力は増すばかりとなった。






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