第10話 軟禁と啓示
晴れて国王とみなすとされた使徒男だが、法的な権限が全く無い国王は、王となった事で、王宮とされる施設に入る事になった。
突貫工事で新設された厳重な警備体制の施設は、侵入を許されず使徒男は孤立する事になった。付き添いは数人の信者のみで身の回りの世話をただでやってくれる体の良いボランティアスタッフだ。
刑務所的隔離施設で監禁されているが、監禁前に世界のどこかを定期的に爆破するのでそれらしい事を言い続けなさいと進言している。殺される事はないだろう。
これで実験体が暴走するリスクは無くなった。
じっくりと世界の支配者に育ってもらう。
ふと思いつき、月に一度神の啓示を世界に発信せよと使徒男に告げると私が変わって世界に伝えるのですねと涙を流した。姿が見えないものに泣いて答える男はほかのものから滑稽に見えているのか、それとも敬われているのか、面白い見世物なのかわからない。
(爆)によって使徒男の耳元に振動で声を作り出しているので状況は勘だけで理解するしかない。
最初の啓示は戦争の禁止だ。
神の使いらしく平和的な響きがいい。きっとバカな者に喜んでもらえるだろう。
もちろん従わないものはそれなりの制裁を課していくことも宣言させる。
数日後中央アジアの紛争地帯に人はいなくなった。ただ土砂が黒く焦げてそこにあるだけの土地が広がっている。
面爆破を行った。地表から地下30センチを広範囲にわたって瞬間的に上方向に(爆)をコントロールしたのだ。上空1キロまで土砂が垂直に巻き上げられそのまま落下すると平坦な土地になり生物の気配は消えた。
領土争いの元となっている離島は、自然のものや人口のものまで含め56の小島を破壊し、海面から消し去った。
次の啓示は独裁国家の禁止にした。
この啓示に関しては心当たりのある国々が反論するように遺憾を表明したが国民の多くが使徒男を指示していることを知ると次々に表面的な民主化を始め国営の自由を手に入れた。ただ最後まで従わない半島の国家と、現状を理解できないアフリカの某国には特大の(爆)を与え、地球上から国民ごと消えてもらった。隣国に多少の被害が出たものの世界はそれを称賛した。迷惑な人権侵害国家がなくなったことに歓喜しているふりをしているのがあからさまで、国連がお祭りの様に称賛している。
次の啓示は……世界のすべての宗教の解散。
日本でテロが頻発、抗議デモが行われ、王宮は宗教団体に囲まれた。
前に立ち言葉を伝えよ、そう告げると使徒男は王宮正面に演説のためのやぐらを組ませた。
何の力も持たない神に仕える愚か者よ聞くがいい!
お前たちの神は力をお持ちだろうか?
その奇跡は人を救うのか、崇拝している選ばれた者たちは救われるのか?
その神は金銭や命を要求しないか?
お前たちは何のためにその神を信じる?
戦争も暴力も災害もなぜ奇跡の力でとめられない!
何もしない神を名乗るモノがなぜ信じられる?
よく聞くのだ!
これからひと月後に二つの大災害が訪れる……逃れようのない事実だ。
一つ目は、お前たちの信じる神に任せよう、本物の神ならきっと救ってくれるであろう。
二つ目の災害は、我の信じる者が確実に救ってくれる。
今一度と問おう災害を救わず災害後の人の心とやらだけ救うものが神か、それとも災害そのものを救うものが神か……さあ神に祈るのだ。
嘘つき呼ばわりをしている聴衆が笑いながら使徒男をののしるお祭り騒ぎが繰り広げられ一晩中その祭りが終わることはなかった。
聴衆の腐った臭いを早朝の風が流して洗浄した。
王宮前に作られた抗議のテント村は遅い朝を迎えていることに満足しながら散策している。愚か者の集団はベンチや植栽帯に寝転がって惰眠を貪っていた。
持ち込まれていたラジオやテレビがつけっぱなしで朝の番組を打ち切ってその絶望的なニュースを垂れ流している事に早く気が付くように小さな(爆)を路上で炸裂させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます