第7話 境遇
武器をやろう。
そういうと男は驚いた顔をしてこちらを見た。
その辺に転がる瓦礫を圧縮して(爆)の力で加熱、形を形成する。
初めての作業だがうまく行った。
見た目的に銃の形をしたモノを作り出した。
それを男に渡すと最初こそ戸惑っていたがすぐに武器だと理解してほれ込んだように恍惚とした表情を作り出している。
それは引き金を引くだけ、お前が撃ちたい奴めがけて撃つだけだ。
難しいことは無い12発撃てるように作っている。
そう言うとこちらを見てやはり神はいたのですね、これで救われる、奴らに天の裁きが下り平穏が訪れます。
意味は理解しかねるが男をイジメグループの所に行くよう促した。
遠巻きに男を観察することにして後をついて行った。
規制線を越え普通を装う領域に戻る。
埃っぽい風が爆心地に向け吹きつけている。
胡散臭い風だ。
有刺鉄線が揺れカツンカツンとリズムを刻んでいる。
それに合わせるようにステップを踏み、男の後を付いていくのは機嫌がいいからだ。
この男は正義になるのか悪に染まるのか見当は付かないが、力と言うものの実験にはなる。
弱いものが強い力を持つとき、理性あるものが理性を失う瞬間など疑問に近づけるような気がした。
言語化できない以上、この世界では疑問ではないのかもしれないが。
規制線近くの薄汚いカフェが連中のたまり場で、今では禁制品になっているタバコをふかすガキ共が一番奥のボックスで騒いでいる。
その周りには賑やかしや取り巻きの女どもが下着みたいな卑猥なファッションで泥酔している。
男は顔をしかめ一人の女を見てからこぶしを握り閉めた。
クスリでラリったその女は虚ろな目つきで男のペニスを口に含んでいる。
虐められ男は吐き出すように息をして中央のボックスに歩み寄ると、一番偉そうな男を見据えた。
なんだ弱すぎる彼氏が来たぞ、懲りねえ奴やな。
グループのボスらしい男が面白い虫を見るように言葉を発した。
人間に話してるとは思えない言語に少しおかしくなった。
同属なモノが立場により同属をさげすむ愚かさがむき出しになったからだ。
いじめられていた男は神が憑いているかのように堂々としたたたずまいで一度目を閉じると微笑んだ。
なんだてめえ女盗られてついにおかしくなったのか?
その場の全員が笑い出す。
虐められ男は何も答えずにボスの隣の男に発砲した。
パシュッと音がして隣の男に泥みたいな液体がかかった。
コイツ、水鉄砲打ちやがった。
隣の男は激怒し、まわりの連中はさらに笑い出す。
青スジを浮かせ立ち上がる隣の男にかかった泥みたいな液体がどんどん赤く発光しだし隣の男は苦しむ時間も与えられずに渦を巻くように空間から消えたしまった。
その様子を何が起きたか分からずに眺めていた連中に躊躇無く発砲して泥みたいな液体をばら撒いた。
ボスらしい男は動くこともできずに周りの連中が渦に吸い込まれていくのを確認して怯えだした。
それと同時にカフェにいた賑やかし達は我先に逃げ出した。
床にはクスリでラリったモノ達が逃げ出すこともできずに横たわっている。
一人きりになったボスらしい男を虐められ男が微笑んで見つめている。
悪かった……たっタスケテくれ……搾り出すようにボスが呟いた。
呟いたがその声は虐められ男には聞こえないらしい。
耳元でささやいた。
この男は殺してはいけない、手足をもぎ取り顔の片方だけ無くしてやれ。
最初虐められ男は困惑したが、お前は神の代理としてこの者達に裁きを下している。
こいつに死ぬ価値は無い、神の代理としてのお前を世間に知らしめるための役目を与えてやればいい。
そう言うと上気した虐められ男は、ああ神様の代理となりますと言って男に銃を向けた。
少し弱く引き金を引き手足に当てるんだ。最後に顔の半分にさらに弱くやさしく引き金を引く。
教えたとおりに虐められ男は引き金を引いた。
両手両足が一瞬で沸騰するみたいに蒸発して顔の半分はケロイド状に崩れ落ちた。
痙攣して悶えるボスらしい男の携帯電話で救急車を呼んだ。
ニュースでは(爆)の正体を掴んだと大騒ぎになった。
テレビ画面に虐められ男の顔が映し出され、名前も容疑者として指名手配された。
両親はマスコミに嗅ぎ付けられ謝罪している。
都市の穴でかくまっている虐められ男は神の使徒となった事を大いに喜んでいるようで日夜祈りを捧げている。
祈りを捧げているのは知らない神の像で、なにかの新興宗教なのかもしれない。
せっかく有名になったのだから実物をお披露目しなくては騒いでいる世間に申し訳ないなどと戯れてみる。
虐められ男改め、神の使徒男としようなどと思いながら使い道を考えた。
疑問を知るためにはどう使うか思案して十日が過ぎると男を見つけられないマスコミは痺れを切らし死亡説が流れ出した。
マスコミとしては一番つまらない解決で不味いのかもしれない、だがまだだ、もう少し寝かせる必要がある。
世の中は犯人探しに夢中だが警察や政府から積極的なアナウンスはなく沈黙を貫いている。
一月が過ぎた頃だ。
この国に残っていた最後の塔が爆破された。
(爆)は使っていない、下品な火薬の痕跡が漂っていることはすぐにわかった。
数日後爆破の犯人とされた使徒男そっくりの犯人が逮捕された。
コイツが一連の爆破テロの犯人という事で事態を収束しようと試みる政府の思惑が見え隠れして状況は面白い事になりそうだ。
今度(爆)を使えばどう言い訳するのだろう?もう少し様子を見ようと思っていると神の使徒男がひどく憤慨して神の冒涜だと詰め寄ってきたが無視していると隠れ家を出て行った。
状況は煮詰まってはいないが本人がやる気に満ちているので、頃合いなのかも知れない。
しばらく見守る事にして様子を伺う。
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