第6話 変化

 疑問の端倪はいまだに見えずに空を見上げるだけで日々を過ごしていた。  

 環境活動家の少年は何をしているのだろう?世界に訴えかけていた強い正義感はネットの昔話になった。

 検索してもデータそのものが劣化してしまった様に色褪せて見えた。

 新たな情報は航空交通の遮断とともに彼の存在を消し去ったのかもしれない。

 感じた疑問は(爆)を使用するごとに霧に包まれ曖昧になっていく。

 世界は混乱して形を変えつつある。

 このままでは疑問の正体も掴めないまま常識的(悪)の勝利が確定してしまう。

 常識的(悪)の限りを尽くしても正義の使者はいまだに現れることも無く(悪)を滅ぼさずに蹂躙を放置したままだ。

 疑問が見えない以上明確な悪とはいえないのかもしれない、その悪もこの世界の定義にのっとり行使されているだけだと思うと本物とは違う気がしていたたまれない。

 この世界に本物と言う言葉はあっても実在はしないんじゃないのか?

 しばらく世界を観察するため歩き回ることにした。

 豊富な資金を使い大陸を移動すると言う名目で冒険者と言う最近流行の連中を雇ってキャラバン隊を作った。

 気楽な連中は世界がどうなろうと関係ないのか、この旅の意味すら理解しようともしない。

 

 旅の途中、飛行機は飛んでいるのを見つけると破壊した。

 時々気が向けばビルを爆破したのは塔という形態が少なくなっているからだ。

 世界の諜報機関は必死に(爆)の存在を解明しようと試みるがまったく見当違いなテロリストを殲滅することに必死だ。

 気ままな旅をしながら目にする世界はどうしようもなく悪の要素を含んで見える。

 (爆)が悪だとすれば善とは何だろう。

 善に正義と言う定義があるのだろうか謎で、悪にも何かあるのかもしれない、理由は不明だがそういう気がする。

 まず善を探した。

 宗教上の善はどこか偏ってご都合主義が見え隠れする。

 そこには支配と言う欲望があり、いかに人をひざまずかせるかに執着しているように見えた。

 すべてとは言わないが裏側はずいぶんと悪の匂いがしている。

 この臭さは人類の体臭なのだと理解した。

 そう理解すると人類そのものが悪であり、善などと言うものは保身のために人間が作り出した幻想のように思えて吐き気がした。

 悪が体臭だとすれば善は肥溜めに等しいほどの悪臭を放っていると思えた。

 善行を信じて世界を平和に導く人間ほど信用できないと思える。

 地球が生物だとすればそれは致死率の高いウィルスだとよく分かる。

 人々を救おうと奮闘すればするほどたくさんの人は救われそのウィルスはこの世界を削り取り搾取し疲弊させる。

(爆)はそれを駆逐する抗体なのではないかと最近思うようになった。

 悪である(爆)が実は見方を変えると純粋な善なのかもしれない。


 元いた場所に戻り吹き飛んだ塔のある都会の穴に立った。

 善を語る強力な人間を見てみたい、そいつは人類を守るために身を挺して(爆)を封じ込めに来るだろう。

 一人の人間か、正義を語る組織か、はたまた軍隊かもしれない。

 瞑想でもするように想い目を閉じていると、後ろでカサカサと音がして草木を押しのけて一人の男が現れた。

 ついに正義の使者かと思って少し期待した。が、オドオドした男で見るからに運のなさそうなやせこけた顔で汚い服は破れ泥だらけだ。

 貧相な男を睨むと弱さを隠すこともせずに怯えた表情をする。

 この領域に入ってきたのだからもちろん爆破と思っていたが、面白いことを思いつき見下すようにどうかしたのかと聞いてみた。

 男は声を掛けられたことでほっとしてその場に座り込んだ。

 男はイジメグループに追い立てられこの区域に逃げ込んだと吐露した。

 殴られて所持金は奪われ母親が誕生日にくれたジャケットもぼろぼろにされた。連れていた彼女は連中に捕まった。

 悔しそうに泣いている男に、なぜ反撃しないと尋ねると自分は弱く頭も悪い、それを補う武器も無いとまた泣いた。

 武器ならそこらへんにあるのにこいつは使おうともしないで逃げ回るだけ……と言うかモノを見ても武器と認識できないのかもしれない。

 たとえば包丁は料理の道具で武器じゃない、ガソリンはエンジンを動かす燃料、そこに転がる鉄筋はビルを支える柱の骨など、想像力が乏しいか正義感旺盛な理性がリミッターとして機能しているかしかない。

 悪でも善でもない泣いている男を嫌悪しながら言葉を掛ける。

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