第4話 風化
2年が過ぎても都会の穴は放置されたままで鬱蒼とした生物の楽園が出来た。
穴の縁にある規制線上のビルは、全て国に買い取られセメントを流し込み壁に変わりはてた。
道路には鉄の杭が打たれ工事用の分厚い鉄板で仕切りとなった。
誰も入ることは許されず政府直轄の危険地帯としてそこにある。
時々森と化した穴で黒煙の上がるわかりやすい爆発を起すと人々は思い出した様に震え上がった。
テレビでは様々な憶測が流れて爆発を観測するたびにニュース速報が世間を騒がせている事はもはや日常となっていた。
根拠のない爆発注意報が天気予報のコーナーにプラスされた。
出しゃばりな宗教家とテレビ受けする霊能者が、広告代理店の仕掛けに乗って祈りをささげる大仰な祭壇を作ったがそこは完成と同時に爆破した。
広告代理店の観光資源としての思惑は消滅した。
完成予想図が描かれた看板が瓦礫となり虚しく傾いている。
3年もたつと人々の関心は薄れ、たまに国営放送が特集を組むだけのイベントに成り下がりおぞましい日常の裏側がそこにあるだけになる。
人々は他人事として見ないフリをしている。
時々バカな子供や肝試しの若者が迷い込む様になった。
自分は大丈夫と言う根拠のない自信に満ちて、人生が終了する瞬間を体験する事になる。
傍観者の立場を捨てたがるバカさ加減に同情するが容赦はしない、疑問のためだ。その賑やかしどもは一人を除いてみな爆破した。
残る一人はあの母親と同じように顔を半分と両手だけ爆破する。
足を残すのは自力でお帰りいただくためだ。
4年たつとそこは神の領域となった。
顔を吹き飛ばされた人間が盛り上げるから簡単に神が存在するようになる。
その頃から頭の中に(悪)という言葉が生まれた。
そこら辺に落ちている安物の悪ではなくて純粋なイメージとしての(悪)だ。
どうも悪い事と言う概念では済まされそうにないもので、言葉にするから(悪)なのだと思った。
同時に善と言うものも存在しているが不純すぎてしっくりと来ない。
破壊の道具である(爆)は悪に属するのか善に属するのかは不明なままでその言葉に付随させると事自体の不自然さに悩まされる。
疑問のための疑問を持つとあの存在が現れた。
道の向うから大声で話しかけるのは(愚)だ。
その声を理解できる者はいない、選ばれた存在がそれを聞くことが出来る。
善悪について語る(愚)は世界の外から話しかけているような大きな声を出す。
その大きさは風となって人々を狂わせるようだ。
心が腐っていく臭いで満たされる。
真昼の繁華街がパニックに陥り通り魔が次々と人を刺し殺して、止めようとする警官が見境無く拳銃を発砲、若い女と爺さんを撃ち殺した。
通りかかった車は暴走をはじめ歩道で人を轢き、意味も無く物を投げる主婦は店頭のショウウィンドウを破壊した。
(愚)は満足そうに質問の答えについて急かしてくるが浮かんできた善悪とはちがうもっと純粋なものだと思考したとたん(愚)は消えてしまった。
自分の中で発せられた言葉としての悪とは人が介する物、善もまた人が介する行いであり純粋ではない、混ぜ物ありな不毛なものだ。
せめぎ合う価値も無い。
辺りに漂う憎悪や恐怖と言った腐った感情が鼻につく、浄化させるため小さな爆を使った。
ここもすぐに規制線が張られる事になる。
この街では意味を見つけられないと悟ると別の場所にある塔の街に移動しなければと脅迫にも似た衝動が沸いてくる。
答えに迫るためにもっと純粋に世界に穴を開ける事が必要なのだろう。
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