第3話 資金
塔の破壊から数日経った。
人として最後を迎え、新たな存在となった気持ちでいるが実際は何も変わらない。
身体的特徴は平凡な人間のままだ。
普通に眠り、普通に栄養を摂取してこの体を維持していかなければ(爆)を得た意味を早々に失ってしまう。納得できないままただの人間として意識は乖離して世界に溶け込んでしまい何も残らないだろう。
この世界にいる限り体を維持する面倒を金銭的に解決しなければ自由に動き回る事は出来ない、生きると言う行為には金銭的負担がのしかかる事は実証済みだ。
まだまだこの状態を維持しなければならないので行動するしか無い、ただ社会性と言う煩わしさからはすでに解放されているので働くと言う選択をしなくて済む事は愉悦すべきだろう。
なるべく目立たず余裕ある金銭獲得に動かなければならない。
まずは身なりを整える。
高級ブランドを扱う店で真っ黒なスーツを新調した。
選択肢にグレーやベージュは無い、黒か白で、白でもよかったのだがシミが目立つのでやめた。
最初の資金は以前勤めていた会社の社長に都合してもらった。(爆)の力を披露したら喜んで出資してくれた。一時的なモノであの程度の会社では持続は不可能だろう、100万ほど現金を受け取ってから圧縮してしまったので次は無い。
望んでいるのは枯渇することのない恒久的な資金提供。
高級と言われるスーツに袖を通しただけで人間は社会的強者に近づく優越感などを得るらしいが(爆)を手にした感覚ではちっぽけな感情は湧いてこなかった。
一通り整えた人としての身なりに疑問の一端が見えた。
個として変化できない人間、服装で着飾る事で主張し強さの表現から弱さの象徴として、サラリーマン、工員などカテゴライズされてまで生きる事に向き合っている様で何も考えていない。人は平和の中で透明な武装しているのだ。
なぜ武装している?
ふつふつと疑問が浮き上がり散乱した。
その足でこの国の基幹産業である企業の本社に出向くと、ここに居る一番偉い奴と面会したいと告げた。
洗練されたエントランスに立つにはしっくりとくる佇まいでほほ笑む。
受付の女は高級スーツと紳士的な笑顔の人間を判断できる権限を持っていなかった。
少々お待ちくださいと言って電話で直属の上司に判断を仰いでいる。
待ち時間にこのエントランスの構造を確認して、効果的な(爆)の使い方を模索した。
しばらくして上司らしい男がやってきてて、要件を確認しようとヘラヘラとへつらい人間らいしい振る舞いをした。
人差し指を天に向けてかざす。
注目せよ!
叫ぶと一斉に視線が集中した。瞬時に(爆)の力を用い強力な閃光を放った。
このフロアの人間は固まって意識を失い、強力過ぎて中には失明した者もいるだろう。
上司の男を引きずり通行証を使い管理ゲートを通過して上階に向かうエレベーターに乗った。
(爆)を極小で行使して気絶した上司を強制的に覚醒させると状況を理解できずに怯えて失禁した。
丁寧に事情を説明してこの会社のトップに面会したいと伝えるが首を縦に振ろうとしないので、左手の平穴を開けてもう一度頼むと泣きながら電話した。
最上階の会議室に通された手のひらに穴の開いた上司男は動かなくなった左手の指を右手で抱える様に会議室の端で蒼白な顔をしている。
このビルの一階のフロアでは救急車が到着して騒ぎになっている。
数分後、会議室の扉が勢い良く開き眉間にシワのよった不機嫌な年増女が入室して上司男を睨んだ。
年増女は数人の男を従え自分は取締役であると名乗り威圧的な態度で要件を聞いてきた。上司男や従えてる男に緊張が走るのがわかった。この女1人に怯えている。確かに年増女の持つオーラや声の強さには普通の人間なら対抗できるのは余程のバカかそれ以上の大物だけだ。
それは人間の話であって社会性が無くては意味のない言葉遊びに過ぎない。
年増女は意味の無い話しを繰り返してゴミでも見る様な視線まで向けてきた。
なんだか笑い出しそうになる。
後ろで小さくなっている手下の男の頭を破壊した。
おしゃべりで高圧的だった年増女は言葉を発することをやめ懇願するような顔になった。上司男はまた小便を漏らし壁に寄りかかると崩れ落ち動かなくなった。残りのお付きの男達は逃げ出そうとドアに駆け寄ったので足を吹き飛ばし床に転がした。
うるさいと殺されることを周知して話を聞く準備が整った。
年増女のポジションを確認して今このビルにいる人間では自分が一番権限があると言うので、話を聞き重役会議を開けると言った。この国におけるこの会社の幹部は国会議員よりも立場は上で常識的な範囲でなんでもできる。少し調子づいて鼻息が荒くなった年増女を床に這いつくばらせた。
調子づいた罰だ。
まずは年増女の上に何人いるのかを聞く、年増女は自分の上には5人の者がいて自分を含め3人が次期社長を狙っていると言ってよだれを流す。
現社長とライバル2人はすぐに消滅するだろうと告げると恍惚とした表情になる。素直に居場所を吐き出した。1週間ほど入院しておくように年増女に告げ残っていた男達を圧縮した。
この襲撃はニュースとなり襲撃犯に重傷を負わされたが現場にいた男性職員が盾となり年増女を守った美談が画面を賑わせた。
犯人の映像はどれも不鮮明な者であれだけの大企業でなぜ防犯意識が低いのかなどのコメンテーターの話だけでそれ以上は何もない。
数日後、年増女の退院日には厳重な警戒とともに病院のエントランスに黒塗りの高級車が横付けされた。社長専用車なのは誰もが知っていた。
年増女は神妙な面持ちで病院スタッフに深く頭を下げると向き直りマスコミ向けに力強い言葉を発した。この国の企業としてテロには屈しないと宣言して車に乗り込んだ。
乗り込んですぐに甘えてくる年増女は奴隷のような顔でさっきまでとは別人のようだ。吹き飛ばされ残骸と化した元社長の写った写真がなによりもお気に入りだと猫なで声で話す。
約束通り会社に特別ポジションを用意して子会社に設立資金の提供を行うと嬉しそうに服を脱いだ。
金銭的な不自由も解消されこの人間的体でも自由度が上がり(爆)の行使にのめり込める。
最終的に疑問を見出す作業は時間がかる。世界的に被害を拡大させてそのあとで見えるモノが疑問を塗り込んで形作るのだと思いながら世界に開いた穴から爆発を発信した。
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