第17話

 胸糞悪い話なのでご注意くださいm(_ _)m


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【正義】


 それは酷く曖昧なものである。

 古来より自らを正当化するための言い訳に使われてきたものでもある。

『勝てば官軍』日本のこの言葉通りだ。

 死人に口なし、勝った方の言い分だけがまかり通る。

 だが『判官贔屓』という言葉もある。周りの無関係のものは、自分が好む方が負けたり不利であると相手を責めたりする。そこで『我に正義あり』と自らを正当化し、黙らせるというわけだ。


 法治国家である現代日本においては法が【正義】を定める。

 古来より使い古されてきた、力ある者が【正義】を掲げ自らを正当化する事はここに潰えた。――時折その判断が間違った結果を生むとしても。

 だがそんな法治国家に住まう者の全てが、それを理解し従っている訳ではない。


 そして時折現れるのだ、【正義】を掲げ自らの行為を正当化しようとする者が。

 そういった者たちは、得てして個の力が強いわけではなかったりする。いや、個の力が弱いからこそ【正義】を掲げるとも言えるだろう、その正義を執行する手段を正当化しなければならないからだ。



【魔法】


 それは誰もが1度は夢見る言葉だろう。

 古来より憧れ夢を見、それがマジックなどを発展させてきたとも言える。

 魔法、それは現代において小説や漫画、アニメなどの中でしか存在しない。そのために誰もが異世界転移や転生すれば自分にも使えるようになるかもしれないと、そのような娯楽商品に夢を見るのだ。


 そんな【魔法】が現実に現れた。

 誰一人として傷を付ける事が適わないような建物を一夜にして建て、その場から一瞬で消した土魔法と思われるもの。

 衆人監視の中であるにも拘わらず、その場から姿を消して自宅へと戻った転移魔法と思われるもの。

 倉庫内の大量の物を一夜にして消した、アイテムボックスなどと思われる魔法。



 全国放送のテレビカメラの前で、殺人未遂や保険金詐欺未遂を自白した男がいた。

 だがそれはどうやら法では大した罪を問う事が出来なさそうだ……警察に連行されたがその日の内に拘留なく釈放されたのだから。


 それは魅力的な餌だった。

 誰もが悪と認識出来る、自らの正義を執行するに値する悪人。


 インターネット上では、被害者である五味久が舞い戻ってきて魔法を行使し復讐したと言われているが、その当の本人は男の自白の中にしか存在せず姿が見受けられない。

 だがテレビカメラの前で土魔法と転移魔法を行使したと思われる母娘は確実に存在する。

 そしてその母娘は悪人の妻と娘である。


【正義】を掲げる者は望んだ。

【魔法】という夢の力を手にする事を。

【正義】を執行する事を。


 同じような思考をする者はインターネット上に数多くいた。

 そしてこのネット社会において、彼らが徒党を組み計画を立てるのは容易い事だった。


 その機会が訪れるのをじっと待つ。

 今は各種メディアが自宅前に陣取っているが、どうせその内すぐに他の事件飛びつき居なくなるだろうと推測した。


 そしてそれはすぐにやって来た、首都の方で大きな事件が起きたらしいのだ。

 住宅街にある男の自宅前に詰めかけた事で、近隣住民から迷惑だと言われていた事もあって、メディアは警察署前に集中する事にしたのも重なった……つまり自宅前にはほとんど人は居ない。


 いざ執行の時だ。

 大きな力である【魔法】を他の者に奪われないように、きっと自分たち以外にも同じような事を考える者はいるはずだ……なぜならこれは【正義】なのだから。

 自らを正当化して、欲望に走る。


 それは事件が起きてからた5日後の事だった。

 まだ誰もが寝静まる未明、男の自宅前に真っ黒なワゴン車が停まった。

 中から出てきたのは目出し帽を被った6人の男性と思われる集団だ。それぞれの手にはバールや金属バットがあった。そして庭へ回ると窓を叩き割り、続々と侵入して行く。


 事前に下調べはしてあった。

 野次馬のフリをして自宅前には何度も訪れていたし、ネット上で娘の元同級生と名乗る者から簡単な間取りなども聞き出していたのだ。

 そのため彼らの動きはとてもスムーズなものだった。

 騒ぎに起き出してきた男を数人がかりで殴りつける者と、母娘をスタンガンを押し付け気絶させた上で車に運び込む者。

 掛かった時間は5分〜10分程度だろうか、最終的にやたらめったら殴りつけられぐったりした男に手錠と猿轡をしてから車へと運び込むと同時に急発進するワゴン車。


 近隣住民から警察へ、「あの家が騒がしい、何者かが押し入ったように見える」との通報は当然あった。

 世間を騒がせる一家に関わりたくはないと思いつつも、本当の正義感を持った人が連絡をしたのだ。

 だが警察の動きは遅かった。なぜならその男の家では、怒りからか暴れ回り大きな音をたてたために幾度も通報があったのだ。

 更にはその男からも通報があった、倉庫内から商品が盗まれただけではなく、今度は親子3人が警察署へと赴いて任意で事情聴取を受けている間に、自宅内の衣服箪笥やベットなどの就寝具以外の電気製品や現金などの全てが盗まれたなどという妄言じみた話だ。

 自宅前にはずっとメディアが張り込んでいたというのに、誰がどうやってそんな事を可能とするのか。

 やはり会社の件も含めて、自作自演の線が濃いのではないかと訝しんでいた。そして薬物摂取による幻覚や思い違いでもしているのではないかとの疑惑さえ上がっていた。

 それ故に、またかとの思いから行動が遅くなったというわけである。


 そんな中、親子3人と男6人を乗せたワゴン車は、山奥にある今や廃村となりよほどの物好き以外滅多に人が訪れる事のないあばら家へと向かっていた。

 6人の男は既に目出し帽を外し、無事計画が実行出来た事と、これから己たちが手に入れる事の出来るだろう【魔法】を夢見て一様に頬を緩めていた。


 警察に追われる事もなく無事に目的地へと着いた一行。

 ワゴン車から引き摺り出され、あばら家へと連れ込まれる親子3人。

 元の持ち主が時折来て手入れでもしているのか、それともこの場所を知っていた男のうちの1人が時折同じような事を仕出かす度に使用してでもいたのかは定かではないが、廃村にある主を失った家にしては整っていた。


 ストレス解消……いや、正義を高く叫び既にグッタリとしている男へと殴る蹴るを繰り返す。


「ああなりたくなかったら魔法の秘密を話せ」


 くぐもるような呻き声を小さく上げながら、地面で丸くなり暴力の嵐に晒される男を見せつけるようにして、母娘へと質問を投げかける。


「あ……あなたっ!!」

「おどうざん……!」

「早く魔法の秘密を話せよっ!!」

「グッ……ウウッ……」


 涙を流しながら、夫へと、父へと手を伸ばし声をあげるが、凶行を働く男たちの望む答えではないために殴られる。

 それは幾度となく繰り返され……遂には床に蹲る悪人がピクリとも動かなくなった。


「あーあ、死んじゃったよ……まぁしょうがないよね、自業自得だし」

「そうそう、殺すのは殺される覚悟のあるやつだけとも言うしね」

「おどうざん!!ね"え"おどうざんっ!!」


 人を1人その手で殺したにも拘わらず、まるで罪悪感のないような軽い言葉が行き交い、弾むような笑い声さえも溢れていた。

 殺人を犯した当人たちにとってはそれは正義なのだ。それ故に笑い声をあげ、まるでいい事をしたかと言わんばかりに自慢げにしていられる。

 そしてまた繰り返される質問。

 だが母娘にその質問に答えるすべはない。

 更に言えば、その答えを知りたいのは母娘の方だ。なぜならそれが全ての発端な事は明白なのだから。


 知らない事を繰り返す母娘。

 そして思い当たる事と言えば、やはり久となる。彼が突然訪ねて来た次の日に全ての事が起きたのだ。

 そして目の前の男たちから繰り返し聞かされる【魔法】が本当にあるとすれば、あの日冷凍庫に閉じ込めたはずなのに姿を消し、生きていた事が出来るのも【魔法】だったのではないかと思えてくる。


「あ……あいつよ、あいつしか考えられない」


 母娘の中で至った答えを男たちへと伝える。

 久の姿を自分も確認した事、インターフォンの前に確かに居たはずなのに外へと出たらまるで魔法のようにそこから姿を消した事を。建物の前にいて消えた2人は確かに自分たちに似ていたが、我が家では犬は飼ってない事を。


 問答は暴力をまじえながら幾度となく繰り返され、時間だけが経過して行く。

 そして男たちの中で結論が出る。

 どうやらこの母娘は本当に知らないらしい……もしくは絶対に答える気がないらしいと。


 夢にまで見た【魔法】を手に入れる事が出来ると大きく期待していたために、街中での拉致という少々危ない橋を渡ったというのに、ここまで来てそれが適わないとわかった。

 ……それが大きな怒りへと変わるのに時間は掛からなかった。

 そして今ここにいるのは、男6人と女性2人。

 怒りが欲望へと姿を変えるのはもはや当たり前といっていいだろう……

 欲望に身を任せ、代わる代わる行われる陵辱。


 通報から現場に赴く事が遅かった警察も、どうやら本当に拉致事件と判断した後の動きは早かった。

 世間が注目する事件の当事者たる3人が拉致された挙句にもし何かあったとしたら、今度は警察が責めを負うのは必至となるだろう。そのために県警に要請を行った上で、数百人体制での捜査に挑む。

 近隣住民からの聞き込みや、近くの様々な店舗に備わっている監視カメラから使用された車を突き止め、更には行く先を追う。

 犯人たちは所詮は素人集団なのだ、捜査の苦労はそこまで難しいものではなかった。

 そしてどうやら犯人たちが向かったのは隣県にまたがる山奥の廃村では無いかと当たりをつけた。

 幾台ものパトカーが連なり廃村へと到着したのは、既に日が落ち暗闇がすぐそこに迫って来ている時間となってからだった。


 そして廃村だというのにも拘わらず、ロウソクによる拙い明かりが漏れる家を見つけ飛び込んだ先で警察官たちが見たものは……

 変わり果てた姿の親子3人と、欲望に身を任せたために疲れきった身体を休め満足そうな顔をする6人の男たちだった。


 暴力の嵐に晒された男は着ていた服はボロボロで、身体中が赤黒く腫れ上がってはいたが、微かに未だ心臓は動いており虫の息といった様子だった。

 男たちの欲望の捌け口にされた母娘は、衣服は全て元の形がわからないほどに破り捨てられており、殴られたりしたのだろう……男ほどではないものの身体中のあちこちが赤黒く腫れ上がっていた。そして目は虚ろで、その精神に異常をきたしているようにも見えるが、2人ともに生存はしていた。


 6人の男たちの逮捕と共に、緊急搬送される親子3人。


 その後男は一命を取り留めたが、全身の複雑などから重い後遺症が残るのは必至で、今後残る人生は酷く辛いものになるだろう。

 また母娘は度重なる凌辱により、精神に異常をきたしてしまっていたために、今後はそのまま病院内で過ごす事が決まった。


 6人の男たちは、暴行傷害や拉致監禁など様々な罪を負う事となり、今後の長い人生の大半を刑務所で過ごす事となるだろう。



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