第18話 夏だ!!肝試しだ!!幽霊だ!!

 温泉イベントも消化し、特別何か得をしたわけではないのだが。

 むしろ、ちょっとまずいことになりそうな予感さえしている。


 そんな緊張感を感じたまま、夜最大のイベント。肝試しの時間になったわけだが、よりによってその組み合わせが


 ちなみに班はくじ引きで決まりました。


 第1班、セラ、陽、蜜葉ちゃん。

 第2班、香原、俺、沢尻先輩。


 カオスだ。まさにカオス!!


「では早速行ってみましょう!!」

「ルートはこの地図通りにすすんでねっ?」


 ママーズ、あんたらは行かないのかよ?


 ちなみ噂では、ここ近くの海岸で飛び降り自殺した女性の霊が出るという話だ。


「それではまず第1班っ。スタート!!」


「ふふ、では翔さん。行って参りますね?」

「お、俺は幽霊なんて信じねーぞ」

「ちょっとあんたしっかりしなさいよっ。こっちが怖くなるじゃないっ」


「おう、いってらっしゃい」

 そして、弟よ。信じないって言ってるが隣にいるのはまさにそれですよ?


 こうして1班目が進む。背中はあっという間に見えなくなり、だけど謎の悲鳴は聞こえてくる。

 ママーズはまだスタート地点にいるわけだし、ビール飲んでるところを見ると恐らく動いて脅かしに行くことはないだろう。


「では、第2班も行きますよ~」

「では行ってらっしゃーい」


「では、行くとしますか」

「ちょっとっ、先頭歩きなよっ!!」

 前回ので学んだかこのアホ。

「……んー、ちょっと怖いかも」

「大丈夫ですよ、俺いるんでっ」

「うわ、うざっ」

 うるさいぞ?




 各班、だいぶ進み、みな無事生存中であるようで、ここにはいない1班目の叫びも後方の俺達までしっかり聞こえている。


「うぉおおぉぉぉぉおぉおおおおおぉ!!!!」

「いやぁぁあああぁああああぁぁぁぁ!!!!」

「あらあら~」


 ほらな? にしても意外だったな。蜜葉ちゃんが霊苦手だとは。意外と可愛いとこあるじゃん。


 ってかセラ、そんな大きい声で「あらあら~」はないだろう。


「うわきもっ」

「……。ん、んんっ!!」


 俺はごまかすように軽く咳払いした。


 今回、幽霊どうのこうのってのは大して怖くない。それより今はの方が怖い。


「あかちゃん、お風呂での話今ここで話してもいいかしら?」

「……いいですよ?」

「俺は先行きましょうか?」

「いえ、藤崎君もここにいて?」

「大丈夫だよ、翔。これは私もうっかりしてたから」

 この馬鹿もさすがに気づいていたか。


「あかちゃん、いえ。香原さん?」

「…………」

「香原さんであってるのかしら?」


 そりゃそうだ。1年は一緒の高校に通い一緒の部活で共にしたのだから。


「ええ、あってますよ」

「どういうこと? 亡くなったんじゃなかったの?」

「ええ、がっつり死にましたが」

「最初は目を疑ったの。何かの間違いで、きっと似ているだけなんだろうくらいに思っていたわ。でもそうじゃないのよね?」

「…沢尻先輩、今全部話してあげますね…」


 そして香原は洗いざらい全部話した。今までの事、姿が見える方法、セラの事も全部。ホントに隠し事無しに全部。


 こういう時は、いっその事、全部話した方が後が楽だからな。

 さて、香原が大方話し終えた後の沢尻先輩の反応はどうなるかな。


「なるほどっ。そういうことねっ」


 あれ? 意外と普通。


「驚かないの?」

「驚くも何も、あなたが目の前にいてあなたの口から出た言葉だもん。私は信じるしかないじゃない?」


 さすが、落ち着いているな。落ち着きすぎているような気もするが。


「ぎんちゃん、セラちゃんもそうなのね」

「そうです。黙っていたわけではありませんでしたが、香原の件は完全に俺も忘れていました。申し訳ないです」

「いいのよ、謝らないで?」


 うーん、何か怖いな。何を考えているのか、珍しく読めん。


「香原さん、じゃあ私がとっても文句言わないわよね?」

「…………。言えないよ」

「そうよね」


 とる? 何の話だ? スイーツ?

 俺はちょっと話についていけなかった。


「藤崎君?」

「はい?」


「あの時の返事は出たかしら?」


 こういう時の女性って真剣なんだろうけど、少し怖いよな。ついさっき感じた様子の違和感の正体はこれだったんだろう。


 沢尻先輩は今、怖いけど逃げない。そんな顔をしている。

 いいねっ。そういう女性は大好きだ。


「沢尻先輩」

「は、はいっ!!」

「ごめんなさい」

「「えっ?」」


 香原と沢尻先輩は驚いていた。どうやらこの返事は予想外だったか。


「たしかに、沢尻先輩は将来のお嫁さん候補ナンバーワンでしょう」

「お、お嫁さん!?」

「……」

 香原、少しうるさい。


「進路の話をしてくれたことがありましたね?」

「う、うんっ」

「もちろん、沢尻先輩と同じ大学に進みます。俺にもこの前の大会で推薦来ていたので。弓道をやりに行きます」


 そうなんです、実は来てたんですよ。すごいでしょ?


「そ、そうなのねっ。でもそこまで決まってるならなんで?」


 そう来るだろう。今のだけ聞くとほぼオッケーと言っているようなものだ。


 でも俺はここでオッケーを出せる人間ではない。


「……」

 香原は沈黙を決め込んでいる。


 安心しろ香原。お前は気にしなくていい。


「えっ?」

 そういうことだ。

 きっと今、あいつは俺の中を見ているのだろう。ちゃんと使い方あってるじゃないか?


「沢尻先輩」

「はい」

「俺は中途半端な関係が嫌いなんですよ」

「?」


 今でこそ確かに色々中途半端かもしれない。だから俺は今、人間関係の話をしているわけはない。

 要は気持ちの問題だ。


 お付き合いをする。それは互いを本気で好きになるということ。でも俺の気持ちは彼女に好意こそあるものの、それは香原やセラにも同様なんだ。


 だから、中途半端。今俺が向ける好意をこの人だけに向けるのはなんか嫌だ。


 世の中の女性は「なにそれ?」とか思うのだろう。

 きっと沢尻先輩はそれでもいいからと言うのかもしれない。


 でも残念。今の状態で付き合うのは嫌なんだ。


「だから、今はお断りさせていただきます」


 沢尻先輩は泣くことはなかった。悔しそうに下唇を噛むことはあっても泣くことはなかった。

 本当に強い女性だ。さすが候補ナンバーワン。


「そうなの…ね。でもいいわ、この先大学でも近くには居てくれるんだもんね?」

「まあ、そうなりますね」


「香原ちゃんもなんか意地悪みたいでごめんね? でもよかったね、私たちっ」

「そうですね。でもこいつはホントに馬鹿ですよっ?」

「ふふっ、そうかもねっ?」


 私たち? ってかなんで俺馬鹿呼ばわり?


「あー、沢尻先輩っ」

「なにぃ?」

「こいつらの事他の人には内緒でお願いします」

「それはそうよっ。バレたらめんどくさいんでしょっ? わかってますよ」


 あれ? 俺この人の前でめんどくさいって言ったっけ?


 だがこうして、肝試しより怖いイベントは幕を閉じることができた。


 今回はうっかりミスって事もあって、こういう展開になってしまったけど、もう少し早く話していたら少しは違っていたのだろうか。


 ただ、人からの想いを受ける時はどうしたって重い空気になる。それはきっと仕方のない事だろう。

 伝える人の想いが強ければ強いほど、その場の空気は重くなる。言霊とはよく言ったものだが、言葉の内に宿る霊力か。

 霊、か。本当ににはつくづく振り回されるな。



その頃1班目―


「うおぉぉぉぉーーーー!!!!」

「いやぁぁぁぁぁーーーー!!!!」

「あらあら、2人とも。足が速いですねっ」


 こちらもこちらで振り回されていた。


 何に振り回されていたのか。


「ふふっ、それは皆さんの想像にお任せしますね?」


 だ、そうだ。


 


 これにて、夏の海イベント全過程、終了!!


 

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幽霊が恋をする 山崎 ねぎ @negiyamazaki

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