第11話 銀髪と茶髪の幽霊と俺と

「ほら~翔、起きてよ~、お母さんにまた怒られるよ~」

「翔さん? 起きてください。起きないとチューしますよ?」

「「ぬぬぅ~~~」」


 おいどっちだ? 今とんでもないこと言ったのは? それだったら起きないぞ? 逆にね?


 ってか寝起きの人の前で喧嘩しないで?目覚め悪いから。




 そういうわけでから、俺達は3人になった。


 俺の部屋はロフトがあるため、4人くらいならギリギリ寝泊まりできる部屋になっている。その為狭さは問題ないのだ。


 だが別の問題がさっそく発生していた。



 セラが家に来て、「今日からここに住みます」なんて言った時から俺達はここで3人で暮らしていく事になった。暮らす、これが適切な表現かは最近怪しいと感じ始めているのだが、とりあえず今は暮らしていくでいい事にしよう。


 だが、香原とセラの仲があんまりよろしくない。常に何かを競っている。そんな感じだろうか。昨日は中々激しかった。




「翔さんのお嫁さんになるので今日からここに住まわせていただきます」

 また、何を言うのかと驚かずにはいられなかった。


 そしてそのトンデモ発言に返答する前に香原が先に出た。


「ダメに決まってるでしょ!?」

 珍しくテンションあがってるな。なんかあったか?


 香原は少し強めの口調で応答した。


「えっ? ダメなんですか?」


 それに対してのセラは冷静だった。

 まさに正直で素直な反応で、どこか子供っぽいところはあった。



「ねっ? 翔ダメだよね?」

 えぇ~? ここで俺?


「えっ?別にいんじゃね?」

「なんでよ!!」

 納得いかないなら最初から聞くなよ。

 別にいいだろ? どうせ幽霊だぞ? やましい事起こせないし。


「やった! 翔さんならそう言ってくれると思ってました。でも今やましいこと考えてませんでした?」

「私も感じたんだけど気のせいかなぁ?」

 なに? なんでわかったの? こわっ。


 一瞬に俺が標的になったが、香原が再びセラに的を向けた。


「大体、お嫁さんになんか無理に決まってるでしょ!? 私たちは幽霊で、翔は人間なの? お・わ・か・りっ!?」

「ええ、わかっています。でもいいのです!! 翔さんの傍に一生いられるだけで」

「ふぬーー!!」

 ええ? 一生? 逆に俺にお嫁さん出来たらどうするのよ? ってかそもそも俺の許可いらないのそれ?


「んねぇ? 俺にお嫁さんできたら?」

「そんなのダメですよ?」

「それはダメっ!!」

 ん? なにがダメ?


「まったく翔さんったら。どんかっ…ふんぐっ!?」

 途中まで言いかけたところで、セラは香原に後ろか両手を回され口を塞がれていた。


 なに? ドカン? なんだって?


「あなたはもうそれ以上言っちゃダメ。わかった?」

「なんでです?」

 またセラの無垢な感じで質問されて調子が狂っている香原は言葉を詰まらせていた。


「それはぁ、そのぉ、こっちにもいろいろあるの!!」

「あなたもめんど…、大変な性格していますね?」

「それはお互いさまにねっ!?」

 香原、それはいいツッコミだ。キレるてるねぇ。

 でも、めんどまで言いかけたことに対してはツッコまなくていいのかい?






 って感じだ。まったくこいつら変なところで息合うし、でもなんか言い合い多いし仲が良いんだか悪いんだかわからんな。


「仲良くないわよ!?」

「翔さん? 決して仲良しには慣れていませんよ?」

「でも息ぴったりじゃん」

「「たまたまです」」


 ほら、息ぴったり。




 

 

 高校編の通学路を3人で歩く。いつもは2人だったけどやっぱ1人増えるってだけで自然と雰囲気も明るくなるよな。


「それにしてもこんな風に翔さんと同じ学校に行けるなんてっ」

「そりゃあ、よーござした」

 学校か。

 なんか色々あって普通に学校に行くの久しぶりに感じるな。


 俺が懐かしんでる隣で香原が、何やら肩を落としているように見えた。

「あーあ、私の計画が…」

「ん? なんだ計画って?」

「いいの。気にしないで」

 そう言うなり今さっきより肩を落としているように見える。

 今さっきまでの勢いはどこに行ったのやら。変な奴。



「あっ。そういえば香原? この前の事なんだけどさ?」

「なに~?」

 香原は少し落ち込み気味にも反応してくれたので、そのまま質問した。


「セラの何が怖かったんだよ? それにセラが姿を現した時、やっぱり~みたいなこと言ってなかったか?」

「? 私が怖かったのですか?」

 あの時は、あんまり触れなかったけど思い返してみると香原はセラの事わかってたような風だったんだよな。


「は~~。それはね、なんとも言い表しずらいんだけど、強いて言うならこの状況じゃないかな」

「ん? どゆこと?」

「はぁ、女の勘だよ」

「あ~、なるほど~」

 セラは何がなるほどなのか? ぜひ教えていただきたい。


「翔さん。女の勘はすごいのですよ?」

 そ、そうだったのか。それは思考掌握の近いのでは?

 だとしたら、俺のことが読まれているのも納得だ。


 にしても、さっきから変な香原だ。

「香原、大丈夫か? 悩み事があるなら聞くぞ?」

「はぁ、悩み事があったとしても、この悩み事を翔には絶対言わないよ」

「あるのかっ!? 悩み事!? 何でも言ってくれ!!」

「だから言わないって言ってるでしょ!?」

 へ、変な奴。これ以上はツッコまないでおこう。





 今日は、セラも含めての初めての学校ということもあり色々新鮮だった。

 俺がセラを連れて学校に連れて行く時、少し気まずかったのが宮本とのことだった。


 だが、学校に着いた時、教室の窓側最前列を見ても、そこにいたのはいつも通り空気のような男が座っているだけだった。

 こちらを見るような素振りもなく、少し気味が悪かったことは否めない。



 にしても、宮本よ。お前いつもこれ耐えていたのか?

「翔さん。私、この髪の毛がない人が何言ってるか全くわかりません」

 いやいや、髪の毛ない人って。


 今は3限目の数学の授業中だった。数学の先生は、確かにおでこは恐ろしいほど剥げているが、そんな直球に言うかね?


 まあ、セラは7年前で学力も止まってるのから、数学がわからないのはしょうがないと言えばしょうがないのだけど。髪の毛がない人はないな。

「ん~? 難しいですね?」

 そんな、数学を難しく感じているセラを見て香原は言った。

「アほね~」

 ははっ。そりゃお前もだろ。

「ぶほっ!!?」

 ぶ、ぶたれた。いたいっす。


「なんだ藤崎? なにか質問か?」

「いえ、なんでもありません」

 みろっ!? 悪目立ちしちまったじゃねぇか。


「ひひっひ。おっかしいーのっ」

 はぁ、少しは機嫌戻りましたかね?


 基本、俺が学校生活を送るときは床で座ってるか、立って教室散歩してるかだったのだけどセラと一緒になったことで少しは会話相手増えてよかったな。


 …でも本当に宮本は見えていないのか? まるでに振舞うな。




 


「ほぉーー!! これが部活動!! 翔さんはこれは何をやってらっしゃるのですか?」

 部活の時も騒がしい。さすがに道場だけは大人しくしていてほしいのだが。

 香原、頼むぞ?


「ふふんっ!! あなたこれも知らないのね。これは弓道って言うのよ? ちなみに私も弓道部だったの!! 翔と同じのねっ」

 あっ、だめだこりゃ。


「へぇ~? 私もできるかしら?」

「無理ね。動作覚えるまでが難しいんだから」

 うるさー。気が散る。

「翔さん!! 私も今度やらせてください!!」

 はいはい、今度な。

 セラは興味津々の様子でお願いしてきたけど、バレずにやるの大変なんだぞ?」


「藤崎、ちょっといいか?」

 まだ、部員は練習を続ける中、弓道部顧問が俺を呼んだ。


「弓山顧問…。はい」

 うちの顧問、弓山昌弓。独身男性32歳。

 どうしてうちの先生は独身が多いんだろう?


 という疑問はひとまず置いといて、前日の件だろな。


「藤崎、もう大丈夫なのか?」

「はい、ご迷惑おかけしました!! もう大丈夫です!!」

「そうか。お前には期待している。頼むぞっ!!」

「はい!!」



 俺と顧問のやり取りに部員の雰囲気が安心したような物になったのがその時わかった。本当に迷惑かけた。


「ふふっ、翔さん。人気者ですね?」

 人気者? ちょっと違くないか?

「あったりまえでしょ? 翔はエースなの!!」

 いやいや、んなことないだろう。

「まあ、それはすごいです!!」

 それもどうも。


 部活に専念っていってもこいつらいたらな。

 家に帰ったら、部活の時は大人しくしててもらうようにお願しなくちゃな。





 そうして、部活も終わり自主練を早く切り上げて3人で自宅に帰っていた

 この季節になってくると、夜の7時とかでも温かく歩きやすい。

 散歩が気持ちいい時間だな。


「はぁ~~、学校楽しかったですね?」

「そうか? そう思えるならよかった。な? 香原?」

「そうね。なんか道場するわけではないけど私も似たようなものだったもんね」

 結構、やることも似ていたりしてるもんな。


「お前なんか、最初校長のカツラとりそうだったもんな?」

「へへっ。そだっけ?」

 とぼけんな。がっつり恥ずかしかったぞ?



 しかし、これから毎日今日みたいな感じでこいつらに言い合いされてもたまったもんじゃないな。ここは一肌脱ぐか。


「いいか? お前たちお互い唯一の友人なんだ? 大事にしろよ? そうでなきゃ家から追い出すからな?」

「大丈夫ですよ? 私はいつでも仲良くできます」

 セラよ。そういうがな、朝の時仲悪そうだったじゃん?

「はぁ~、もういいやぁ。腹くくりますよ」

 香原よ。腹をくくるとはなんだ?

「香原は今日やけにため息多いな」


 思えば昨日からずっとだ。

「はっ!? やっぱり何か悩み事が!?」


「だ・か・ら、翔には言わないって言ってるでしょう!!」

 そういいながら香原は右手の平手打ちを俺に向け放った。

 それは見事な平手打ちで、俺は宙を舞いコンクリートの地面に倒れた。

「ぶふぇっ!?」


 な、なんだと…。親父にもぶたれたことないのに…。

 ま、親父いないんすけど。


「ご、ごめん!! 大丈夫!?」

「痛いっす」


「翔さん、周りからすごい目で見られてますよ?」

 セラがそう教えてくれた時にはすでに遅し。帰り途中の仕事人たちの視線を集めていた。


「え?」

 あかん、これじゃ自分で飛んで回転して地面ダイブした人になってる!!


「逃げるぞ」

「「えっ!?」」

 そうして、俺は香原とセラを残して先に猛ダッシュで家まで走った。



 

 その翔の背中を目で追う幽霊2人。

「はやっ!!」

「速いですねぇ」


 取り残された2人は、翔がいない今が好機と見計らいセラスから会話を始めた。

「香原さん?」

「なに?」

「このままでいいのですか?」

「なにが?」

「翔さんとの関係ですよ? その為にに居るのでしょう?」

「…。そういうあなたはどうなの?」

「私は言ったではないですかぁ。一生お側にいますよ?」

「もし翔に彼女が出来て、奥さんでもできたら?」

「それでもいますよ?」

「そっ。強いのねあなたは」

「おや? てっきりあなたもその覚悟でここに居ると思っていましたが?」

「ええ。まったくもってその通りよ?」

「それなら私たちこれから長い付き合いそうになりそうですね」

「そうね。ねぇ冬月さん?」

「はい?」

「握手しましょう」

「ふふっ。別にセラでいいですよ?」

「生意気な後輩ねっ」



 こうして2人は無事握手をし、ある意味、翔がいなくなるという行動を起こしたおかげで二人の距離が縮まったのであった。


「でも、翔をあなたには譲らないわ!!」

「私も引きませんのでっ」


 …縮まったのである。






 

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