第7話 幽霊と友達作ってみた その2

 前日に、香原からまさかの告白があった。

 それは決して愛の告白などではなかった。だが、今の状況がガラッと変わる内容であることは間違いなかった。香原と同じような、こちら側の生きている人間と会話をしている幽霊がいるというのだ。

 そろそろ、自分で一人でこいつの相手を続けるのはお互いに良くないと感じ始めていた俺にとっては吉報であり、本日の学校を向けるにあたって大変テンションが上がっていた。


「よーし!! 香原君!! 気合を入れていこうではないか!!」


 俺は意気揚々と付き人ならぬ付き幽霊に声をかけた。俺の声を受け、一方香原というと、俺のテンションの上がり方についてくることが出来ていないようで、温度差を感じる。


「なんで、そんなテンション高いの? 1日そんなに気合い入れていたら疲れちゃうよ」


 それは珍しい光景であった。普段は香原が好き勝手に動き俺が振り回されるような光景が多かったが、今はどちらかといえば俺が振り回しているような感じだった。

 その違和感もあり、俺は香原の指摘があながち間違いではないとも感じてしまったので少し落ち着くことができた。。


「そ、そうだな。すこし取り乱しすぎたな」

「うん、少しじゃなかったけどね?」


 香原は淡々と指摘を入れる。もう少し、俺が乗り気になったことで一緒に盛り上がってくると思っていたが香原はそんなことはなかった。

 例えるなら、幽霊屋敷に入って1人が驚いていたら1人は落ち着いているような状況がを見るが、今はまさにそんな状況だろう。

 まあ今は昨日話した”X"についてだ。”X"とは『香原が気になる女性の幽霊の隣にいた男性』のことで、その呼び方が長いから今はまだ”X"としている。ちなみに俺が名付けた。


「ところでだ。”X"の外見に特徴はなにかあったのか? それがあると大変見つけやすいのだが」

「うん、それなら大丈夫だと思うよ?」


 校門をくぐる前に、これからの行動のことを考えて香原に質問した。そしたら、香原は大丈夫だという。一体、何が大丈夫なのだろうか?


「大丈夫ってのは?」

「んー、だってうちらのクラスにいるもん」


 もん、って簡単に言ってくれるが、よく今まで俺に隠せてきたな。こいつなら気なって俺にすぐ話しても不思議でもなかったのにな。こいつなりに隠したい理由でもあったのだろうか?


「ほう、んでその正体とは?」

「なんていったけな~、ん~いつも影薄すぎて忘れちゃうんだよね」

 うちにクラスで影が薄すぎて香原の頭から名前が消えてしまうような人物か。しかいないな。

「たぶん、わかった」

「え? 今のヒントで分かったの?」


 わかったも何も俺のクラスで他の人からも忘れられてしまうくらい影薄い人物なんてあいつしかいない。


宮本茂みやもとしげるだろ?」

 茂という名前だけ聞いたら結構濃い名前しているのにな。

「そうそう!! しげるん!!」

 香原は思い出したように香原がつけたであろうあだ名で言った。

 ってか、しげるんって。あだ名付けたなら忘れるなよ。

 なんにせよあいつか。今話にも出た通り影は薄いの確かだが、顔は普通だしむしろイケメンの分類に入るレベルではあるし、勉学、スポーツ共に普通。

 こりゃあまた意外な人物が出てきたものだな。

 一体、付き幽霊と宮本の間はどんな関係なのかも気になりながら教室に足を進める。

 


 俺が学校に着くのは大体いつもギリギリでつく頃にはほとんどの生徒が集まって賑わっている。その中を切り抜け窓側の後ろから3つ前の自分の席に向かう。

 宮本の席は、俺の列の一番前の席だ。

 何でそこで目立たねんだよ。

 だが、気にしなければ一番に気にしない場所と言われればそうであるような気がしなくもないような。

 俺はさっそく行動に移そうと、香原にメモ書き左側にずらして見せコンタクトをとる。

『香原、宮本の隣には今もいるのか?』

 すると香原はこう答えた。

「うん、いるよ。あっ、こっち見た~」

 俺にはまったく見えんがな。ってかそんな軽い感じで教えられると調子狂うんだけど。

 香原は、幽霊がいるという方向を見ながら、俺の後ろにそっと隠れる。

 人見知りか。まったく、言ってみれば同士の仲間だろうに。俺にはまったく見えないからどんな奴かわからないがビビりすぎじゃないか?

 とりあえずは昼休みにでも屋上にでも来てもらって話をしてみる事にした。その為の打ち合わせは、誰からも目にも映らないこいつらに任せるしかない。

 俺はまたメモで香原にコンタクトをとり、昼休みに屋上に来てもらうようにお願いしたが。

「無理!! あの人怖いんだもん!!」

 香原はまたそんなことを言う。だから同じ幽霊だろうに。

 俺はビビりなこいつに対して強きな姿勢を見せた。

『大丈夫だ!! お前と同じだ!! ビビらず行けっ!!』

「むぅーー、ちょっとまだ勇気が出ません!!」


 そこまでいうならしょうがない。俺も店舗の悪い流れは好きじゃない。

 なら、コミュニケーションの手法を少し変えるか。

 まだ朝のホームルームまでは時間があるな。

 俺は新しいメモ紙を取り出し、先ほど香原に指示した内容を書き、そのメモを片手に宮本の席にトイレに行くように装って机の上にそっと無言で置いた。

 この段階で直接会話をすると普段とは違う光景にクラスの周りから視線を集めかねない。それはきっと俺にとってもこいつにとっても望むような事ではないだろう。


 その流れで教室を出てトイレに向かうフリをして、教室からの死角に留まった。


 そして、5分程留まって教室に戻ろうと考えていた時、田中先生が俺が思ったより早く教室に来てしまった。

「おー、おはよう。何をしているんだ?」

 ちっ、めんどうな。俺は心の中で舌打ちをした。

「おはようございます。今ちょうどトイレから帰ってきて、クラス見たらみんな賑わってるんでなんか入りづらくってですね。先生来てくれて助かりました」

 もちろん大嘘である。

 そんなわけあるか、入学した時は入りづらさもあったが俺は1年たち成長したのだ。


 今のセリフが嘘だとも知らない田中先生は、俺の肩に片手を乗せ、こう言った。

「逞しくなっ」

 そういって俺を連れるように教室に入っていった。

 この人絶対勘違いしているよね? ってか先に入られると俺がなんかやらかして怒られた後見たいに映るんでどいてもらっていいですかね?

 俺はそう思いつつ先生の後をついていった。案の定教室に入った時は視線を集めはしたものの、流れで席に着くことが出来た。

「それでは、朝のホームルームを始める」

 田中先生の1言で今日の学校も、また始まる。





 それからは昼休みに入るまでは、宮本から接触してくることもなくいつも通りの学校生活だった。


 まあ、このタイミングで接触してこないのは分かっていたし、宮本の表情等を細かく観察していたが、特別変わった表情も見られなかった。

 その様子を見る限りでは、すでに香原と俺の組のことはある程度知っていて、「なにを今さら」とそんなそんな風に思っているのかもしれないな。

 香原を見ても少し緊張しているのかモジモジしている。

 モジモジしないで頂きたい。気が散る。


 4時限目も終わって昼休みに入り、俺はこちらから出したメモ通り屋上に向かった。

 先ほど宮本も教室を出たのを見たのですでに向かってるのかもしれない。


 俺達は、これからの日常に大きな変化が起こるような気がして少し怖かった。だが、今までとは違った刺激が必要なのも、十分に分かっている。命の危機と言えるほど切羽詰まっているわけではないが、ここで臆している場合ではないのも確かだ。


 そう思いながら、足を進め3階建ての学校の屋上。その扉を開けた。

 そこには既に、やはりというべきか。宮本の姿があった。

 なかなか来ることはなかった屋上だったがそこはかなり広く、その中央付近に宮本は立っていた。

 なんでまたわざわざ中央いるのかと疑問をもったが、この際そんなことはどうでもいい。俺はさっそく本題入ろうとしたが先に宮本が口を開いた。


「今日は風が騒々しいな」


 さすがに耳を疑った。

 えっ? 今なんて? 風が騒々しいな? なぜだか胸がいたい。痛いっていうかイタイ。

 俺は驚いた。俺から話しかけなければ絶対話は始まらないと思っていた。

 決して今のイタイ一言で話が始まったとは思わないが。


「そ、そうだな」


 先ほどの一言は予想外過ぎすぎてうまく返事できなかったが、宮本が話を進めてくれた。


「それで? 俺に用があるんじゃなかったのか?」


 なんだ。普通に話しできるんだなと少しほっとした。いままで誰かと話しているのを見てこなかったからちょっと特殊な奴なのかと思っていた。それだけにここまでのセリフは驚いた。


「そうだ、用がある。単刀直入にいこう」

「ああ」

「宮本の隣にも俺と同じような幽霊がついているのか?」

「ああ」

 一切動じず、か。やっぱ知っていたんだな。

「生前はどんな関係だったんだ?」

「いや、まったく知らない赤の他人だ。高校1年の冬か。家に居たら外の窓からノックして入ってきた」

 律儀か。

 でも意外だな。てっきりこういうのは何かしら縁がある者の近くに行くと思っていたのだが。

「その状態になってからの関係だと?」

「そうだ」


 それは大変可哀想に。

 俺の場合は仮にも、好きだった人が幽霊とはいえ一緒に生活できて楽しめた部分もあるが、宮本は全く知らない人と過ごしているのか。


「なあ? 俺の場合はこいつと一緒に日々過ごしているんだが宮本たちはどうしているんだ?」

「俺もそんな感じだ。日々こいつには振り回されている」

 一緒だった。なんなのだろうか、この共通点は。幽霊になって見えた奴は一緒に過ごさなきゃいけないような決まりでもあるのだろうか。


「逆にお前達はどんな関係なんだ?」

 宮本は逆に質問してきた。

 少しは俺たちに興味を持ってくれたのだろか?

「俺たちは、…そうだな。親友だ」

 あってるか? そう思って香原を見るが、少し不満な顔をしていた。

 なぜだ? いいじゃないか、親友だぞ?

「親友か。それは羨ましい関係だ。なあ? お雨の幽霊見てみてもいいか?」

 宮本はそういった。他の奴もこいつを意図してみようと思ったら見れるような感じで、確かにそう言った。

 驚きを隠せなかった俺は思わず聞き返した。

「宮本、お前見れるのか?」

「見れる。お前も見たいと思えば見せてくれるぞ」

 見せてくれる、俺はその事実に驚愕だった。もしそんなことが出来るのなら俺も見てみたいものだ。

「ただ、それには条件があるようだがな」

 それもそうだ。条件なしで見れるのであれば普段からすでに見えていることになっている。

「その条件とは?」

「主人と幽霊、そのお互いの許可があればにのみ姿が見える」

 なるほど。つまり、俺と香原が宮本に姿を見せてもいいと改めて確認をとれば相手からも香原の姿が見えるわけだ。

「どうだ? 理解出来たか?」

「ああ、理解できた」

 宮本は意外と面倒見がいいのかもしれない。説明した後って確認してくる人は少ないが、こいつはそこに関してしっかりしている。

 実は、弟か妹でもいるのだろうか?

「では、今のが理解できたとこで、お互い相談しあってくれ」

「わかった」

 本当に面倒見がいい。話の進行もうまいから非常に楽だ。

 普段の学校生活からもこういう所を全面的に出していけばいいのにと思う。

 

 そして宮本は誰にもいないはずの空間に向かって話し始めた。どうやら相談しあってくれているようで、俺も香原と話を始めるとする。


「どうする香原? ここまで流れ出来てしまったけど、お前教室でもビビってたろ? 見せたくないっていうなら別に見せなくてもいいんだぞ」

「は、はぁ? 別にビビってねぇし!!」

 何でいつもと口調違うんだよ。

「まあ、いいけどさ~、でも姿を見せる代わりに1個条件がありま~す。それを飲んでくれたらいいですよ?」

 めんどくさっ、条件ってなんだ?

「なんだ香原? 友達ほしくないのか? 家にいる時は俺がいるからまだしも、学校とか部活の最中は暇でしょうがないだろ?」

「暇です。寂しいです。友達も欲しいです」

「だろうな。表情見てればわかる」

 香原は少し、しゅんとして言った。少女よ素直になれ。

「まあ、知らない人に警戒するのはわかるがそれは俺たちの最初の時もそうだったろ? 動いてみなきゃ何も始まらないさ」

 香原はもじもじしながら俺の話を聞いていた。

 あと一押しかな?


「香原、そういえばさっきの条件ってなんなんだ?」

 俺はいったん遠回りに説得する方向にシフトした。直線的でだめなら時間は少しかかるが寄り道も大事だろうという今までの16年間の人生で学んだことだ。


 香原は、まだもじもじしていたが口を開いてくれた。

「んと、さっきのは、なんでも1個、私の言うことは聞いてほしいなって」

 そんな控えめに、なんでも1個言うこと聞けって言われたのは初めてだ。まあ、散歩にまた連れてってか、ボードゲームしよっ、とかそんなもんだろ。

 それに今の状況を進めるためには、こいつの言うこと聞いとくしかないしお願い聞くのなんて今に始まったことではないしな。


「いいぞ。ってか言うことは、わりかしいつも聞いていると思うんだけどな」

 そういった俺に対して香原は一瞬にして顔の色を変え雰囲気も何やら生き生きしてきた。

 俺は今さっきから、小さい子供もしくは少し利口なペットを相手にでもしているのだろうか?

「言ったなぁ? じゃあなんでも言うこと聞いてねっ?」

「はいはい、わかりましたよ。んじゃあ、お互い公認だな」

「はいっ!! 公認です!!」

 やっと話がまとまった。

 俺はやっと展開が次に進むと安堵した。宮本たちはだいぶ前に俺の方を見て意外にもクスっと笑うように待っていた。


「宮本、お待たせしたな」

「いいのか? 色々と揉めていたようだが別に無理にとは言わんのだぞ?」

「いいんだ、だいぶ上機嫌だぞ」

 ここでも宮本は「そうか」と少し笑った。そこにどういう意味があったのかはよくわからないが、微笑ましいなとでも思ってくれたのだろうか。


「では手の平を上にして前に出してくれ」

 俺は宮本の指示されるがままに手を出した。対して宮本も同じように手のひらを上に出す。

「そうだ、そのままで頼む」

 なんだか儀式が行われるみたいで緊張する。

 にしても、なぜ宮本はほかの幽霊の見方を知っているのか疑問に思う。ますます不思議な奴だ。


 その直後だった。まばたき一つした時には、手のひらの上には相手の手の平が重なって、確かな重みがあり、目の前にはそれはそれはキレイな白銀の長髪をした女性が立っていた。




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