第3話 幽霊と散歩します

 始業式から学校が始まって今日は最初の土曜日。学校は休みで部活もないので、家でゆっくりしている予定だったのだが、幽霊ちゃんのせいで外に出る用事が出来てしまった。


 それは、


「翔~、そろそろ行きますよ~」

「あいよ、ちょっと待ってな」


 散歩に行きます。


 香原は生前、よく散歩をよくしていたという。


 まあ、よく、これだけ電子機器が発達してゲーム、スマフォ等の中毒者が出ている中で散歩を好んでしていたもんだよな。


 そんなことを考えて感心していると、


「翔~、この服どうですか?」


 香原が俺に対して問うてきた。


 俺は、目の前の白いワンピースを着て、可愛くモジモジしている幽霊さんを見ながら、真面目に考えた。


 まず、この服はどこから調達してきたのだろう。

 そして、いつ着替えたのだろう。

 

 だが、よく似合っている。


 これをある意味独り占めしていると思うと良い。実に良い。


 …なんちって。


「翔? どう……かな?」


 まあ細かいことは置いといて。可愛いです。


「よく似合っているよ。可愛いと思う」

「んふふ、そうかしら~。んふふ~」


 なんか、本日も上機嫌だことで。

 香原も機嫌がいいところで


「んじゃ行くか」

「うんっ!!」


 一応、家族に挨拶をしようと思ってリビングに顔をだす。そこにはゲームをしている弟の姿があった。

 4つ下の弟で、生意気なんだよな。あー、可愛い妹ほしい。


はる。俺散歩行ってくるわ」

「はっ? 何の冗談?」


 陽は、馬鹿にするように訊いてきた。

 まあそりゃそうか。俺、普段散歩なんかめんどくさくていかないものな。


「冗談じゃないのよ。とりあえず行ってくるから、お母さんに言っといてくれ」

「あいよ~。あ~ちょっと兄貴?」

「なによ?」

「最近部屋で何やってんの? 誰かとしゃべってない? ついに頭でも打ちましたか?」

「打ってないわ。友達と電話してんだよ」

「へぇ、兄貴って友達いたんだ」


 まあ確かに友達は少ないけど、お前みたいな、ザ・ひきこもりに言われたくないわ。


「余計なお世話だ。んじゃ行ってくるからなぁ」

「あいよ~、いってら~」


 あの野郎、兄貴をバカにしやがって。


「はる君と仲いいね~」

「よくねぇだろ、どこ見てたらそんなこと言えるんだよ」

「いいじゃないの~。家族は大事にしなきゃね?」

「…わかってるよ」


 紅華に言われると妙な重みを感じる。あー、そうだ。そういえば今ので思い出した。


「なあ、香原?」

「なに?」

「家族に会いたいとかあるか?」


 大事なことだ。こういうやつって基本家族想いな奴多いからな


「ん~あるけど、今はまだ怖いかな」


 それもそうか。家には仏壇飾ってあるだろうし複雑だよな。

 ちょっと無神経だった。


「悪かったな」

「いいよ、気を使ってくれたんでしょ?」


 逆に気を使わせてしまったな。少し反省しよう。



 




 家から出て散歩をして、10分くらいたったか? 


「いい天気だね~」


 香原の言うとおり、今日の空は曇一つない快晴だった。


「ああ、いい天気だな」


 そこで、香原は何かを見つけたようだった。どうせ猫とかだろ? 


「ねっ、あそこ!! ねこっ」


 ほら猫だ。そこまでテンション上がるかね?

 一応合わせてやるか。


「ほんとだな。近づいたら逃げるぞ?」

「それは翔が目つき悪からです。大丈夫!! 私に任せてちょーだい」


 そう言うなり、ねこにゆっくり近づき、普通にジャレて楽しんでいる。

 たまにいるよな、野良の猫にビビられずに普通に触れる人。べ、別に羨ましくなんてないぞっ?


「お~、すげぇな」

「いやいや~、人懐っこいよこの子。翔も触る?」


 俺も近づいてみるが、俺目つき悪から猫と戯れたくても、いつも逃げられるんだよな~。


 そして、そ~っと手を伸ばして頭を撫でようとしたら、


「んにゃっ!!」


 ……うん。知ってた。


「あ~行っちゃったね。ふふ、翔、目つき悪からだよ~」

「わかってるわ!!」


 

 猫か…。あの時、俺の前を歩いていたのも猫だったな。


 あの猫はなんかいみがあったのだろうか?


「翔? 難しい顔してるよ~。せっかくこんな天気いいんだからお散歩楽しまなきゃ」

「はは、そうだな」


 まったく、こいつの陽気さには本当に助けられるな。


「ありがと」

「ん? どしたの?」

「いや、なんでもないよ」


 そして足を進めた。本当に、のどかな町だ。都会みたいに建築物がならんで人が多いわけではなく、自然が豊かだ。田んぼに、田舎っぽい公園、そこで遊ぶ子供達。俺、生まれが田舎でよかった~。都会みたいに人込みのうるさいの嫌いなんだ。

 自分が住んでいる町は、ちょっとした観光地で家から20分くらい歩くと商店街みたいなところに着く。



 また香原が何か見つけたようで、


「ねえ? あれ、迷子かな?」


 紅華が指差した先には、幼稚園生くらいの子だろうか? 泣きながらママを呼びながら歩いている。

 子供は、くねくねしながら道路にはみだして危ない歩きをしている。

 俺の耳には、前法方からは車の進んでくる音がする。


 いやな予感がするな。俺は咄嗟に走りだす!!


「えっ?! 翔!?」


 香原は驚いた表情をしていた。



 子供と3メートル弱の距離で目の前に車が見えた。このままの進めばまず間違いなく跳ねてしまう。


 間に合うか? ギリギリだな。


 普段だったらこんな迷いなく動かなかったかもしれない。


 でも、がまだ生きていたらどうしたかなって考えたら、足は自然と前に出た。


 そして子供に近づいた俺は、その子の手を全力でひく。

 クラクションが鳴り響きながら、車は間一髪のところで去っていった。


 あ、危なかった。少しでもためらっていたら間に合っていなかったな。


「っあっぶね~。おい? 大丈夫か?」

 子供に声を掛けるとひどく泣いていた。

「ひっぐ、ひっぐ……。ママがいないの」

 そっちかーい。でもよかった、ひとまず怪我はないみたいだな。


 にしても、ママか。近くにいればいいか探すのめんどいな。でもこういうパターンってママは店で買い物していて、目を離した隙に子供はどっか行っちゃった感じだろうから、このまま近くで待っていれば迎えに来るか?


 そんなこと考えていたら、そこに、この子の名前らしき名前を呼ぶ女性の声がした。

「だいき!! だいき!!」

 子供はその声に反応し、聞こえた方向に駆け足でむかった。よかったな。

「ママ!! ママ~!!」

 全く、タイミングがいいのか良いのか、悪いのか。


 ほんとよかったな。俺も探す手間が省けたわ。


「本当にありがとうございました!!」

「いえ、もうその子から目を離さないでやってください」

「申し訳ありませんでした!!本当にありがとうございました!!」


 そう言って二人は去っていった。やれ、一件落着だな。


 にしてもちょっと目立ちすぎたな。ここからすぐに去りたい。目立つの嫌い。香原はどこかなっと。


「翔っ!!」


 声がしたのでこの場を去るのに、「行くぞ」と声を掛けようとしたら、先に香原が飛び込んできた。それを、抱くような形で受け止めた。

 あーあ、目立つ目立つ。


 勢いよく来たかと思えば、腕の中の香原は震えていた。

「……………」

 香原の手を引いて、ひとまずはあまり目につかない公園に行くことにした。。




 少し移動したところに公園はあり、そこに着くなり、

「香原? どうした」

 まだ震えた香原に俺は尋ねた。


「……。こわかった」

 怖かった?

「確かに子供結構ギリギリだったもんな。でも、ほら、無事でよかったじゃんか」


「そうじゃない」

 そうじゃない?じゃあなんだよ。

 そういって震えが止まらない香原は、

「翔が死んじゃうかと思った……」


 あーそうか、香原。


「ごめんな、思い出させてしまったか?」

「違うよ、ただただ心配だったの」


 か細い声が胸の前で聞こえる。


「心配かけてごめん。ありがとうな」

 俺はただ謝ることしかできなかったが、謝ってばっかの自分にちょっと不満そうに頬を膨らめ「むぅ~」なんて顔を香原は出していた。


「本当にわかっているのかな~」

 わかっていますよ。

 


 それからは、散歩は香原が落ち着くまで待った。だが、元に戻るのに対した時間はかからなかった。公園に来てから10分ほどで香原の震えは止まっていた。



「ごめんね、もう大丈夫だよ」

「時間はまだいっぱいあるんだ。ゆっくりでいいよ」

「ありがとね。でも本当に大丈夫よ」

「そうか」



 元に戻ったところで、それからはまた普通に散歩した。


 毎日の見慣れた風景ではあったけど、ゆっくり見ていると、こんなとこもあったのかと驚かされる。たまには散歩も悪くはないな。

 

 なんだかんだ言って半日くらいはずっと歩いていた。

「そろそろ、帰るか?」

「うんっ、私は満足です。怖かったけど翔の優しい姿も見れたし、満足満足です」


 さっきまで震えていたやつの発言とは思えないな。

 でも、あー可愛いな。


「おっ? 私の今の顔に惚れましたか~? 惚れてもいいんですよ~? ほれほれ~」


 横に並んで歩く香原が、肘でぐいぐい押してくる。


 なんだこいつは、そういうのは男の子は勘違いしちゃうのでやめてほしい。

 俺が困っていると、香原は、


「はぁ、まったく、しょうがないな~」


 やれやれと言わんばかりの言いっぷりに、こっちの方がやれやれだと言い返したい気持ちになったのは言うまでもないだろう。

 何が、しょうがないのか、全くわからん。




 

 家に近づくにつれ、今日の散歩はいろいろあったけど意外と充実していたことに気づかされた。


「なあ?」

「ん? なあ~に?」


 まあ、こんな日があってもいいよな。


「また、散歩しような」

「あれ~? これは以外ですな~。私は毎日でもいいのよ?」

「いや、それは勘弁してくれ。疲れちゃうから」



 こんな、たわいもない会話をして、毎日を過ごして幸せを感じている自分がいる。

 

 それはきっとダメなことは分かっているんだけどな。


 

 



 



 

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