第1話 幽霊と暮らしはじめました

しょう、起きなよ~。お母さんに怒られるよ~」


 のんびりしていて、大して感情の起伏のない可愛らしい声がする。


「起きてるよ」

「布団で寝ている状態を起きているとは思いません」

「だから起きてるってば」

「起きてないから言ってるんです!!」


 怒られた、だるっ。朝は苦手だ。こんな気持ちのいい布団から出るのは中々厳しい。

 ただ学校に遅刻するわけにもいかないので起きざるを得ないのだが……。


「もう、やっと起きた~。今日から新学期じゃないの?」

「あー、そうだよ」


 にはまだ慣れないな。


 


 

 

 あの寒い冬の日、俺は初めて幽霊を見た。12月の冬、猫に導かれるように帰った家には、亡くなったと聞いていたはずの香原紅華こうはらこうかが待っていたんだ。


「待ってたよ~。さみしくて死ぬところだったよ」

「香原? どうして? ってか、そこ俺の布団」

「なに? ここに居ちゃいけないの?」


 訳が分からなかった。死んだはずの人間が布団の上でくつろいでるし、しゃべるし、可愛いし。関係ないか…。


「お前死んだんじゃなかったけか?」

「死んだよ」


 なんでこんな落ち着ているんだい? あっさり言いやがって。


「なるほど、んじゃお前はなんだ?」

「幽霊になっちゃいました~」


 しまいには、明るくそんなことを言うし。

 でも、なるほどな。ぶっ飛んでんな。成仏できなかったのか? じゃあ、 


「お前、未練でもあるのか? まあ、なんとなくわかるけど、だとしたら此処じゃなくてあいつの方にいた方がいいんじゃないか?」


 きっと、あいつともっと一緒に居たいから現れちゃいましたとか、そんな流れだろ?


「この世に未練はあるけど、別にあの人に未練はないよ?」


 おっと?ん~? どゆこっちゃ?


「ふふっ。いまどゆことって顔したね?」


 普段馬鹿なこいつ見透かされるのは少し腹が立つな。でも可愛らしい幽霊が無邪気に笑ってたらなぁ? でもだとしたら……?


「ちなみに聞かれても教えないからね? 翔が死んでこっちに来たら教えようかな~」

 やっぱ、腹立つな。

「いつかの俺のマネのつもりか?」

「目には目を、歯には歯だね~」


 ってか、こっちって……。死後の世界は普通にあるみたいに言いやがって。もうなんか、スケールでかすぎ。

 そうそう、それを聞いとかなくちゃな。大事な話だ。


「俺の部屋に居座るのか?」

「うん、そのつもり」


 まじか。 


「却下、あいつの方に行けよ」

「それは無理だよ~?」

「あぁ?なんでだよ?」

「だって、私が成仏できないのあなたのせいだもん」


 なんてことを普通に言ってくれるが、僕何かしましたか?


「訳が分かりませんがね? 僕なんかしましたか?」

「あなたは大罪を犯しました~」

「心でも盗みましたかね?」

「おっ? うまいねぇ」


 ル〇ンかって…。

 どこまでも俺が知りたいことをしゃべらないな。かといって、このままってわけにもいかないしな。


 香原は続けて話しをつづける。


「私、あなたの幽霊になります!!」


 こいつ、頭沸いてんな。


「ほぉ? それってなに?」

「ん~、基本的にずっと一緒にいます」

「トイレも?」

「トイレも」

「お風呂も?」

「お風呂も」

「寝る時も? 学校行く時も?」

「いついかなる時も」


 ん~いや~、これはよく考えなくても無理だな。


「無理で~す」

「嫌で~す」


 厳し~。そりゃそうだろ。仮にも? こいつが幽霊だとして? 顔も知っている仲で、好きだった女の子で、いつも一緒だと? 無理だっつうの!

 

 くそっ。ちょっと半諦めるとして、目の前のアホ面して平和そうな顔しているこいつには、いくつか確認しなきゃならなことがあるな。


「ねぇ?」

「なに~」

「ちょっと、手を触ってもいいか?」

「いいよ~」


 俺は恐る恐る触ってみた。確かに感触がある。小さくて柔らかく、死んでるはずなのに妙に温かい。触れるのか。後は……。


「俺以外にお前は見えるのか?」

「多分見えないんじゃないかな?」


 なるほど、俺が我慢すれば問題は無いっちゃ無いな。いやだけど。


「お前はいつまで俺と過ごすつもりですか?」

「それはあなた次第ですよ?」


 またそれか。さっきも「あなたのせいでここにいる」のようなニュアンスで言ってたな。本当に俺がなにしたんだか。


「ってことは、俺がお前を成仏させてやらないと消えないと?」

「そ~よ」

「お前はそれでいいのか?」

「なにが?」

「俺と一緒に過ごすんだぞ? 成仏させてやることが出来なければ一生一緒だぞ?」

「いいよ」


 香原は急に真顔になり答える。その顔にはちょっとした覚悟みたいなものを感じた。こいつ本気か?



「わかったよ。お前を早めに成仏させてやれるように頑張るわ」

「はぁ~~~~あ、もうっ!! 別に、早めじゃなくて結構ですので!」


 長い溜息してなんで怒ってんだ? よくわかんね。ともかく、俺は一応形として握手をしようと手を出した。


「ん」

「なによ?」

「これからよろしくの挨拶だよ。俺と過ごすのは大変だぞ」

「いえ、幽霊なのでお構いなくですよ」









 こうして、あの日から幽霊と暮らし始めるという信じられない生活が始まった。


「翔!!早く起きてきなさい!!」


「ほら~、お母さん怒ってるよ」

「あー、朝から元気いいな」

「それ本人も前で言ったらもっと怒られるからね?」

「はいはい」


 3か月くらい、こうして暮らしているが朝が弱い俺は、ウザいながらも起こすのは手伝ってもらているのでそこは助かっている。

 ちなみに、幽霊も普通に寝るそうでいつも俺が寝ている上で浮きながら寝ている。こいつの幽霊としての順応性高すぎだろ。死んだ歴まだ3か月だぞ?


 まあ、春休みも明けいろんな意味で新学期だ。楽しんでいこうや。


「いってきまーーす」「いってきま~~す」


 どうなるかこの先わからないけど、飽きない生活が待っているのは間違いないだろうな。


「翔!!」


可愛らしい声の幽霊が自分の名前を呼ぶ。


「どした?」

「楽しみだね!!」


どうやら気持ちは一緒らしい。めんどくささ残ってるんだけどな~。




 

 





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