幽霊が恋をする

山崎 ねぎ

プロローグ

 高校1年生の夏。俺は、一人の女性に恋をした。


 年は同い年。外見は可愛らしい、小動物みたいな小さい女の子だった。外見は確かに可愛いが、俺は決してその外見で惚れたわけではない。むしろ好みか好みじゃないかで聞かれたら、好みではないだろう。強いて言うなら妖艶で美しい女性の方が俺は好みだ。


 そう、外見に惚れたわけではなく、生まれて初めて中身で惚れた。どこまでも自分に真っ直ぐで人の穢れを知らず、手を付けられないほど純白だった。


 簡単に言うなら、馬鹿正直で人を疑うってことを知らない。


 人は自分に無いものに対して魅力を感じるというが、なるほど。隣の芝生は青く見えるものだ。俺に無いものをそいつは全部持っていた。だからこそ、俺はそいつに一目惚れだった。


 ただ、付き合いたいって思ってはいても、既に彼氏がいた。


 その彼氏は女の子と同じような性格で、自分に正直でどこまでも優しい奴だった。そいつも高校1年生で、俺と女の子とその彼氏は同じ部活だったし仲もよかった。だからわかる。すごくお似合いなカップルだった。


 その彼氏の性格とは対照的に俺の性格といえば、人を疑ってばかりで、どこまでもずる賢く生きていた。ほとんど人に心を開いたことなど無い。そんな俺が一緒になれる訳ないとそんなことわかっていた。


 それでも諦めきれなかった。忘れられなかった。


 だって、どんな女性。いや、どんな人よりも心が綺麗だったから。まぶしかった、温かかった。自分にとっては光だった。


 懲りずにずる賢くアピールもしまくった。「好きな人いないの?」とかありきたりな会話で聞かれたことがあったりもしたからはっきりいるってことも言った。


「好きなタイプってどんな人なの?」

「それは決まってるぞ」

「へぇ~、どんな人?」

「それはな、自分に素直で心優しいだ」

「そんな人いるわけないじゃ~ん。それは難しいね。いつか出会えるといいね」

「もう、出会ってはいるんだけどな……」

「えっ!? だれだれ~????」

「お前には一生言わないよ」

「何それ、ケチだな~」

「お前が死んだらその墓に教えに行ってやるよ」

「一生聞けないじゃん!!」

「だからそう言ってるだろ」

「だったら、幽霊になって戻ってくるね?」

「好きにしろし」


 こんな風な会話してもあいつ気づかないんだ。真っ直ぐな奴には真っ直ぐな気持ちをぶつけるしかなかったから。それがわかっていても、出来なかった。彼氏がいい奴だってこともわかってたから、関係を壊したくなかった。


 だから決めたんだ。二人の幸せを願ってやろうって。そこからは割り切って仲がいい友達になれてはいたんだ。


 たくさん遊んだし、部活も一緒に遅くまで居残ってやっていた。俺とその女の子2人で遅くまでいることもあったが、本当によくしてくれた。


 


 そんな毎日を過ごして、半年くらい経ったろうか?


 信じられない、信じたくない話が耳に飛び込んできた。


 亡くなったという。


 死因は、道路で引かれそうな猫を庇った所で車に轢かれたそうだ。なんてベタな話で、あいつらしい行動だ。なんの躊躇いもなかったのだろう。容易に想像できることが今は悲しかった。


「本当に死んでどうすんだよ」


 今頃、葬式でも行われているのだろう。最後に顔をもう一度だけ見たい。そして出来ることなら、自分の気持ちを過去形にはなってしまうけど告白したい。


 人生後悔はつきものか……。


 




 その次の日、いつも通り部活を終えたその帰り道、1匹の黒猫に出くわした。猫は好きだった。自由に生きているあの子達が見ていて癒された。


 その猫は、ずっと俺の前を歩く。


「なんだ、お前。俺の家でも知っているのか?」


 変な感覚だ。ついて来るならわかるが、俺の家に誘導されているように俺の前を歩く。かといって帰りに何かイベントがあるわけではなく、何事もなく家に着いてしまった。


 家は3人で暮らしている。母に弟、そして長男である俺だ。小学生の時に父は母と離婚をして家を出て行った。別に子供に暴力を振るったわけでもなければ金遣いが荒いわけでもなかった。詳しい話は子供の俺達にはよくわからい。親とは言っても結局は、感情なんて別物。意味は分かっても理解なんてできるはずもない。


 それでも母が1人で俺達息子を懸命に育ててくれている。家事はもちろん手伝うし、料理も作る。一応長男だからな。


 ごはんもお風呂も済ませ自分の部屋に戻って休もうと思って。部屋のドアノブに手をかけ、戸を少し開けた所で俺の動きは止まった。


 部屋の明かりがついている。


「ん? 誰か部屋に入って電気を消し忘れたか?」


 特に疑うこともなく扉を開けた。そこで目を疑った。


 決して、部屋が散らかっていたとか、弟が俺の部屋でエロ漫画読んでたとかそんな可愛いものではない。


 むしろ、普通の人なら恐怖だ。この状況を一言で表すなら……。


 そう、俺の目の前には、可愛い幽霊がいた。


 そして、俺はまだ理解出来ていなかった。


 まさか、これからの高校生活があんな生活になっていくとは




 




 


 


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