第4話 学校で、ナイフで
はい、ではナイフ。
私は、小さいナイフをポケットに忍ばせて学校へやってきた。家を出る前からずっとポケットに忍ばせているし、あいつにもバレていない、はずだ。
屋上へ行った私は、柵にもたれかかって座った。
後ろのグラウンドから大きな声を上げてパスを訴える男子の声が聞こえてきた。
はたして誰か、私がここにいることに気づいただろうか。いや、私に気づかないほど真剣に夢中にサッカーをやっているに違いない。
そうふと思ってから、私はポケットからナイフを取り出した。屋上に出ることが出来る扉を見る。あいつはいない。
もうこれで……。
鋭く尖ったナイフの先端を自分に向けるように両手で持ち、私は目をつぶった。
「ふぅ」
小さく息をしてから、私は思いっきり自分の胸をめがけてナイフを突き刺した。
「ん、あれ」
確かにナイフは刺さっている。なのに全く痛みを感じない。おかしい。何かがおかしい……。一回抜いてみる? そっとナイフを抜いてみた。
「な、なにこれ!?」
思わず声を上げて驚いてしまった。血が全くついていない先端が出てきたぞ……。いや、もうなんか怖いわ。
……もしや、これ……。ある考えが浮かんだ。そしてもう一回刺してみた。
「……」
引っ込むおもちゃじゃないかっっっっ!!!! 何回も出したり引っ込めたりしていると次第にキーキーと音がし始めた。
「はぁ……また、あいつか……」
そして私は扉の方を見た。ほら、やっぱりいたよ。にやりと笑うあいつが案の定もたれながら立っている。
「正解!! 残念でしたっすね!」
「いや、はーい、残念じゃないんかい」
「いや、ちょっとバージョン変えようと思って!」
「いらないバージョン」
「ちょっとなんで、そんなに冷めてるんすか!!」
「いや、冷めるでしょ。それにあんた……ストーカーと変わんないよ」
「御冗談を!!」
「いや、マジよ」
ケラケラと笑っているあいつを睨んだ。
「あんた、なんでその語尾なの」
「え!! 先輩が俺に興味もってくれてるんすか!!」
「早く答えて」
「なんででしょう……分かませんっす!(笑)」
「可愛くないぞ」
「ぴえん」
「どうにかなんないの、その語尾」
「え!! 心配してくれてるんですか!!」
「心配なんかしてない。ところどころおかしなところがあって聞きづらいの」
「バッサリ」
「ナイフは……」
「内緒です」
食い気味。そうか。きっと永遠に返してくれないんだろうな。
「あんた、授業」
「先輩も」
「……」
会話に疲れた私は立ちあがって、屋上の扉の方―あいつのほうへと歩いて行った。頼んでもいないのに、ドアを開けて、まるでエスコートしているかのようにふるまうので、それを若干ウザいと思いながら、私はおもちゃのナイフを雑に放って返してから横を通った。
なぜか分からないけれどドアを開けてくれたことにお礼をしないといけないと私の中の良心が意味不明に訴えるので、去り際に小さく「ありがとう」と言って私は階段を走って降りた。
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