第2話 冬の学校のプールで

ここなら、大丈夫だ。なぜなら、今は冬だからだ。冬にプールに来る奴はいないし、しかも、うちの学校に水泳部はない。夏に使うだけで、その時期以外、誰もここには来ない。だから、汚れていてさびれたようになっている。私は飛び込んだ。


ザパンッッ


汚れているせいで底が見えない。目をつぶる。冷たかった水が徐々に体温に馴染んでくる。




ジャーー


ん? なんか水の流れていく音がする。何で? そして私の足は底についた。そして空気の世界に戻ってきた。


「はーい、残念(笑)」


いや、嘘でしょ。声のした方に振り向いて睨む。やっぱりあいつだった。


「先輩、ちっす!」

「ちっすじゃない。何してんの」

「水を抜いてるんすよ。いやーー、先輩。こんな汚いプールに飛び込むとか勇気ありますね!?」


プールの水は全部抜けてしまった。


「なんのつもり」

「先輩助けのつもり」


私は無視してプールから上がり、帰ろうとした。


バッシャーン!!


「きゃ!!」

「えーー! 先輩がきゃーって言った! 男なのに!」

「……は?」

「いや、間違えたっす」

「女ですがなにか」

「は、はい、女っす。さーせんっす」

「いや、ていうか熱い、熱いっ!」

「先輩、風邪引きますよ」

「今、何かけたの!」

「熱湯っす」

「いや、バカなんじゃないの!? やけどレベルなんだけど!」

「あはは、!」


いちいち二回言ってくるところがウザい。本当に、なんなの。絶対やけどしてるし。

バケツを肩にかけながら持つこいつを無視して、私はびしょ濡れになった制服のままプールを去った。

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