ティリス・ララVS大食植物

 大食植物アドニスとティリス・ララの戦いが始まった。

 俺は毎度の如く戦いに参加しても全くの戦力外なので、見学である。情けない事この上ないが、仕方ない。

 戦の先手は、上位魔神グレーターデーモンの<火球ファイヤーボール>だ。ティリスの遠慮のない全力の<火球ファイヤーボール>は大食植物アドニスに直撃すると思われた。しかし、その寸前──ジュッという音と共に、<火球ファイヤーボール>が蒸発した。大食植物アドニスを覆う粘液で掻き消されてしまったのである。

 さしものティリスもこれには驚いたようで、目を大きく見開いていた。

 植物系の魔物は大抵、炎系魔法に弱い。しかし、この巨大大食植物アドニスはその弱点を克服すべく、炎に耐性のある粘液を身に纏っているのだ。

 大食植物アドニスは大きな口から怒りの咆哮を上げて、ティリスに向けて触手を差し向ける。

 ティリスは高度を上げて避けようとするが──触手がなんと、伸びた。危うく足を掴まれそうになったところで、<支配領域インペリウム>でその触手を切り刻む。

 ララも気合の声を上げて大食植物アドニスに突っ込むが、数多くる触手の嵐を切り刻むので防戦一方だ。しかも、切られた触手はすぐに再生されていた。


「おいおいおい、嘘だろ!?」


 ララの手数を触手が上回り始めて、遂に足を掴まれた。そしてそのまま逆さまに吊り上げられる。


「やっべ──」


 斧で足の触手を斬り落とそうとする前に、その触手でブンッとララを放り投げる。

 ララが物凄いスピードで崖に叩きつけられそうになるが、すんでのところで翼を羽ばたかせたティリスが彼女を抱きかかえた。


「ララ、大丈夫ですか?」

「ああ、助かっ──って、ティリス、前!」


 ララの声にティリスがハッとすると、大食植物アドニスが彼女達めがけて紫色のブレスを吐きかけていたのだ。おそらく猛毒のブレスだろう。ティリスは咄嗟に風魔法で強風を巻き起こし、そのブレスを掻き消した。

 一旦距離を置くように、ティリスはララを抱えたまま俺の元まで戻ってきた。


「おい、大丈夫かよ」


 俺は二人のところに駆け寄って訊いた。


「大丈夫……と言いたいところですけど、ちょっと面倒な相手ですね」

「触手の量が多すぎだぜ、ありゃ。しかも再生も速ぇし粘液に毒のブレス。悔しいけどあたしとは相性が悪ぃ」


 ティリスとララが苦い笑みを俺の方に向けてくる。

 通常の大食植物アドニスであれば2人の敵ではないだろうが、この巨大大食植物アドニスはちょっと例外のようだ。


「ラトレイアを呼んできた方がよくないか? あいつの強化術エンハンスがあればララももうちょっと戦えるだろう」

「いや……出来れば、ここでケリをつけたいな」


 ララが大食植物アドニスを睨みつけて言った。


「どういう事だ?」

「多分、大きいのが要因なのでしょうけど……ひとつひとつの動作で体力を大きく消費するんでしょう。ほら、さっきより動きが遅くなっている気がしませんか?」

「確かに、言われてみれば……」


 ティリスの指摘通り、大食植物アドニスの動きは大きく鈍っている。しかも、こちらに積極的に近寄ってくる気配もない。おそらく、無駄な体力の消費を避ける為だろう。さっきのブレスや二人への触手攻撃だけでも、巨大大食植物アドニスにとっては大きな労力なのだ。

 大食植物アドニスは移動可能な植物系の魔物ではあるが、移動するだけでも本来大きく体力を消費するのだ。しかも、あの巨体なので、食事も毎度足りていないのかもしれない。村を自分の手で襲わず毒殺を目論んだのも、無駄な体力の浪費を避けるためなのだろう。


「だとしても、あいつに炎系魔法が通らないのも事実だし、近接戦闘も難しいんだろ」


 さっきは触手に掴まれてそのまま投げつけられたのが不幸中の幸いだったが、万が一あの大きな口の中に放り込まれでもしたら、それこそ一大事だ。


「うっし……上位魔神グレーターデーモン、陽動役交代だ。あたしが大技で粘膜ごとあいつの体の一部を吹き飛ばしてやるから、その隙に炎魔法で焼き殺せ」

「何か策があるんですね?」

「ああ。前にを見せてもらったからな。ちょっくらパクらせてもらうぜ」


 ララはティリスににやりと笑って見せると、赤い闘気を身に纏わせた。


「ああ、そういう事ですか。期待していますね」


 ティリスもララに向けて微笑むと、同時に妖気を解放して、魔力を解き放った。

 第二回戦の開幕だ。

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