新たな情報
「あんたが村長か?」
俺とティリスは村長宅を訪れ、中にいた初老の男性に訊いた。
あれから何とか話せる村人を見つけて、村長か医師の場所を教えてもらったのだ。医師はまだ存命だが、同じく病に侵されて、話すどころか意識もないそうだ。事情を知ってそうな村長の居場所を教えてもらい、その足で村長宅まで来たのである。途中、呻いている村人達を放っておくのは心苦しかったが、俺達ではどうしようもない。今は情報収集と状況確認が先決だ。
「ああ、如何にも。失礼ですが、あなた方は?」
「旅の者だよ。この森の中を回ってるんだ」
俺達は〝
「この森の中をこんなに深くまで? それはなんとも奇特な方だ。旅人を持て成してやりたいところなのだが、今の私達にはそんな事をしている余裕など……」
「いや、それは見ればわかる。とりあえず、この村の状況を教えてくれ」
俺が訊くと、村長は村の状況を解説してくれた。
3か月ほど前、急に体調を崩す村人が何人か出たのだと言う。症状は下痢と嘔吐。医師も何とか治そうと試みたが、治療の甲斐なくその人達は亡くなってしまったそうだ。
ただ、そこから感染は広がった。最初の患者の家族へと広がり、そしてその知人へとどんどん広がっていったのである。医師も感染せぬように努力はしていたものの、結局感染してしまい、今は床に伏している。医師が言うには、感染経路は患者の吐瀉物や下痢などからの接触感染だろうとの事だった。
「あなた方はうちの村の者に触れていませんか!? 医者が色んな薬を試しましたが、効果がなく……もし感染したら、生きていられません。うちの親父も……」
うう、と村長は呻いて顔を伏せた。
この村長さんはつい最近に就任したばかりだそうだ。この人の父親である先代村長も、この流行り病で亡くなったのである。体力がない者ほど重症化していくのもこの病の特徴だそうだ。
「ああ、俺達は大丈夫なんだ。っていうか、多分この村はもう大丈夫だと思う」
「え?」
「俺の仲間には〝
「なんと……それはありがたい! すぐに手配させますゆえ、暫しお待ち下さい!」
それからの村長の対応は早かった。
すぐに診療所をラトレイアに使わせるよう指示し、ついでに俺達の寝床、そして患者を集められる建物も提供してくれた。といっても、診療所以外は空き家だったのだけれども、それでも今の俺達にとってはありがたい。
早速診療所へと拠点を移して、ラトレイアの診察及び治療を手伝った。今回もラトレイアに頼りっきりだ。
ラトレイアが何人か診察したところ、病状と原因はわかった。症状は嘔吐と下痢で、食べ物を一切体が受付なくなるそうだ。感染したら最後、何も摂取できずに弱っていくしかない。口から薬を飲めないので、針を用いて直接体内に流す対症療法を取っていたようだが、つい先週遂に医師も倒れた。今ではただ死を待つだけの村となっていたのだ。
「私も手伝えればよかったのですが……<
私は<
病気の原因は体内に侵入した毒で、それが飛沫感染しているらしい。毒には<
「安心して、ティリス。こんなの、<
ラトレイアは重症者に<
彼女によると、通常の魔法での解毒は難しく、〝ルンベルクの奇跡〟と呼ばれるほどの〝
ラトレイアの治療によって医師を含む重症者は何とか一命をとりとめた。軽症者の治療がまだだったが、先にラトレイアの方が力尽きてしまった事により、今日の治療はそこで終わった。
ラトレイアを休ませている間、俺達は回復した村民からひたすら情報を聞き出した。
そこでわかったのは──初期感染した者は、全員川の水を飲んでいた、という事だった。
「川の水、か……」
この村には井戸もあるが、井戸水だけでは村民全員分の水は確保できないので、多くは村の近くにある小川を利用するようだ。どうやら水供給源の川が汚染されていると考えて間違いないだろう。
「それでは、明日ラトレイアが回復してから行きませんか? 毒や病の類となると、私やララよりもラトレイアの方が専門分野です」
ティリスの提案に、ララも頷く。
結局川の調査は翌日へと持ち越され、俺達はそのまま与えられた家で休ませてもらう事となった。
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