川の惨状

「ひどいわね……」


 翌日、俺達は〝名もなき森〟の中に流れる川へと来ていた。疫病に侵されていた村から最も近く、おそらく感染源とされている川だ。

 見ている限りは普通の川なのだが、ラトレイアは川を見るや否や、そう呟いた。


「ああ、ひでぇ臭いだ。これを飲もうってんだから、あの村の連中アホだぜ」


 ララも鼻を摘まんでいる。もちろん、俺には全く臭いなどしない。喉が渇いていれば、普通に飲んでしまいそうな水だった。


「どういう事だ? 俺には普通の川にしか見えないんだけど」

「眼で判断する傾向の強い人族にとってはそういう風に見えるんですよ」


 ティリスが周囲を見渡して続けた。


「見て下さい。これだけの川なのに、周囲には動物がいません」


 言われて周囲を見れば、動物類が全くいない。よく見れば、川にも魚が全くいなかったのだ。


「なるほど。動物にとっては嗅覚や本能でこの水が危険だって事がわかるのか……」

「そういう事です。きっと、どこか別の安全な場所に移動したんだと思います」


 なるほど、とティリスの説明に納得した。

 

「こうすれば判りやすいんじゃないかしら?」


 ラトレイアが言いながら水辺まで行き、神官語で何か唱えたかと思うと、杖の先でトンと地面を突いた。するとその瞬間──川の色が毒々しい紫色へと変わった。


「うげ、何だよこれ!」


 思わずそう声を上げていた。先ほどまで綺麗だった川が、どう見ても毒の沼にしか見えない色をしていたのだ。


「これは見えない不純物を可視化する神聖魔法なんだけど、実際にはこれだけ毒が含まれている、という事ね」


 これを浄化するのは一苦労だわ、とラトレイアは付け足した。

 しれっとしている聖女に「何でお前は人族なのにこれが見抜けるんだよ」と訊いてやると、「だって私は〝聖女〟だもの」と相変わらずしれっと答えるので、腹が立ってくる。どうせ俺は無能なテイマーだよ。

 もはや最近ではテイマーどころか、この3人の活躍を後ろで見守る人になっているのだけれど。女性陣が優秀過ぎると、どんどん肩身が狭くなっていく。


「上流に毒を垂れ流している元凶がありそうですね」

「いっちょあたし等でそいつを排除してやるか」

「じゃあ、そっちは任せていいかしら? 私はその間に川を浄化するわ」


 ラトレイアの言葉に、ティリスとララがそれぞれ頷く。

 有能な女性同士がやたらと仲良くなってしまっているせいで、俺が口を挟む隙が全くなかった。

 ラトレイアは早速川の浄化を始め、ティリスとララが川の上流を目指して歩き出す。


(……リーダー要らないんじゃないか、これ)


 やれやれ、と俺は心の中で溜め息を吐きながら、ティリスとララについていくのだった。

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