2章 2人の日々
馬車寄贈
レスラントの町を半壊させてからは、俺と
しかし、北上すると言っても、それが北西に行ったのか北東に行ったのかで大きく行先は変わる。ルンベルク国領北部には、北東にサザーラント、北西にはバンケットという町がある。おそらく勇者マルス一行はそのどちらかに向かったのだと思われるが、あまりにもアテがない。ただ、無暗に北上すれば良いわけでもないのだ。
俺達は街道を北にゆっくりと歩きながら、
「おい、あんたら。まさか大した武装もせず、護衛もつけずにこんなとこほっつき歩いてるのかい?」
レスラントから半日程歩いた頃、バンケットの町から来た
その代表と思わしき先頭にいた
それもそうだ。街道とは言え、夜になれば魔物も出るし、賊の類もいる。男女2人だけで歩くなど、殺してくれと言っているようなものだ。
しかし、俺達で言うと、その限りではない。魔物に関しては、ティリスの妖気を察知して近寄って来ないのである。彼らの中では妖気の強さは絶対。用事もないのに、圧倒的強者にわざわざ自分から近寄ってくる者などいないのだ。
「ああ、レスラントで騒動があった際に荷物や所持金を全部スられて文無しになったんだ。御蔭で馬も買えないし、全くツイてないよ」
俺は首を竦めて、自嘲の笑みを作って嘯いた。ティリスは人化の術を用いており、現在は角も翼もない、美しい女の姿をしている。
「レスラントで騒動だと? 聞いてないぞ。よければ教えてくれないか?」
「ああ、それは良いけれど、その代わり勇者マルス一行がどこに行ったか教えてくれないか?」
バンケットから王都ルンベルクまで行く際には、レスラントを経由地として向かわなければならない。そのレスラントで騒動があったとなれば、彼らは食糧等の補給地点を変えなければならなくなる。
「ああ、それならお安い御用だ。勇者様達なら、バンケットの方角に向かって行ったよ。ただ……」
「ただ、何ですか?」
ティリスが首を傾げて隊長に訊いた。
「バンケットには今魔王軍が侵攻してるらしいから、行かない方がいい」
「魔王軍が? 何でまたバンケットなんかに」
俺は怪訝に思い、重ねて質問した。
バンケットはルンベルク王国領北西部にある町だが、町というには些か寂れている。というか、完全に田舎町だ。俺も以前一度マルス達と行った事があるけども、特に何もなかった。あったのは──
「何でも、聖女ラトレイア様の生まれ育った孤児院を魔王軍が潰す為だとか何だとか。あそこはテルヌーラ女神教の大聖堂もある。ラトレイア様の生まれ故郷諸共焼き払って、テルヌーラ女神教への信仰を下げようっていう腹じゃないか?」
そうだった。バンケットは憎き聖女ラトレイアの生まれ故郷で、彼女が育った孤児院があるのだ。
なるほど、それで合点がいった。おそらくラトレイアがわがままを言ってバンケットを守って欲しいだの何だのと言ったのだろう。全く……バンケットとは、またえらく遠いところまで行かなければならなくなったな。
「それで、レスラントの騒動って何があったんだ?」
「ああ、俺も詳しくは知らないんだけど」
──魔物に攻め入られて町が半壊していた。俺は端的にそう伝えた。
「なんだって!? おい、あそこは中央領と北部領の要の町だぞ。警備兵だっているのに、半壊させられたって……どういう事だ?」
「さあ? 何でもかなり強い魔物が出たらしくて、警備兵は全滅。町も燃やされていて、住人のほとんどは途方にくれていたよ」
「何てこった! 警備兵を壊滅させて町を半壊だって? 冗談だろ。オーガでも攻め込んできたのかよ」
傭兵隊長が頭を抱えて嘆いているのを見て、俺とティリスは視線を交わして互いに目尻だけで笑みを作った。
オーガよりももっと恐ろしいさ。そして、それは今お前達の目の前にいる。お前達がさっきから興味深そうに見ているその銀髪の美しい少女こそが、町を半壊させた張本人なのだから。
「いや、それより隊長、レスラントでの補給物資がなければ王都まで着けないぞ」
「そうだった!」
商人と
「ノイハイムに一度寄り道して多めに物資を購入するしか……」
「いやでもここからノイハイムに寄っていたら期限までに王都には……」
どうやら、
「……ところで、あんたらはどうするつもりだ?」
「バンケットに向かうつもりだけど」
「やめとけやめとけ、勇者が向かったところでバンケットはもう終わりだ」
傭兵の男が代わりに答えた。
「どういう事だ?」
「町の連中はまだ情報が隠されててただの魔王軍が攻めてくるぐらいにしか思ってねえが、攻めてくるのはただの魔王軍じゃねえ。オーガ軍だ」
「……オーガか」
思ったより手ごわそうな連中だ、と思った。
オーガとは鬼族だ。人族より何倍もの力があって鋼のような筋肉に覆われており、剣を通さない。オーガ単体であれば勇者マルス達ならそれほど苦労はないだろうが、大軍であれば苦戦は必須だ。
「そこで、だ。あんたらを守ってやるついでに、ノイハイムまで連れてってやろうかって今皆と話してたんだが、どうだ?」
隊長は俺とティリスを交互に見て、もう一度ちらりとティリスを見た。
「有難い話だが、さっきも言った通り、俺達は文無しでな。あんたらに払う金がないんだ。このままえっちらおっちら歩いていくさ」
俺が自嘲した笑みを作ると、傭兵の男が下卑た笑みを浮かべた。
「金はなくても、金の代わりになるもんならあんだろ?」
男達の視線がティリスに向けられた。
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