畑耕作
──夜が暗くて耕せないなら、明るくすればいい。
俺が提示した内容は、こうだった。物凄く単純な発想であるし、夜中も働くのは本来避けた方が良いのもわかっている。しかし、今は緊急事態だ。多少は無理をしてもらわねば、村の困難は乗り切れない。
俺は思いついた案を村長に説明すると、それが可能なら是非お願いしたい、との事だった。この村には夜通し明りを保つ手段がないので諦めていたそうだが、ティリスの魔法があれば可能だ。
まずは村人全員で、薪を組み立て柱をたくさん作るよう指示をした。これには村人全員で手伝ってもらって、急いで作ってもらった。
畑を四方八方から覆うようにして組み立てると、その薪で組み立てた柱にはティリスが耐炎の魔法をかけていく。通常は柱の部分を燃えない材質で作るのだが、この村には木材しかなかったので、ティリスの魔法で補った。
そして、その柱の先端に絶えず燃え続ける炎を魔法で灯し、消えない明かりを作った。魔法の炎は松明の炎よりも大きくて明るい為、全ての柱に灯して畑の周囲を囲めば、夜間の作業もぎりぎり可能となる。
「これなら夜目が利かなくても畑全体が見渡せますね」
さすがはアレク様です、とティリスが感心した様子で言った。
「だろ。俺が生まれたルブローデ地方には火祭りっていう文化があって、大松明で村の広場を覆うんだ。それを思い出してさ」
火祭りでは、大松明で村の広場を覆って、炎を一晩中絶やさず踊り続けたりバカ騒ぎしたりする。謂わばストレス解消の祭りみたいなものだ。
今回は祭りではなく、夜間の作業でそれを使おうと思い至った。
「火祭り……楽しそうですね」
紫紺の瞳に炎の煌めきを映し、うっすらと微笑んで彼女は呟いた。
「見てみたいか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
ティリスが慌てて否定をする。彼女がこういった態度をする時は、大抵本心ではない時だ。
「ほんとか?」
彼女の顔を覗き込んで、訊いてやる。
「……アレク様、いじわるです」
ティリスは恨めし気に俺を上目で見て、「お祭りは見た事がありませんから、一度見てみたいです」と恥ずかしそうに付け足した。
実は、最近ティリスは俺を『
「そっか。じゃあ……そのくらいの時期に、一回ルブローデ地方にも行ってみようか」
「アレク様……はいっ!」
俺の言葉を聞くと、ティリスは嬉しそうに頷いた。
それから俺達は畑耕作に取り掛かった。畑耕作は交代制で行い、丸一日延々と続ける。多分3日もあれば畑はもとに戻るだろう。
女達も女達で、昼間は絹織り作業と食事に加えて、夜は夜食作りを行っている。こっちはこっちで大変だろうが、非常に助かった。夜の作業は体力の消耗が激しいので、この夜食で男達のやる気を保たせるしかないのだ。
ティリスも最初は畑を耕すつもりだったようだが、村の女達に連れ去られてしまった。あれだけの美人はそうはいないので、同性から関心を集めてしまったようだ。
彼女は最初断ろうとしていたのだが『人族の女に興味があるなら一緒に過ごしてみたらどうだ』と言ってやると、顔を輝かせて村の女達について行ったのだ。どうやら本当に人族の女に興味があるらしい。
先ほどまでは絹織りを手伝っていて、今は夕飯の支度を手伝いつつ料理を教わっていた。料理を教わっている際の活き活きとした表情は、まさしく人族の少女だ。そういえば、彼女は前に料理を作れるようになりたいと言っていたが、どうやら本気のようだった。
「私でも作れそうな料理をたくさん教えてもらいましたっ!」
ティリスは料理を教えてもらえたのが余程嬉しかったのか、わざわざ声を弾ませて俺に報告に来た。
「アレク様に食べてもらえるように、料理も頑張って覚えますね!」
顔をはにかませて言ったかと思うと、また女達の元へ戻って行ったのである。
こんなに楽しそうなティリスを見たのは初めてだ。本当は戦いなんて無い生活の方が、ティリスにとっては良いのだろう。そんな彼女を見ていると、益々そう思うのだった。
「あっちは楽しそうでいいよな……」
一方、文句をぶちぶち言いつつひたすら畑を耕しているのは
「
最初は鍬を使っていたが、辛気臭い、と言って手で耕し始めてから速度が急速に上がった。ララだけで村の男達全員分くらいの作業量を熟せそうだ。村の男連中も、見掛けからしてどう見ても12歳やそこらにしか見えない小娘にそこまでやられたら黙ってられない、と張り切って頑張ってくれている。
このペースなら、3日も掛からず畑耕作を終えられそうだ。
「俺も負けてられないな」
ララにはどうやっても勝てないが、村の男達には負けられない。ティリスも色々頑張っているようだし、ちょっとは男らしいところを見せられるように頑張ろう。
そう思い、鍬を土に振り下ろした。
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