勇者パーティーとご対面
ドコッという音と共に従者が慌てて馬を宥めている。それと同時に、馬車から飛び出てきたのは、剣聖ルネリーデと聖女ラトレイアだった。残りの連中が出てこないという事は、勇者マルスは残りのシスター・シエルと賢者アルテナとでお楽しみの最中だったという事か。今頃慌てて服を着ているのだろう。
というか、ルネリーデとラトレイアはそれを馬車の中で横目で見ていたという事になるが……それはそれで、彼女達に憐れみを感じた。俺がいた頃でも、さすがに馬車の移動中に情事に及ぶ事はなかった。男が俺以外にいなくなって、種馬っぷりに拍車がかかっているのだろうか。
「お前は……アレク?」
ルネリーデは俺を見て、驚いた顔を見せていた。しかし一方の聖女ラトレイアは、彼女とは違った表情を見せている。
ラトレイアは俺達を見て、警戒した表情を作りつつ、どこか安堵しているのだ。そう、彼女も察しているのだろう。自身が今感じている苦しみから解放されるかもしれない、と。
「アレク……貴様、どういうつもりだ? それに、横の2人は?」
剣聖ルネリーデが腰の剣に手を掛ける。
ルネリーデは長い金髪と碧眼、そして白い肌を持つ美しい女だ。剣術に関してはルンベルク王国随一と言われている。
パーティーの中では清く高潔な女だと思っていたが、ある時から勇者の情婦となっていた。3人の女達の中では、一番俺を人として扱ってくれていた女でもある。
ルネリーデは俺の横にいる2人を険しい目つきで見ている。彼女とて剣聖と呼ばれている者だ。この2人が人族ではない事を察したのだろう。ティリスとララはまだ人族の姿をしているが、2人とも殺気を隠していない。
「ルネリーデ、久しいな。他の連中は?」
「……貴様の察しの通り、と言っておこうか」
ルネリーデが小さく舌打ちして言った。予想通り、情事の真っ最中だったとの事だろう。
「勇者マルス、早くして下さい! 敵です!」
ルネリーデが怒気を孕んだ声で馬車に向けて声を発した。
(おや? もしかするとこれは……剣聖ルネリーデは勇者マルスをあまり快く思っていないのか?)
今のルネリーデの態度は、明らかに俺がパーティーに居た頃の彼女とは異なっていた。そう、今彼女は負の感情を発していたのである。
忠義を尽くす女だと思っていたが、案外ルネリーデを剥がすのは楽かもしれない。
「聖女ラトレイア、その後お体の具合は如何ですか?」
ティリスが嘲笑の笑みを浮かべて言った。
彼女と俺は、ラトレイアが尿と潮を垂れ流して失神する姿を見ている。ラトレイアもそれを覚えているのだろう。羞恥から怒りの表情を見せた。
しかし、彼女は俺達には逆らえない。屈服したいという気持ちと、聖女としてのプライドが彼女の中で鬩ぎ合っているのだろう。
「バンケットのあたりからラトレイアの様子がおかしかったが……貴様、彼女に何をした?」
剣聖ルネリーデが恐い顔をして睨みつけてくる。
「さあな? 聖女様本人に訊いてみたらどうだ?」
そう言ってラトレイアを見ると、彼女は顔を伏せた。
「貴様……彼女を辱めたのか」
「まさか。俺如きが聖女様にそんな事など畏れ多い。ただ聖女様は俺をお求めになられたようだがな?」
「アレク、貴様!」
剣聖ルネリーデが剣を抜き放ち、崖上にいる俺まで真っすぐに斬りかかってきた。物凄い速さだが──その剣が俺に辿り着くまでに、桃色髪の鬼娘がその剣を戦斧で受け止めた。
「なッ!?」
「焦んなよ、剣聖。あんたの相手はあたしって言われてんだよ」
ララがにやりと笑って、剣を簡単に弾き返す。
ルネリーデは驚愕した表情をしたが、それ以上この間合いで斬り合うのは危険と判断したのか、一旦崖下まで戻った。
「どういう事だ……私の太刀を、あんな小娘が受け止めた、だと……?」
「マルス! 早くして!」
ラトレイアが悲鳴に近い声を馬車に向けて放った。
そこでようやく服を着替えたであろう3人、勇者マルス、シスター・シエル、賢者アルテナが現れた。
「なんだい、騒々しいな。並大抵の敵なら君達2人で──」
彼が崖の上を見上げた時に、目を見張った。ようやく俺を認識してくれたようだ。
シエルは俺を見て目を震わせている。
「君は……まさか、アレクかい?」
「やあやあ、久しいなあ、マルス王子。あんたに散々コキ使われて捨てられたアレクだよ」
「随分大層な真似をしてくれてるみたいじゃないか」
マルスはちらりと馬車の前に投げられた岩石を見た。
「僕にこんな真似して、ただで済むと思ってるのかい?」
言葉尻こそ落ち着いているようだが、お楽しみの邪魔をされたのが相当お気に召さなかったらしい。マルスの声がいつになく苛立っていた。笑みを何とか作っているが、眉間に皺を寄せている。
ああ、これは良い。こいつにこんな顔をさせれると思わなかった。しかも、こうして俺に喧嘩を売られる事そのものが後に自分の命を救った事になると知るのだ。その時の彼を思うと、不憫でならない。
「まあそう言わずにもうちょっと付き合ってくれよ。久々に会ったんだからさ」
俺は半歩下がって、両脇にいる2人を紹介するように両手を向けた。
「俺のサーヴァント、
俺が紹介すると、
その力を見たマルス達は、呆けたように俺達を見上げていた。シスター・シエルと聖女ラトレイアなど、顔中に怯えが見え、歯をガチガチと震わせている。敵の力量が見えない奴らではない。今、彼らは……怯えているのだ。
「さあ、勇者マルス。落ちこぼれテイマーの俺と、〝
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