唐揚げっておいしいよね。

きさらぎみやび

唐揚げっておいしいよね 

「それでは、みなさんにはこれから揚げ物になってもらいます」

 

 授業の開始とともに担任はそう宣言した。 教室がいつも以上にざわつく。なにが面白いのか隣の席の奴と盛り上がるもの、きょとんとあたりを見回すもの、興味なさそうに頬杖をついているものと様々だ。

 

「では着替えて外に集合」


 着替えを済ませたものからぞろぞろと外に向かってゆく。

 外にはいつのまに準備したものか、コンテナ大の金属の箱が 複数鎮座していた。箱の横にはなにやらごてごてとした機械の塊がくっついており、どうやらそれで箱ごと加熱しているらしい。よく耳を澄ませてみると、箱の中からはシュワシュワと油がはぜる音が聞こえてくる。加熱は十分ということか。

 担任はにこにこと笑いながら説明を始める。

 

「手順は簡単です。皆さんすでに着替えてますから、そのまま梯子をのぼってこの箱の中に飛び込んでくれればいいんです」

「…衣はつけなくていいんですか」

 誰かが問う。

「やだなあ、衣はもうつけているじゃありませんか」

 まあ、確かに。これはそのためのものだったのか。


「熱くないんですか」

 熱いにきまっているだろう。油なんだし。

「ちょっと熱いかもしれませんけど、一瞬ですから大丈夫ですよ」

 はあ。そういうもんかね。

「誰か最初にやってみたい人はいますかー?」

「ハイハイ!俺やってみたいです」

 

 クラスの中でもお調子者と自他認める田辺が威勢よく手を挙げた。女子はくすくすと笑いながらそんな田辺を面白そうに見ている。そんなだからやつは調子に乗るんだ。案の定調子に乗った田辺は威勢よく梯子をのぼっていき、箱のふちに立ったところでこちらを振り向いてピースサインを送ってくる。一部の女子は手を振ってそれに応えている。


「結構熱きますね」箱の中を覗き込みながら田辺が言う。

「180℃くらいになってますからね。こだわりがある人はあっちに160℃ くらいになっているフライヤーがありますから、そっちから入るのもありですよ」

  

 2度揚げというやつか。なんだっけ、低温の油でじっくりと火を通してからもう1回外側をカラッと揚げるんだっけ。


「まあせっかく上ったし、俺はこっち入りまーす」

 言うと田辺はあっさりと煮えたぎる油に身を投じた。どぼん、という重量物が液体に飛び込む音の後、じゅうぅうううという油で肉が加熱される音が響いた。

 

「はい、皆さん順番にどんどんいっちゃってください」

 パンパンと手をたたきながら担任が促す。

 生徒たちは何となく並びながら順序よく油へと飛び込んでいく。


「揚がった人はこっちに来てください。お姉さんたちに切ってもらいますから」

 

 ちらと見やるとワイヤーの先に肉切り包丁をつないだ器具を手に持った女の人が二人並んでいた。ワイヤーを振り回すと包丁が風を切ってぶうん、と唸っている。あれはあれで痛そうだな。

 

「おい、順番だぞ、早く行けよ」

 気が付くと自分の番だった。慌てて梯子をのぼって箱のふちに立つ。

 覗き込むとちょっと油に使い込まれた感じが出てきている。

 そりゃあ何人か揚げたら油も汚れてくるよな。

 そんなことを思いながら、ひょいとふちからジャンプする。むわっとした湯気の熱気を感じる暇もなく、どぼんという音とともに全身が高熱にさらされる。

 皮膚の外側がじりじりと熱い。やっぱり熱いじゃないか。

 文句を浮かべながらいったん箱の底まで沈み、とん、と蹴って浮き上がる。

 全身がパリパリだけど、意外と動けるもんだな。

 箱のへりを掴んで全身を持ち上げ、よいしょと乗り越えて地面に戻る。次はあっちだっけ。お姉さんのほうに向かう。

 お姉さんは二人並んでワイヤーを縦に振りながら生徒たちをサクサクと切っていく。

 自分の番になったので片方のお姉さんの前に立つと、目の前を包丁がすごい勢いで回っている。ためしにちょっと左足を出してみたらすっぱりと縦に半分になった。

「ほら、怖がってないでもっとこっちにおいで」とお姉さん。

 しょうがない、ちょっと歩きにくくなった足で前に進みだす。

 股の下から来た包丁がそのままの勢いで頭まですっぱりと半分に



 

 

 



 


 というところで目が覚めた。「…?」時刻は朝の7時。昨日寝たのが2時過ぎだから5時間くらいしか寝てないんだけど、そこまで眠くもなく、かといってすっきりした目覚めでもない。もそもそと布団から体を引きずりだす。こたつの上には朝飯用に昨日買っておいた総菜パンが置いてある。

 袋を掴んで開けてから、中身に気が付く。

「よりによってコロッケパンかよ」

 齧り付いた。

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