第29話 前夜祭

 前夜祭当日の午後五時過ぎ。

 日が暮れなずむ中、俺と優樹菜、実行委員会のメンバーは多目的室に集まっていた。

 本来休日である土曜日に制服で身を纏って、仕事をするなんてどこぞの社畜だよとか思いつつも、事前に振り分けられた持ち場の確認作業を進めていく。

 前夜祭の開催時刻は午後六時で三時間後の午後九時に終わる予定だ。

 その間にダンス部や吹奏楽部、演劇部、個人の様々な出し物が披露されるのだが、なにせ前夜祭と後夜祭は急遽決まったイベント。出し物を披露してくれる参加者はあまり集まらなかった。

 とはいえ、前夜祭は言うなれば文化祭の準備お疲れ様会みたいなものであって、後夜祭は文化祭お疲れ様みたいなもの。そこまで派手にしなくてもいいし、このイベントは強制参加でもなく、自由参加方式だ。

 委員会内である程度の方向性が確認できたところで、ブースの準備をするべく三分の二くらいの人が多目的室から出ていく。

 やはり前夜祭と後夜祭をやるからには出店的なものがないと盛り上がらない。そう言った意見から実行委員会のみで飲み物販売や食べ物の販売を行うブースを設置することになった。飲み物は普通の缶ジュースを何種類か仕入れ、それを一本百円にし、食べ物も比較的簡単なフライドポテトとたこ焼きのみにして、一ケ三百円で販売する。そうすれば、限られた資金を節約することだけでなく、利益も十分に得ることができる。

 得た利益はまた後夜祭の準備費用に充てれば、一石二鳥ではないだろうか? 利益が良かった分、もしかしたら花火を何発か上げられるかもしれないしな。

 そんなわけで残った俺は何をするかというと……


「上村歩夢は主に記録と雑用係な」


 内村先生はそう言うと、俺に一台のデジカメを手渡してきた。


「記録って何をどうすればいいんですか?」

「普通に写真とか動画を撮影してくれればいい。今回のイベントは学校でも初めてのものだから結構重要な役目になってくるぞ? お前が撮影したものは、学校のWebサイトだったり、ブログなどのSNSにも使われる予定だからな。変なものじゃなくて、ちゃんとしたものを撮影してくれよ?」

「そんな大役……なんで俺なんですか? そもそも俺って、実行委員でも何でもないですよ……」

「そうか? 前夜祭、後夜祭の実現に向けて、お前は相当な活躍、貢献を見せたじゃないか。委員会内での活動でも誰よりも仕事を頑張ってたしな。もうここまでくれば実行委員と言ってもいいと思うが?」


 見てないようでちゃんと見ていた内村先生に少し驚きつつも、気を取り直すため咳払いをする。


「と、とりあえずはわかりました。でも、あまり期待はしないでくださいよ? 俺、写真とかそんなに得意ではないんで」

「まぁそうだな。期待はあえてしないでおくよ。そっちの方が万が一良い写真が撮れていた際には大いに喜べるし、逆にそこまで良い写真ではなかったとしてもこんなもんだなくらいで済むしな」

「なんかそう言われると、どことなく挑発されているようにも聞こえるんですが……」

「挑発してるんだよ。良いものどうせ撮れないだろ? ってな」


 内村先生はおかしそうにカッカッとひと笑いすると、俺の左肩をぽんっと軽く叩く。


「ひとまず頑張れ」

「他人事だと思って……」


 俺は呆れにも似たため息をつく。

 粗方な流れはわかったけど、ちゃんとうまくできるだろうか……。少し不安が残る確認作業だった。

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