第8話 お兄ちゃんと呼ばれたい!②(優樹菜がデレます)
そう思っていたのだが……この状況はなんだろうか?
風呂に入り、夕飯を食べ終えた後、俺は一旦自室にこもって宿題に励んでいた。
優樹菜はもうすでに終わってたらしく、夕飯後はリビングでテレビを見ながらいつものようにソファーでくつろいでいたと思っていたのだが、一時間後戻ってきたらこのあり様だ。
「お兄ちゃん……膝枕して!」
「あ、ああ……」
俺の膝の上に気持ちよさそうに頭を乗せて、仰向けになる我が妹。
俺が自室にこもっている間何があったんだと思い、何気なくテーブルの上を見ると、チューハイらしき空き缶が一つ置かれていた。
「もしかして……優樹菜これ飲んだのか!?」
「むにゃむにゃ……そんなの飲むわけないにゃ」
なんで語尾が猫みたいになってんだよ……。まぁ可愛いからいいけどさ。
優樹菜自身は飲んでいないと言ってはいるけど、どう見ても顔が赤いし、酔っ払っているように見える。
たぶんジュースと間違って飲んでしまったと思うけど……チューハイ一本でここまで泥酔状態になるものなのか? 俺は飲んだことがないからわからないが、親父がたまに飲んでいるところを見ても一本だけでここまでにはならない。
俺はとりあえずテーブルの上にある空き缶を片付けるべく、優樹菜を一旦退かそうとする。
が、それに気づいた優樹菜は意地でも離れないといった感じで俺の履いているズボンを強く握りしめる。
「ヤダヤダヤダー! 絶対にお兄ちゃんから離れないんだからねっ!」
顔を真っ赤にして、おもちゃをせがむ幼児みたいに駄々をこねる優樹菜。
俺は……一体どうすればいいんだ?
こんな優樹菜を見たのは初めてだし、めちゃくちゃ可愛すぎる。ところどころ部屋着が着崩れ、ちっちゃなおへそがこんにちは!
風呂に上がってからまだ間もないということもあってか、いい匂いがさっきからするし、こんな姿を見せられて、キュンキュンしないやつなんていないだろう。
もう……尊死してもいいや。人生に悔いなし。
とはいえ、このままにするのもまずい。証拠隠滅ではないが、空き缶を捨て、少しでも早く酔いが覚めるように水を与えないといけない。
「優樹菜、少しだけでいいから離れてくれないか?」
「ヤダ! 優樹菜はお兄ちゃんとずっと一緒にいるの!」
「なんでだよ。いつもはそんな素振り見せないじゃないか」
「それは……」
優樹菜は起き上がると、ソファーの上で正座になる。
ゆっくりと顔を上げ、潤んだ瞳には俺が写っていた。
「優樹菜の性格上、そんな素振りを見せたらおかしいでしょ?」
「……え?」
時が止まったかのような錯覚に襲われてしまった。
今の発言……まるで酔いが覚めている、ような……。
そう思ってしまうくらいにはっきりと優樹菜は答えた。
「優樹菜はね、歩夢くんのことが昔からずーっと、ずーっと好きだったの。だから家族になるって聞いた時はね、本当に嬉しかったの!」
「……」
「本当は『お兄ちゃん』って呼びたいけど、優樹菜がそう呼んだらおかしいでしょ? キャラ的にもそんなんじゃないし……」
そう言うと、優樹菜は再び俺の膝に頭を乗せ、仰向け状態で寝転ぶ。
そして、両手で俺の顔を優しく挟み込むと、
「お兄ちゃん大好き。ずっと一緒だからね……」
それだけを言って、気持ちよさそうに眠ってしまった。
正直、今何が起こったのか脳の整理が追いついていない。
優樹菜の好きは兄妹としての好きなのか、それとも恋愛感情的な好きなのか……まったく判断がつかない。
––––昔からずっと好きだったということは……恋愛感情的な方なのか?
顔が熱い。脳も何も考えられないくらいに情報量の渋滞でパンクしそうだ。
どっちの好きなのか、もう優樹菜が深い眠りに入っている以上、知る由もない。
再び目を覚ますころには……このことを忘れてるんだろうなぁ。
そう思うと、ちょっぴり寂しいような悲しいような……。
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