第7話 お兄ちゃんと呼ばれたい!①

 季節は移り変わり、梅雨。

 外は連日のように大雨が地面を叩きつけ、路肩にはちょっとした水路ができている。

 そんな憂鬱になる日々でも俺たち学生は、なんら変わりのない日常を過ごしていた。

 時刻は午後十二時半を過ぎた昼休み。

 俺は友人の明久と一緒に昼食をとっていた。


「それで学校一の美少女さんとの同棲生活は慣れたか?」


 明久はニヤニヤしながらそう訊いてきた。


「馬鹿を言うな。慣れるわけねーだろ……」


 毎日無防備な部屋着を着ては、前屈みになるたびに胸ちらしてるし……。朝は朝で起こしに来たかと思えば、俺の上に馬乗してくるし……こんな状態で慣れる方がおかしい。

 でも……正直悪くはない。むしろいい。


「一応訂正しておくが、同棲じゃないからな? あくまで同居だかんな?」

「はいはい……」


 ちゃんとわかってるのか、わかってないのか不安な返事をする明久。

 俺は呆れにも似たようなため息をつくと、弁当の残りをつつく。


「ここから本当に真面目な話をするんだけど、海斗自身は優樹菜さんから『お兄ちゃん』って呼ばれたくはないのか?」

「それは……できることなら、呼ばれたいなとは思っているけど……」

「やっぱりそうだよなぁ……」


 明久はそう言いつつ、弁当の中身をつつく。

 一体何が言いたいのだろうか?

 俺の反応を見た明久は「別に深い意味とかないから。気にすんな!」とだけ言って、弁当の中身を食べ始める。

 お兄ちゃんか……。

 きっと優樹菜は俺のことをそう認識はしていないかもしれない。せいぜい再婚相手の連れ子くらいだろうか。

 お兄ちゃんなんて呼ばれる日は……たぶんこないだろう。

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