第6話 土曜日の休日②

 昼食をとり終えた俺たちはリビングのソファでくつろいでいた。

 今日も両親は朝から仕事で家を空けている。ほんと二人とも働き者だなと思いながらも午後の情報番組を見ていると、一人分間を空けて隣に座っていた優樹菜が肩をちょんちょんと突いてきた。


「どうしたんだ?」

「これから二人で出かけない? 行きたい場所がある」

「行きたい場所?」


 そういうと、優樹菜はこくんと首を縦に振り、テレビの画面を指差す。

 画面に映し出されていたのは、先日オープンしたばかりの大型商業施設のコマーシャルだった。


「ここに行きたいのか?」

「……(こくん)」

「じゃあ、暇だし行ってみるか……」


 俺はリモコンでテレビの電源を切ると、着替えるためソファから腰を上げる。

 今思うが、これってデートに当てはまらないだろうか? 男女二人で出かけるとか……やべ。顔が自然とニヤけてしまう。

 でも、俺たちは兄妹だ。義理だろうが、血が繋がってなかろうがそこには変わりはない。

 妹とデート……そう考えただけで背徳感を覚えてしまうのはなぜだろうか?



 数十分後。

 外出用の服装に着替えた俺たちは、テレビで宣伝されていた大型商業施設へとやって来た。

 ここは、複数の店が入ったいわば、専門店街があり、隅の一角には食料品や日用雑貨が売られているスーパーが併設されている。

 子どもからお年寄りまで幅広い年齢層で楽しめる……商業施設ならではのいいところだ。

 さっそくピンクのシャツにデニムのミニスカートと普段では想像できないようなおしゃれをしてきた優樹菜と並んで店内に入る。

 店内は、休日であり、かつオープンしたばかりということもあってか、人が溢れんばかりに混雑していた。

 この商業施設はかなり大きい。駐車場も五千台は完備していると宣伝されていたくらいだ。なのに、駐車場はほぼ満車。専門店街通りは移動するのもやっと。ちょっとはぐれてしまえば、探すのも困難なレベル。

 まぁ、オープン時はどこもこうなるもんだろう。物珍しさというか、自分の知らない新しい店が出来た時って、なんか興味湧かない? どんなところなんだろうって。今日来ている人たちもきっとそうだろう。それにこの商業施設は市内で初めて出来た。人口が十万人を超えているにも関わらず、今までなぜ建設されてこなかったのか……謎すぎる。

 俺は隣の方に顔を向ける。

 頭二つ分くらい小さい優樹菜は店内の様子を見たまま、ぼーっとしていた。


「だ、大丈夫か?」

「うん……」


 明らかに表情が暗い。もしかして人混みが苦手とかあるのだろうか?

 普段は学校でも一人でいることが多い優樹菜。たくさんの男子から好意を寄せられ、告白されることもしばしばあり、そこの部分は慣れているとは思うが、人自体には慣れていない様子。

 このまま店内をゆっくりぶらぶらするということもできそうにない。


「どうするか? 後は優樹菜に任せるけど……?」


 そう言うと、優樹菜は険しい表情をしつつも、固唾を呑む。


「行く。でも……」


 ギュッ。

 俺の右手が優樹菜の小さな手に握られる。

 その瞬間、顔が熱くなってくるのを感じた。

 頭の中で多少の混乱が障じ、何が起こっているいるのかわからない。

 優樹菜の顔を改めてちらっと見ると、俯いていてどんな表情をしているのか見えないが、耳まで真っ赤になっていることだけはわかった。


「はぐれちゃうから……」


 小さくそう呟いた優樹菜は俺の手を引きながら、ずいずいと店内を突き進んで行く。

 一体どこに行きたいのやら……ドキドキと高鳴る心臓音を耳にしながら、俺は優樹菜に連れられるがままだった。

 それからと言うもの、意外にも時間はあっという間に過ぎ去っていった。

 さまざまな店舗の洋服を見たり、雑貨や小物、本などを見ては気に入ったものを購入するを繰り返し、時刻は午後四時半。購入した品が入ったビニール袋や紙袋を片手にそろそろ帰らなくてはいけないというときに優樹菜が口を開く。


「歩夢くん、最後にやってみたいことがあるんだけど……いい?」

「あ、ああ。別にいいが……」


 やってみたいことってなんだろうと思いつつ、優樹菜の横を歩いていると、ゲーセンにたどり着いた。

 優樹菜はなんの躊躇もなく、普通に店内に入ると、そのまま一直線でプリクラがある場所へと向かって行く。

「私、これやってみたい。だから、一緒に撮ろ?」

 正直、プリクラは苦手だ。俺の中ではプリクラ=リア充と定義されているからな。

 だが、好きな子に「一緒にプリクラ撮ろ?」なんて言われてしまえば、もはや俺の選択肢はすでに決められている。


「そうだな! せっかくだし、撮るか!」


 一瞬、周りにいた同い年くらいの女子高生が俺の方を見るなり、うぇっというような顔をされた。なんで?

 とにもかくにも俺たち二人はプリクラ機の中に入る。

 俺自身プリクラは初めてなんだが、優樹菜も反応を見る限りでは初めてだろう。実際に「お金は……投入口どこ?」とか言ってるし。

 なんだかんだでお金を投入し、撮影が始まる。

 お互いが性格の問題ということもあって、ものすごくぎこちないし、優樹菜に関しては笑顔すら取っていない。もはや証明写真か。

 撮影はものの数分で終了し、デコレーション? みたいなものをする。

 これに関してだけは優樹菜が本気だった。どう可愛くしようか一部で悩んでいるところもあったぐらいだし。

 約十五分程度ですべてを終え、写真がプリントされた。


「まぁ、あれだな。い、いいんじゃないか?」

「……」


 プリクラとは思えないほどの地味な写真。

 うーん。

 俺たちはどうやらプリクラとの相性が悪いようだ。今度からは普通にスマホのカメラ機能だけでいいだろう。

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