第5話 土曜の休日①
土曜日。
今日は学校も休みだ。
宿題も昨晩のうちにさっさと終わらせ、二度寝にかまけていると、いきなり上半身に微かな重みを感じた。
俺はそれを振り払うかのように寝返りを打つ。
重みがなくなった。気のせいか。
そう思ったのだが……なんだろう。隣に誰か寝そべっているような気がする……。
ここは間違いなく、俺の部屋だ。誰かが入ってくるなんてあり得ない。
とりあえず気になって仕方がない。俺は確かめるようにゆっくりと瞼を開ける。
「おはよ……」
「…………?」
驚きのあまり声が出なかった。
何が起こっているのか、脳が理解することを拒否っている。
それも無理はない。俺の隣にはなぜか優樹菜が寝そべった形でいた。
どのくらいかして俺は優樹菜を見つめつつ、脳内整理。今の状況が理解できたところで飛び跳ねるように上体を起こした。
「な、なななんで優樹菜がいるんだよ?!」
夜中トイレに行った際、戻る時に寝ぼけて優樹菜の部屋に入ってしまったとか……?
そう思い、辺りを見渡すが、どう見ても俺の部屋だ。
じゃあ、なんで?
わからない。優樹菜が何を考えて俺の部屋に来たのか、まったく見当がつかない。
優樹菜はゆっくりと上体を起こすと、ベッドから立ち上がる。
「やっと起きた」
いつもの表情。そこにはデレもなければ、喜怒哀楽そのどれも当てはまらない顔。
––––何考えてんのか全然読めねぇー。
「歩夢くんを起こしに来た。もう昼前だし、そろそろ何か食べないと」
「そうか。それはありがたいが、なんで俺の部屋に入ってるんだ? ノックなり声をかけてみるなり手段はあっただろ?」
「それはそうだけど、いつまで経っても歩夢くんは部屋から出てこなかった。だから、確認という意味合いも込めて、勝手に入らせてもらった」
「勝手に……って」
思わず苦笑してしまう。
その理屈が通用するのであれば、今度逆に俺が優樹菜の部屋に侵入するぞ?
「というか、俺の横で添い寝する必要あったか?」
「あった。そうでもしなければ歩夢くんは起きない」
俺は白雪姫の類か何かか? 別に添い寝されなくても体を揺さぶるなり、声をかけるなりしてくれれば普通に起きれるぞ?
「い、一応訊いておくが、それでも俺が起きなかった場合はどうするつもりだったんだ?」
そう訊くと、優樹菜は手を顎に添え、しばらくの間思案顔になる。
「歩夢くんの大事なところに悪戯……とか?」
優樹菜の目線は確実に俺の下半身の一部を捉えていた。
俺はその一部を両手で隠しながら、涙目で優樹菜を見つめる。ちなみに先ほどあくびをしたせいで涙が出てきた。
「い、悪戯ってどんなことをするつもりなんだよ……」
「フ●ラとか手●キとか?」
「…………」
なんと返せばいいのかわからず、俺は固まってしまった。
まさか美少女の口から下ネタが出てくるなんて誰が予想できた? あの成績優秀で才色兼備の優樹菜だぞ? どう考えても下ネタを口にするような性格じゃない。
それにそんなものどこで覚えた? もしかしてむっつりスケベか?
まぁ、今の女子高生となると、むしろ性関係に触れたことがないという箱入り娘はほとんどいないだろう。多少なりとも保健体育の授業で知識はつき、少なからずとも興味はあるはずだ。
だが、どう説明すればいいんだろうか。好きな人が下ネタを口にした時って、なんか引かないか? ただ自分の理想をその子に押し付けているだけかもしれないが、こんな子だとは思わなかったって、思ってしまう。
とはいえ、これだけで嫌いになるかと問われると、答えはノーだ。男子からしてみれば、それぞれではあるにせよ下ネタを口にする女子は願ったり叶ったりだろう。
優樹菜の発言もただのネタに過ぎないかもしれないが、念のため訊いてみるか。
「さすがにネタ、だよな?」
「ネタ?」
優樹菜が小首を可愛らしくも傾げる。
あれ? 思っていた反応と違う! 「ネタに決まってるでしょ!」とか、言われると思っていたのに!
どことなく俺は恐怖を感じ、それと同時に優樹菜のことが心配になった。
好きな子にえっちなことをされるのは本望だけど、俺にもプライドというものがある。そういうことはちゃんと告白して付き合ってからでないと。俺は段階主義者だからな。
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