第4話 俺と優樹菜の日常②

 風呂から上がり、リビングに向かうと、優樹菜が夕食の準備を進めていた。

 俺の親父と優樹菜の母さんはそれぞれ仕事があり、夜遅くまで帰って来ない。両親が共働きということもあり、再婚してからというもの俺たちは二人きりで夕食をとっているのだが……この状況は未だに慣れない。

 それもそうだ。好きな人と二人きりで夕食だぜ? 会話こそ、ほとんどないに等しいけど、なんというか……夫婦って感じがしないか? 俺は少なくともそう錯覚してしまう。

 それに先ほどの出来事も重なっている。尚さら気まずい……。優樹菜の表情を見る限りでは安定の無表情だし、俺に気づいても何も言ってこないからあまり気にしてはなさそうだけれども……。


「できた。歩夢くん座って」

「え、あ、うん……」


 優樹菜はダイニングテーブルの上に料理を並べ終えると、いつもの定位置に座る。

 俺も促されるまま、優樹菜の対面に座ると、手を合わせていただきます。

 今日の夕食はオムライスとオニオンスープ……見るからに美味しそうなんだが……。

 つい一か月前の俺からは想像ができなかっただろうな。好きな人の手料理を食べられるなんて。この現状だけでも幸福感を覚えてしまう。


「オニオンスープ……味、どう?」


 オニオンスープに手をつけたところを見ていた優樹菜が少し不安そうな目を向けていた。

 ……もしかして初めて作ったのか?


「美味しいと思うけど……」


 そう言うと、優樹菜の目が安心したように和らいだ。


「そう……なら、よかった」


 優樹菜は小さく呟くと、再び食事に戻った。

 リビングはガラス製の食器とスプーンがカンカンと当たる音とアナログ時計のカチカチという音で支配されている。

 この空間が居心地のいいかと問われると、そうでもないが、なぜかこの時間がずっと続けばいいのにという矛盾が俺の中で起こっていた。

 それは今日だけに限らず、毎日そう思っている。

 ……まぁ、優樹菜からしてみればそうではないと思うけどな。

 話しかけようにも話題というものがない。

 こればかりは俺のコミュ力の問題だとは思うけど、このままでは本当に関係が発展していかない。

 何かいい話題とかないか? 当たり障りのないやつ……。


「そ、そう言えば、最近学校はどうだ?」


 考えに考えた末のこれだ。俺は優樹菜の親父か。

 すごく親父くさいような質問をした俺を優樹菜は不思議そうな顔で見つめてくる。


「別にどうもしないけど?」

「だ、だよな。ははは……」


 何が聞きたいの? みたいな顔をされ、思わず苦笑い。ほんっとうにヤバいな。語彙力なくなってるけど、これが続けば家庭内別居をしている夫婦みたいになるぞ?


「そ、その……友人とか、いないのか?」

「友人? そもそも友人ってどこからそう定義できるの? 知人との違いを教えてもらいたいのだけど?」

「あ、ああ……」


 やっぱりいなかったか……。

 というか、優樹菜さん性格ひねくれすぎではないですかね? 思ってた人物像と若干違うところがあるんだが……。

 とにもかくにも話しかけても無理だということがわかったところで、食べ終わって空になった食器類をキッチンの方に持って行く。


「食器は私が洗うけど?」

「いや、これくらいは自分でさせてくれ」


 さすがに全てを優樹菜に押し付けるわけにはいかない。なるべくできるものは自分でやっておきたいところだ。

 俺の妹にして好きな人……うーん。普通に話せるようになるためにはまだまだ時間が必要そうだ。

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