第9話 現実は甘くない
翌日。
朝、目を覚ますと、いつも起こしにくる優樹菜の姿がなかった。
俺は不思議に思いつつも、これが日常的な感覚になっていたことに多少驚く。
制服に着替え、顔を洗い、リビングの方へと向かう。
両親の姿はもちろんなく、朝食のいい匂いが立ち込めていた。
その中で優樹菜の姿はあり、ダイニングテーブルに座って、食パンをむしゃむしゃと何気なく食べている。
––––やはり昨日のことは覚えてないか……。
あれだけ泥酔していれば無理もないだろう。どう見てもいつもの優樹菜だ。
俺も朝食をとるべく、いつも座っている優樹菜の真向かいに腰を下ろす。
優樹菜が俺の存在に気がつき、目線を向ける。
目と目が合い、どのくらいか見つめ合う。
そして、若干恥ずかしそうに視線をキッチンの方に逸らした。
––––あれ? なんか様子がいつもより違うような……。
うまく説明ができないけど、今日の優樹菜はどこかがおかしい。それこそ俺と目が合った時とか反応が違うような気がする。
「お、おはよう……」
俺はとりあえず挨拶をしてみることにした。
すると、優樹菜はちらっと俺の方を見る。
「……おはよう」
なんだろう。
この感覚久しぶりだなぁ。
それこそ優樹菜がここに来てから約二ヶ月は経つけど、最初の頃もこんな感じだった。
かと言って、今は慣れているかと問われるとそうでもなく、中間くらいだと思っている。
俺は不思議そうな眼差しをずっと向けていたのだろう。
優樹菜は下を見つつ、小さく口を開く。
「き、昨日のは……その、なんでもない、から……」
俯いているせいで表情は見えないにしろ、耳まで真っ赤になっている。
––––もしかして……昨日のこと覚えている?
だとすれば、この様子も納得ができる。普段とは違う行動もそうだ。
もし昨夜の告白が本当であるならば、今がチャンスなのかもしれない。
––––昔からずっと抱いてこの片思いを優樹菜に告げる。
シチュエーションやタイミングのことを考えると、今告白するのは最悪だ。もっとムードがある放課後の夕日が暮れる中、体育館裏で……とかの方が女子からしてもいいのかもしれない。
だが、俺には時間もなければ、自信もない。
優樹菜が俺のことを好きという可能性がある以上、気持ちが変わらないうちに思いを告げたい。
俺はどのくらいか深呼吸をして、心を落ち着かせる。
優樹菜が何やってるんだろう? というような不思議な顔をしている。
心が少し落ち着いたところで優樹菜の方に視線を送る。
「優樹菜、少し話がある。聞いてくれないか?」
「……(こくん)」
「その、昨日のことは本当に驚いたというか……自分でもまだ夢なんじゃないかなって思ったりもしているんだ」
あの後、優樹菜をベッドまで運んだ。その際もまだ寝言で「お兄ちゃん……」と連呼していた。
あれを聞いてしまえば、誰だって告白せずにはいられない。
「優樹菜が本当にそう思っているのなら、俺と……」
「ごめんなさい」
「つ……え?」
全て言い終える前に遮られ、即答されてしまった。
優樹菜はあくまでもポーカーフェイスを維持しようとしている。
が、顔が赤い。目線も俺に合わせないようにしているのか、ずっとキッチンの方を見たままだ。
俺はフラれてしまったという事実が受け止めきれずに呆然としている。
––––あれ? なんかおかしくない? 昨日のやつって、てっきりフラグ立ってたのかと思っていたんだけど……。
まさかの勘違いか?
男子ならよくある話だ。少し馴れ馴れしくされたり、ボディタッチをされたくらいで俺に気があるんじゃないかと誤解してしまう。それで違った時はもう大変! 黒歴史の完成だよ。自信満々に告白したのはいいけど、嫌な顔をされて何勘違いしてんの? みたいに言われ、翌朝にはその噂が学年中に広まって……。家に帰った時はもうベッドの上でうわああああああああ! って、なったね。
ちなみにもうお分かりだと思うけど、実体験です。
話は現代に戻すけど、俺は失敗を学習しないのだろうか? また同じことを繰り返してしまったのか? しかも、相手は妹だぞ? 義理とはいえ、妹に告白してフラれるとか、ダサいし、普通に考えてキモい。
たぶん優樹菜だから学校中に言いふらすということはないにせよ、黒歴史になってしまったことには変わりない。
「な、なんかごめんな。今のは忘れてくれ。あはははは……」
心配させないように作り笑いを見せたけど……今どんな顔をしているのだろう。優樹菜の視線が痛すぎるんだが。
俺はやけくそになりながら朝食を早食いし、食器類をキッチンのシンクにやると、逃げるようにリビングから飛び出す。
所詮、俺はそこら辺にいるようなモブキャラ同然ですよ。ラブコメ主人公みたいにどこかが長けているというわけでもないし、幼なじみも今はいない。
ただ、学校一の美少女が妹になっただけという話だ。ラブコメみたいなシチュエーションだけど、現実はそう甘くはない。
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