第2話 家庭内の問題
放課後がやって来た。
俺はいつものように教材類をカバンの中へ片付けると、教室を出る。
優樹菜は終礼が終わったと同時にカバンを手に持ち、出て行ったからすでにもう帰っているかもしれない。
やはり兄妹になったとはいえ、血縁上は他人。今朝も別々に家を出て行ったし、学校ですら話すこともなかった。
親同士が再婚してからの今日が初登校とはいえ、先行きが暗い。このままではずっとこんな関係なんじゃないかと思えてくる。
廊下をとぼとぼと歩きながら、思わずため息が漏れてしまう。
今の現状をどうにかして打破したい。俺と優樹菜の間には、まだまだ距離がある。この距離をどうすれば縮めることができるだろうか?
そんなことを考えている間に靴箱へ到着した。
「……って、何してんだ?」
上履きから靴に履き替えようと自分の棚に向かった時、その横にもたれかかるような感じで優樹菜が立っていた。
優樹菜は俺の存在に気がつくと、背を靴箱から離す。
「遅い。いつまで待たせる気?」
「そう言うが、一緒に帰る約束とかしてなかっただろ……」
あまりの理不尽さに肩を竦める。
なぜ優樹菜が俺を待っていたのかはまったくわからないが、とりあえず上履きから靴に履き終えた俺は、校舎の外へと出る。
優樹菜も俺の歩調と合わせ、横についている。
いつもと同じように下校しているはずなのに隣に好きな子がいるだけで胸がドキドキと高鳴る。両手はもう汗でびっしょり。こっそり何気なく制服のズボンで拭ったりはしているのだが、全然ダメだ。拭けば拭くほど汗をかいてしまう。
とにかく今は優樹菜だ。靴箱で待ち伏せをしていたのも何か話があってのことかもしれない。
俺はうんと咳払いをすると、優樹菜の方に目線を向ける。
「それで、俺になんか用でもあったんじゃないか?」
「用……用事は特にない」
「そうか……」
用事がなければ、結局何のために靴箱で待ち伏せをしていたんだ? ただ純粋に一緒に帰りたいというわけでもなさそうだし……。
そう思っていると、優樹菜が「でも……」と言って、前置きをする。
「相談? みたいな話はある」
「相談?」
「うん、私たちの今後についての相談」
やっぱり優樹菜も今の現状を気にしていたらしい。これからもずっと兄妹として生活していく上では関係性というものが一番大切だ。
もうすぐで近くの公園に差し掛かる。
優樹菜は足を少し早めると、その公園内に入っていく。
俺もその後をついていくと、優樹菜はブランコに座った。
「歩夢くん、隣に座ってくれる?」
「あ、ああ……」
促されるまま、優樹菜の隣にあるブランコに腰掛ける。
まだ時間帯的には午後四時を回った頃だろうか? 日はまだ高く、日差しが少し強い。
そんな中で優樹菜はゆっくりブランコを揺らしている。
「歩夢くん、親同士の再婚はどう思う?」
優樹菜の方を見ながら、様子を窺っていると、呟くような小さな声でそう問われた。
目線はずっと変わらずに正面を向いており、その表情には哀しさすら滲み出ている。
親が再婚したことにより、今までは自分しかいなかったのが、そうではなくなった。俺の親父が優樹菜の母さんの横についている。彼らは夫婦となり、優樹菜の居場所は以前より狭ばった。そう感じているのだろう。
だから、口には出さなくても寂しそうな顔をしている。
「俺自身では、反対はしてないな。再婚するかどうかは結局、あの二人の判断によるし、俺らの人生じゃない。二人がそれでいいのであれば、子どもである俺たちはそのことを応援すべきじゃないのか?」
俺の意見が必ずしも正しいというわけではなく、ただの一般論にしかすぎない。
中には親なんだから、子どもの意見ももっと尊重すべきだという考え方もあるだろう。
優樹菜は揺れるブランコをぴたっと止めると、何ともとれないような表情を俺に向ける。
「たしかに……歩夢くんの言う通り、かもしれない……」
それだけを言うと優樹菜はブランコから離れた。
どうやら満足いただけるような回答ではなかったらしい。
優樹菜にとっては何が正解だったのか、それは本人にしかわからないこと。
かと言って、別に訊き出そうという気持ちにもならない。
お母さんを盗られた……もしかすると、そんな思いになっているのかもな……。
俺たち兄妹間の問題だけでなく、父娘間の問題も多少なりありそうだ。
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