ドリームキャッチャー2

体が重い。わたしは、いや私はこのヴァルハラ地区を歩きながらそう思った。一度美少女の体を取り戻し、その軽やかさを認識すれば奪われたその体のありがたみを強く認識する。


その軽やかさのままにヴァルハラ地区を飛び出しトリフネ故郷に戻って私の人生を取り戻す。そのはずだった。だが私に不都合な魔法は解けず、この現実は私を捕らえたままだ。


旧リズ大陸風のヴァルハラ地区の街並みは御蓮系のトリフネ地区での暮らしに慣れた俺にとって、いや私にとって違和感のあるものだった。もはや気にならなくなるほどここに留まっているが。


地下都市ガフの人工の空、限られた天井に広がる世界。ガフの地下世界の風景はどの地区であろうとも同じだ。だがガフの空は繋がっていない。地下特急ハイパーサブウェイで結ばれてはいるがこの惑星ヘブンの地表の内を血管のように這うのみでまだ見たことの無い地上の上にある空のように本当に繋がってはいないのだ。




あの空の向こうには故郷がある。というわけでは無い。地上か。地下に眠る力を求めてガフの始祖達がこの世界を掘り始めて数世紀。それを求めぬ者たちも凍っていく世界に地上を追いやられた。だが求めた力ヘヴンズレイは喪われつつあり氷の世界と化した地上も急速に熱を取り戻してきている。


それでもなお、ヴァルハラ地区はここにある。まだ力を残し、世界を凍結させている。私もまた、この停滞の王国に留め置かれている。魔法は解かなくてはならない。


「魔法は解いてはいけない」ふと真反対のダイセンの声がマカネの耳に入った。「妙に感傷的になっているじゃないか」私だ。私が目の前に居る。私の体を奪った男が私の声で俺に話しかける。物凄い嫌悪感を覚えてしかるべきだ。だが、不思議とそのような感情は湧かなかった。


「声に出していたか」俺は一度俺の体を取り戻した。目の前にある私の体を。だからだろうか感傷的になったのは。「君がこの体に戻りたいのはわかっている」「ならば、返すのだ。おもちゃを盗むのとはわけが違うぞ」


「それができない相談であることは君がいちばん理解しているはずだ」私の体を奪った男、ダイセンの、私の声で伝える言葉には優しさがあった。私が元の体に戻れたのは一瞬だった。私の体は私の体ではなくなっていた。



私の体には怪物イグナイターの力が混じっていた。「君を守りたいのだ」ダイセンは言葉を続けた。「なにから?」「君の運命やくわりから」「ふっ」俺は吹き出した。思わず笑ってしまったのだ。あまりにも怒りが募ってしまい。だから続けた。「ふざけるな!俺の運命は俺のものだ!俺の体も俺のものだ!」「マカネくん……」私が、いやダイセンが私の名を呼んだ。


「ダイセン!……さん。俺は取り戻す!俺の体もあなたが守ろうとしている俺の運命とやらも」アイリーンが何を考えているかは知らない。ここでなぜアイリーンのことを?、そうか……。


俺がなぜダイセンに不快感を感じなかったかわかった。やつの言葉が本当であることが俺の、ダイセンの体が教えてくれるからだ。アイリーンは俺の体でなにかをしようとしている。それをダイセンは快く思っていない。


だから体を奪ったのだ。私の体と心を離せばイグナイターは眠ったままだ。それでも、俺は言葉を繋げた。俺は、私の運命を取り戻す!


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