ブラックストマック5

ミミズ……、いや蛇か!どちらにせよ。それらとは比べ物にならないサイズに肥大化した能異頭が柱めいて直立している。

「おいしそうね、あなた!」能異頭が人語を発する。その知性や人間性からかけ離れているかのような姿から人の言葉が発せられるのはいつものことながらマカネを混乱させた。


「おいしいものは後にとっておくタイプなのね、あなた」マカネはCENDRILLONと心身を一体化させアームヘッドの巨体を身構えさせた。会話を続けながら相手の隙を伺う。FRYMANを瞬殺した相手だ、油断ならない。


「あら、警戒してるの?かわいいわね!」能異頭の不気味な声がその全身を震わせ空間に響く。ヴァルハラのコロシアムの観客は恐慌状態である。アームヘッドの攻撃から観客席を守るプロテクトもその何倍もある能異頭の接触を防げるかわからないからだ。





「でも無駄よ!」突如能異頭の地下都市の天井まで続くような巨体が傾き始める!マカネは咄嗟にCENDRILLONの投影式タッチパネルを操作!回避!能異頭はコロシアムの天井!壁!観客席!観客!を押しつぶしながら倒れ込む!


「いいのかしら!みんな死んじゃうわよ!」能異頭があざ笑う!私はヒーローじゃない!マカネはそう思いながらも唇を噛み締めた。狂った怪物め!ヒーローではなくとも理不尽の化身に堕した怪物への憎悪が湧いた。


倒れ込んだことで能異頭の正面がCENDRILLONを向いた。「さて無力に打ちひしがれてかわいいところを御馳走様しちゃおうかしらね」キュートアグレッションの怪物はその口を大きく開いた。そこには牙も舌もなく先の見えぬ虚無が広がっていた。


「いただきまあす!」その巨体には似合わぬ俊敏さ!呆然と立ち尽くすCENDRILLONを飲み込まんとする!しかし!マカネは動いた!その意志に応え、CENDRILLONも動く!


マカネはヒーローでも、悲劇のヒロインでもない!その原動力は自分の体を取り戻さんとするエゴだ!エゴは生存を優先する!そして!


「ふふふ」マカネは笑い出した。「な、なに」マカネの反応にむしろ能異頭がたじろいだ。「面白くなって来たじゃない」マカネの戦闘への欲求が彼女を笑わせた。「おいしそうね、あなた」マカネは答えた。

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