マジックアワー5
5
どんな才能が自分に眠っているかわからない。多くの才能は気づかれずに終わっていくのだろう。マカネのバトルセンスもそういった類の才能であるはずだった。そうであればよかっただろう。
この
だれがそんなことを望んだのだろうか?狂った欲望の魔法が生み出したバトルマシーンは、世界の憎悪が歪ませたノイズと対峙した。
ガフはこの惑星ヘブンの命脈に沿って点在し連結し合う複合地下都市群の総称である。ヴァルハラはその最北端に位置しその頭上には氷河期の残り香である氷の世界が広がっている。それでも地下都市の天井が写すスクリーンの空は温帯の穏やかな青空だ。
そのイミテーションの青空に不似合いな暗い赤と鮮烈な小麦色の混じった歪んだ怪物、
能異頭が急速に近づいたことによる衝撃波が青空の映像を写すスクリーンを破壊する!強化ガラスのスクリーンは割れるが砕けることはない。青空の画像がノイズに変わりやがてブラックアウトする。「やはり」とマカネは素顔を隠す仮面の下で微笑する。
能異頭がどんな兵器なのか、あるいはB級映画の怪物めいたエイリアンなのかはわからないが”権能”とやらで何者も直接触れることはできないらしい。なぜそうなのか、それはそうなっているからとしかいいようがない。マカネにはそれ以上考える気はなかった。
奴をどう攻略するか?そのことの方がはるかに重要だ。まず奴は自分を裏切った雇い主やかつての対戦相手を襲った。そしてそれらは破壊された。どうやって?奴は
傷つけてくるものは傷つけられる。奴は接触不能のオバケではない。奴は空気には
CENDRILLONが再びボクサーめいて構えた。CENDRILLONのガラスの靴はコンクリートの地面に吸着し機体のボディを固定する。最大のパワーを能異頭に叩き込む。マカネの屋敷を囲んで林立するビルの隙間から
マカネは違和感を感じた。空気が切れるような音を感じ取った。CENDRILLONの全方位を見渡すカメラアイがコンクリートの地面に先程存在しなかった傷を視認する。マカネは状況判断する。マカネの
CENDRILLONが地面との吸着をやめ、構えを解かずにバックステップする。その刹那!コンクリートの地面にさらなる傷! さらにバックステップ!今度は傷つけたものを視認!能異頭の体から伸びるヌードルめいた触手だ!さらに後退!触手!背後には屋敷!
「なるほど、風圧で飛ばしていただけではなかったわけね」マカネは不気味に変貌しつつある能異頭を睨んだ。複数のヌードル触手がその肉体から垂れコンクリートの地面に触れている。これは触手によって支えられているのか?
「さあトリフネ人らしく俳句でも詠んだらどうだ貴様!」「あいにくあまり風流な景色でもないから詠む気になんかならないわ!」「ならば戯言を垂らしながら黄泉の河を渡るがいい!」能異頭のヌードル触手が複数、CENDRILLONを襲う!
CENDRILLONは自分の屋敷を蹴って飛ぶ!その運動エネルギーともうひとつのエネルギーによって加速した。CENDRILLONが渾身の拳をヌードル触手に叩き込む!CENDRILLONのリアクターレイが黄金に光り輝いた!
ヘヴンズレイの輝きである!人類文明の希望の力!世界の生存本能が世界を貶めようという邪悪な力と相克した!「地獄に還れ!」マカネは叫んだ!CENDRILLONのグローブが弾け飛んだ!「はははは!地獄に行くのは貴様の…」
男の、能異頭と化した男の言葉の続きは驚愕だった。「なにぃい!」グローブを砕いたパワーは複数のヌードル触手を砕き、その破滅的エネルギーを能異頭本体にも伝播させる!「あくまで俺を否定するか!この世界は!」
「世界はあんたになんか興味ないわ、きっとね」能異頭は爆散した。CENDRILLONはそれを見届けると破壊エネルギーに巻き込まれた自分の屋敷の惨状に気付いた。
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