マジックアワー3

「畜生!」男は空き缶を蹴り飛ばした!憎いとにかく憎い!男は世界を憎悪していた。理由はとっくに特定できなくなっていた。自分は世界に嫌われている、だからこそ自分も世界が嫌いだ。というような輩だ。


もうすこしで栄光が手に入ったのに!ヴァルハラのコロシアムでμTミュートを駆りのし上がったのも過去の話だ。積み重ねたごまかしはCENDRILLONサンドリヨンとの惨めな敗北で決壊した。スポンサーはいなくなりLOCUSTローカストは奪われた。


μTがなければただの人、以下だ。もはや何もない。この行き所のない虚無な憎しみ以外は。「君、どうしたんだゾ?悪夢でも見たのかゾ?」冷たい声が男の後ろから木霊した。その現実感のなさに憎悪を忘れ男は冷や汗をかいた。


そこに長い銀髪の赤い目をした女が立っていた。「心配だゾ?僕になにかできることはないかな?」微塵もお前の心配などしていないと抑揚のない声が物語っていた。「だれだ!」「僕を知らない!?僕はナイトメアだゾ!」


「ナイトメア……?」そういえばタイトルホルダーのひとりの機体がそういう名前だったような?男は考えを巡らす。ナイトメアが男の生命にとって危機であるかのようにこの状況は走馬灯めいた考えの堂々巡りを男に強いた。


「そう、ナイトメア。お前達の悪夢だゾ」ナイトメアはどこからか注射器がついた腕輪のようなモノを取り出した。「なんだそれは!?」「ノイズギアだゾ」ナイトメアはいつのまにか男の背後に迫っていた。


ナイトメアによってノイズギアが男の腕に装着される。「いい夢を見るんだゾ」青く光る液体がノイズギアによって男の腕に注入される!「やめろ!」「チカラ・パワー液は君に筋肉覚醒マッスライズをもたらすゾ!ノイズの力でこの世界に悪夢を振り撒くんだゾ!」


sacrificeサクリファイス……」ノイズギアは無情に発音した。男の筋肉が肥大化していく!青白い光が男の目から漏れる!男の全身が変質していく。かつて世界に災厄をもたらしたタイムスリップの英知が注ぎ込まれていくのだ。


代替の怪物ノイズと化した男をみてナイトメアがつぶやいた。「静寂ミュートなる世界に再び代替の祝福をもたらしておくれ。僕の愛おしいノイズ」

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