第8話
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朝食を摂り終えた三人は、生ハムと目玉焼きのボカディーリョ(サンドイッチ)を二つ、食堂の出口で受け取った。
その後、神白はラ・マシアを出て、天馬と共にバルサが手配したバスに乗った。二人が通う私立学校に向かうためである。レオンは神白たちと別れて、所属するバルセロナ大学行きのバスに乗車していた。
カンテラ所属者は、チームが提携している学校で特別時間割の授業を受ける。サッカーで大成するには人間的にも優れているべきという考えのもとだった。
十五歳で移籍してきた神白は中等教育を済ませた後に、私立学校のバチリェラート(大学進学準備コース)に進学していた。神白は経済学が専攻だった。サッカーが駄目だった場合でも、生活に困窮しないように勉学もしっかりやっていた。
神白は天馬と一緒に授業を受けた。十一時頃の休憩時間には、持参してきていた軽食のボカディーリョを食べた。
神白と天馬はバスに乗り、十四時頃にラ・マシアに戻った。食堂に赴いて、チームメイトの二人と同席して昼食を摂る。
一時間の休憩時間を挟んで、二時間強、ラ・マシア内の小教室にて講師による補習が行われた。神白は英語を勉強した。
補習の後、神白たちは五分ほど歩いてカンプ・ノウ横の下部組織用の練習グラウンドに辿り着いた。
入り口のフェンスを開き、神白はグラウンドを一望した。丁寧に整備された芝生のサッカー・グラウンドである。全周を囲むフェンスの内側には、低木の茂みがあった。その手前には階段のような簡素な観客席が二段あり、ところどころ席が埋まっていた。
更衣室でチーム支給の練習着に着替えて、神白たちフベニールA所属者二十四人はコート中央で円になった。すぐに一人の壮年の男性が話し始める。
「諸君、今日もこの時間が来た。君たちの人生で最も力を注がねばならない時間が、だ。常々念を押しているが、君たちは多くの者との競争に勝った結果、こうしてバルサのフベニールAにいる。決して忘れずに、倦まず弛まず日々精進すること」
力感溢れる口調で男性は熱弁を振るう。抑揚はとにかく大きく、身振り手振りもオーバーなまでに加えられていた。表情は自身に満ちており、演説慣れが窺える。
男性の名はクラウディオ・ゴドイ。四十歳で、一昨年前からフベニールAの監督をしている。
ゴドイはバルサのOBで、一九九一年からのバルサ黄金期のメンバーの一人だった。紛れもないバルサのレジェンドであり、神白たちカンテラ生の憧れの的である。
「では始めるように」ゴドイがびしりと締めて、神白たちは動き始めた。
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