第23話 決着

すっかり油断し、スイッチを切りつつあった俺たちに。

そいつは、いきなりやってきた。


完全な怪物と化したシャドウストーカーが、その巨大な剣を振り上げ、横薙ぎの斬撃を俺たちに見舞う。


まずい、やられる……!!


そう思った。

だが、間一髪。


バチッ!


水無月が魔眼を出現させ。

俺たちの目の前に、その魔眼を変化させて作った、輝く透明のドーム状の盾を形成してくれたからだ。

魔眼で形作られたその盾は、斥力を帯びており、普通なら至近距離での爆弾の爆発でも耐えられる……らしい。

後で聞いた話だけどね。


しかし。


シャドウストーカーの一撃は重かった。

死にぞこないの、悪あがきの一撃じゃ無かったのだ。


第一撃は、間一髪間に合った斥力の結界で弾きはしたものの。


二撃、三撃。


キャハハハハ、キャハハハ、と狂笑しながら、打ち下ろし、袈裟、突き刺しと。

連続で打ち込んでくる。


まるで嵐だった。


バチッ、バチッ、バチィッ!!


「……ゴメン。北條君……」


シャドウストーカーの猛攻を全力で防ぎながら。

水無月は、ちょっと困ったような顔をして、笑った。


「ちょっとこれ……持ちそうにないや。ごめんね……」


攻撃を受け止めるために両手をシャドウストーカーの方に翳し、全力で魔眼の障壁の制御をしながら。

はは、と。

俺の方のちらりと見て、笑いながら言ったのだ。


諦めが入った笑いだった。


俺は絶望する。


そんな、ここまで来て、結局やられてしまうのか?


俺と水無月、一緒に頑張って、この悪魔を倒したと思ったのに……!


どこだ?どこで間違った?

水無月の一撃で倒れたときに、遺体を灰も残さないレベルで焼いてしまうべきだったのか?


俺が甘かったのか?


畜生……!!

結局、俺は、誰も、何も、守れないのか……!!


水無月、姉さん……ゴメン……!!


悔しくて、悔しくて。


俺は拳を握りしめ、せめて、水無月への最後の一撃くらい。

この結界が破れてしまったら、このままじゃ先に水無月がやられてしまうだろうけど。

その一撃くらい、俺が庇って守ってやる。


何の意味も無いけどさ。

好きになった女の子を、目の前で俺より先に死なせるなんて。

それはあまりもみっともないから。


そんな決意を固めようとしたとき。


いきなり、舞い降りてきた。


バサッ、という羽ばたきの音とともに。

俺たちの目の前に。



舞い降りて来たのは、ドラゴンに似た人型の生き物。

……泉先生!?ヴィーヴル!!


泉先生は、俺たちとシャドウストーカーの間に割って入り。

シャドウストーカーの斬撃に合わせる形で、その伸び縮みする腕で、無数の貫手による連続打突を繰り返す。

まるで、カウンターだった。


全ての攻撃に合わされて、連撃を受けて。

シャドウストーカーの攻撃が、止んだ。


「……外の従者は、全部片づけてきたわ。よく二人だけで、ここまで頑張ったわね」


「相性ピッタリだねお二人さん。もう、付き合うしか無いんじゃ無いのかな?」


振り向かず、泉先生とその肩に乗ったブラックさんはそう言った。


……すごい。この人たち。

応援で派遣されてくるだけのことはあったんだ……!!


希望が湧いてきた。


「ここからは任せなさい……と、言いたいところだけど。実はもう、これで打ち止めなの」


え?


……じゃ、どうすれば?

どうすればいいんですか?泉先生?


「あとは……アナタがやるのよ!!」


しゅる、と俺の胴体に、先生の尻尾が巻き付いて。


バサッ、とは羽ばたいた先生と一緒に、空中へと舞い上がった。


気が付くと、俺はシャドウストーカーを見下ろしていた。


ヤツは、先生のカウンターの衝撃から覚め、気が付いたら俺が消えているものだから。

パニックに陥ったのか、あたりを見回していた。


連続攻撃でズタボロになっている水無月については、とりあえず気にしていないらしい。


「いいかい?北條君。僕は、今からキミの中のレネゲイドウイルスの力を、ほんの数秒だけ、数倍に高める」


先生に連れられて宙を舞っている俺に、ブラックさんが言う。

先生の肩から、尻尾を伝って、俺の耳元までやってきて。


「ほんの数秒だ。その数秒のうちに、キミは全力で、あの化け物……ジャームを倒せ!」


俺が……!?


「多分、一撃しか持たないだろう。だからその一撃に全てを賭けろ!出し惜しみするな!いいね!?」


重すぎる言葉だった。

でも……やるしかない!


そうしないと、皆守れないなら。


俺は頷いた。


「いい返事だ。それでこそ、男の子というもの……いくよっ!!」


ドクンッ!!


ブラックさんの気合を聞いた瞬間。

俺の中で、何かが暴れだした。


力が……漲ってくる!!


「いきなさい!!」


そして泉先生が、尻尾で俺をシャドウストーカーに投擲した。



俺は、空中で、火炎拳に全てを注いだ。

全生命力を注ぐイメージで……!


俺の拳が、かつてないほどに燃え上がっていく!



その熱が伝わったのか。

シャドウストーカーが俺を発見した。


「……ミツケタ……ゴキブリィ!!!」


狂った笑いを浮かべて。

シャドウストーカーは両手を広げた。


すると。


空気から錬成したのか。


槍、斧、剣、ナイフ……大小様々な白兵武器が無数に空中に出現し。


「キャハハハハ!!ハリネズミにナって死ニなサイ!!」


シャドウストーカーは両手の剣の投擲姿勢に入った。


……まずい……!!


あいつ、あれを全部投げるつもりなのかよ……!!


今度は俺が空中。あのときに焼いた蜘蛛従者と逆の立場だ。


つまり、避けられない。


まずい……!!


土壇場で、焦る。

打つ手なし。


しかし。


……シャドウストーカーが、投擲姿勢を取ったまま、動かなかった。


そのとき、脳裏に、あの言葉が蘇った。



私ね、バロールシンドロームの奥義のひとつ、通称「時の棺」が使えるの。

狙った相手の時間を、ほんの一瞬だけだけど、停めることが出来るエフェクト……



水無月!?


ちらりと、彼女を見た。


彼女の瞳が赤く変色し、手に持った、魔眼も真っ赤に染まっている。


水無月が、時の棺を使ってくれたんだ!!


ベストタイミング!!


水無月!

やっぱ俺、お前の事大好きだわ!確信した!絶対後で告白する!!

愛してるよ!!


「これで終わりだッッッ!!!」


固まったままのシャドウストーカーの胸に、俺の拳が叩き込まれる!

俺の高められたレネゲイドウイルスが生み出す強化されたエフェクトが、それが生み出す高熱が、そのままシャドウストーカーの全身に伝播し……


「アギャアアアアアアアアアアアア!!!」


瞬時に発火炎上。巨体は、火達磨になる。

錬成していた武器は砂になって、消えていく。


「アァ……カズオチャン……カズオチャン……」


そしてシャドウストーカーは、今度こそ息絶えるまで、息子の名前を呼び続けていた……。

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