第20話 突入

走って30分の道程を、5分足らずで突っ切って。

俺たちを抱えた泉先生は、藤堂家の庭に舞い降りた。


ここが、あいつの家。


デカイ家だ。

俺の家の数倍はあるだろう。


一目で金持ちの家だと分かる。


庭に植えられている植物。池。岩。

どれもこれもが、金持ちっぽかった。

そして、全面芝生。

土が露出している場所なんて、ほとんど無い。


家の建材も、その辺の家と違うのが一目で分かる。


玄関が見える。

この家に、姉さんが居る……?


家の中は暗く、明かりはついてはいない。


本当に、誰か居るのだろうか?


そのとき。


ふしゅるるるる、ふしゅるるるる……


わらわらと。


庭のあちこちから蜘蛛の化け物……従者の大群が現れた。

数えきれない程の。


そしてワーディングが張られる。


……どうやら、ブラックさんの読みが当たっていたらしい。


しかし、数が多い……。


俺たち4人で、捌ききれるのか?

それに、こいつらと戦ってる間に姉さんが……!!


火炎拳を発動させながら、俺は焦った。

こんなやつらで時間を潰している暇は無いのに……!


「……ここは、あれだね。姉さん」


「……そうね。あれね」


泉先生と、ブラックさんが、頷き合うような会話。

終わると同時に、先生が羽ばたき、舞い上がって。

右腕を、突き出す。

すると。


ドウッッ!


泉先生の右腕が……爆発的に伸びた!


伸びた右腕は、さらに途中で枝分かれし、それぞれ複数の従者たちを貫く。

倒される従者たち。


一撃で複数の従者を仕留めた先生の右腕が、巻き戻っていく。

その後には、玄関までの一本道が出来ていた。


「さぁ、先に行きなさい!後で私たちも行くから!」


「そういうことだ。お約束だよねこういう状況!!」


ここは自分たちに任せて先に行け。


泉先生たちの決断。

心配が無かったわけじゃ無い。


しかし今は、それに従う以外無いと思えたんだ。


「分かりました!」


「先に行ってます!」


俺と水無月は、先生が作ってくれた道を、矢のように走り出した。




玄関ドアを、重力操作で威力を上げた水無月の魔眼槍の一撃で吹っ飛ばし、家の中に突入する。


ワーディングの主の気配に向かって走りながら、水無月は言った。


「絶対、お義姉さんを助けようね。北條君」


水無月のその言葉には、重みがあった。

社交辞令なんかじゃない。本気で言ってくれていた。


「水無月……ありがとう」


水無月は本気で、俺の姉さんの身を案じてくれている。

それが分かったから。


彼女は、そのまま続けた。


「私、赤ちゃんのときからUGNで、家族居ないから、正直、北條君が羨ましいんだ」


どうも、水無月は赤ちゃんのときにジャームに襲われ、家族を全員殺されたらしい。

そのときにオーヴァードとして目覚め、自力でジャームを殺して生きながらえ、UGNに保護されて今日まで生きてきたんだとか。


だから、家族に憧れてる。そう彼女は言った。


「家族が居るっていいよね……寂しくないもんね……」


その声は、悲しかった。


「北條君とお義姉さんの関係、憧れてるんだよ。ホントだよ?」


水無月……。

だったら、水無月もウチに来ればいいんだ。

だから、俺は言った。


「……今度、姉さんに水無月を紹介するよ。……友達として」


「ホント?……嬉しい……!!じゃあ、絶対助けようね!」


彼女は、笑った。

水無月の声は弾んでいた。

大林さんは、俺の姉だった。

水無月は、姉さんの妹になれると思う。


こんな優しくて、しっかりしてる子。

姉さんだって気に入るはずだ。




そして。辿り着いた。


このドアの先に、居る!

このワーディングを張った、ジャームが。


俺と水無月は向かい合い、頷き合って。


ドアを吹き飛ばした。


バンッ!


そこには。


高級そうな椅子に座っている、上品に髪を結い上げた、身なりのいい、40代くらいのオバサンと。

床に転がされている、意識のない制服姿の姉さん。

見るからに上等のベッドに寝かされている、一夫が居た。


部屋の広さはかなりのもの。

20畳は超えていた。


部屋には大窓があり、そこから月明かりが差し込んでいる。

明かりは、オバサンが座っている椅子の前に据え付けられた、テーブルの上で燃えているランプの灯のみ。

電灯はついていなかった。


「あら、もう来たのね。卑しいゴキブリさんたち」


俺たちを確認し。

その見るからに金持ちのオバサン……藤堂一美は、全く温かみの無い目で、俺たちを見つめながら。

そう、憎しみの籠った声で言ったのだ。

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