第19話 襲撃

俺はすぐさま姉さんのスマホに電話をかけた。

しかし、全く繋がらない。

無情に呼び出し音だけが続いていく。


頼む……姉さん……出てくれ……!!


「どう!?北條君!?」


「ダメだ……全く繋がらない」


水無月の焦り顔が、俺の焦りを増幅させる。

姉さん……無事で居てくれ……!!


姉さんまで殺されるなんて、絶対に嫌だ……!


「北條君!お義姉さんの居場所は、普通に考えるなら自宅でいいのね!?」


水無月は切羽詰まったように言った。

俺は頷く。


こんな時間に、姉さんは出歩いたりしない。

家に居るはずだ。普通なら。


「だったら、任せて!」


水無月は、片手の上に魔眼を出現させ、地に片膝をついてしゃがみ込む。

そして地に空いている手をついて、叫んだ。


「ディメンジョンゲート!」


水無月の宣言と同時に、空間が歪み、穴が開いて。

俺の自室が、穴の向こうに出現した。


「重力で空間を歪めて、北條君の自室とここを繋げたわ!早く通って!」


すごい……水無月って、こんなことまで出来るのか……!

ありがとう……!感謝しきれないよ!


「ありがとう水無月!助かった!」


俺は空間に開いた穴を潜り抜けた。





穴を潜ると、自室だった。

パソコン一台、学習机、そしてベッド。

本棚ひとつ。


すごい……本当に自室だ……!


エリートオーヴァードだったって、水無月の言葉。

本当なんだな。すごい女の子だ。


そこで、自分が靴のままなのに気づく。

でも、そんなことを言ってる場合じゃない!!


自室を飛び出し、すぐさま、姉さんの自室をチェックする。


……いない!


もぬけの殻。

姉さんの部屋は、部屋の主が不在。

俺と違って、繊細な感じのインテリア。小物なんかも洒落ていて、女の子の部屋だ。


姉弟とはいえ、女の子の部屋なので、あまりじっくり見たことは無いが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。

ベッドの布団の中も確認した。

洋服ダンスの中も開けてみた。

どこにも居なかった。


……次だ!!


居間をチェック。


……いない!


そして居間は、大窓がぶっ壊れて、ガラスの破片が周囲に飛び散っていた。

探すまでも無い。


ここで何が起こったのか、すぐに分かった。


やっぱり、襲撃があったのだ。


居間のテーブルの上に、ガラスの破片が散っている。

俺の日常が、侵された象徴のようだった。


俺の焦りが最大限になり、俺は頭を抱えて崩れ落ちた。

そんな……俺はまた、家族を失うのかよ……!?


そのとき、空間が歪み、開いた穴から、水無月、泉先生、その肩に乗ったブラックさんが現れる。


瞬時に、事情を察したらしい。


「……遅かったか」


「どうしよう……姉さんが……!ブラックさん!?」


「落ち着け。まだ殺されたと決まったわけじゃない!」


ブラックさんの声は焦ってはいたが、俺よりは落ち着いていた。


「藤堂一美については一夫を調査するときに少々調べている。自己中心的で、息子以外の他人について、全く思いやりを持っていない人物だったようだ」


小6の一夫がカメラを万引きしたときに、彼女は「万引きされるようなところにカメラを置いていた店が悪い。息子は悪くない」と触れ回り、執拗に店を侮辱する発言を繰り返したらしい。

モラルが元々全くなく、加えて執念深い人物だったらしい。


「だから、彼女がキミの姉さんを攫ったとして、あっさり殺すとも思えない。まだ間に合う可能性がある」


それでも、危険なことには変わりない。

早くしないと。しかし、どこに……?


焦る俺に、ブラックさんが続けてくれた。


「多分だが、藤堂家の可能性が高い。お楽しみは、自分の巣でじっくりと行いたい。そういう心理が働くだろうからな」


あいつの家か……!!

ここからだと、走って30分はかかるぞ。


車か何か……あ、そうだ。水無月に言えばなんとか……?


しかし。


「クリスタルオーブ、藤堂家に飛ぶことは可能?」


俺が言う前に泉先生が水無月に言った。

しかし、水無月は、悔しそうな顔をして


「すみません。そこは無理です」


首を左右に振った。

無理なのか……!

多分、何かしら条件があって、それに合わないんだろう。


悔しい……!


でも、これは水無月のせいじゃない。

彼女を責めるのはお門違いだ。


それに、彼女自身があんなに辛そうにしてくれている。

そんな彼女にそんな筋違いの恨み言、言えるかよ!


「そう。……じゃあ、しょうがないわね!!」


先生は、腕をクロスさせて、息を大きく吸い込んだ。

次の瞬間。


クアアアアアアッ!!


先生の完全獣化。

体中に鱗が浮かび上がり、腕は太く、太腿も肥大する。

両手は鉤爪に変わり、脚も恐竜のように変化。

口が裂け、歯が牙に変わっていく。

変化についていけない衣服が、どんどん裂けていく。


そして前と違ったのは、背中から巨大なドラゴンのような翼が生えてきたことと。(これでTシャツが完全に弾け飛んだ)


お尻から同じく、ドラゴンのような尻尾が生えてきたこと。(ジャージも同じく、これで完全に弾け飛ぶ)


これが、先生の、本当の完全獣化なのか。

そこに居たのは、直立したドラゴン人間。


そういえば、ヴィーヴルって、牝ドラゴンの名前だったっけ……


「行くわよ!私が運ぶから!自動車より早くいけるわ!しっかり掴まるのよ!!」


ガシッ


先生は、俺と水無月を両腕で抱えて、背中の翼を羽ばたかせた。


俺たちは、夜空に舞い上がった。

そして、瞬時に、急加速する。


!!!


先生はしっかり抱いてくれているが、俺たちもしがみ付かないとヤバイ。

そんな速度だ。


しかし、これなら……!!


無事でいてくれ、姉さん!!

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