第18話 発覚
「……大丈夫!もし北條君が責められるなら、私も一緒に謝ってあげるから!」
俺の後ろで、俺の独り言を聞いてくれていた水無月が、そう言ってくれた。
その気遣いが、嬉しかった。
委員長だから、クラスメイトにここまで心を使ってくれるんだろうか。
俺の胸に回されている細い彼女の手の感触が有難かった。
俺を支えてくれている気がした。
「先生たちは、あなたのことを信じていたわよ。きっと、一人でその結論に辿り着くってね」
「力で無理矢理止めたら、きっとキミの人生に禍根を残すと思ったんだよね。だから、姉さんに言って、彼女を羽交い絞めにさせてもらった」
そんな俺たちを見ながら、大人組二人がそんなことを言った。
それを聞いた水無月が、俺から離れてカチーンときた顔をしてつっかかっていく。
「無責任なことを言わないで下さい!もう少しで北條君、人を殺すところだったんですよ!?」
「そうなったら、そうなったで、それは彼の選択だろう」
そうやって、やいのやいのと言い争っていた。
俺はそれを横目に見ながら、倒れている一夫を見つめる。
無論、こいつの命が重いなんて欠片も思っちゃいない。
明日もし、こいつが不慮の事故で死んでも「天罰だな」って躊躇なく思える自信がある。
それでもさ。
やっぱ、違うと思ったんだ。
人の命を、自分の意思で奪った人間は、それまでの人間とは別種の生き物になる。
そして、そんな生き物を、社会は許容しちゃいない、って。
「だいたいなんですか!あなたの惚れた男の子くらい、もう少し信じてあげなさいって!そんなことにヴィーヴルに踏み込まれる筋合いは……!?」
俺は、姉さんや水無月と、一緒の世界でまだ生きていたかったんだよ。
だから、ゴメン……!
もう一度、心で俺は詫びた。
そしてふと見ると。
後ろ姿の水無月が口を押えており、泉先生が肩を震わせて口を押えていた。
ブラックさんも、泉先生の肩の上で、器用に前足で口を押えている。
……何かあったのか?
というか、俺が笑われている?ひょっとして?
泉先生の仕草、あれは笑いを堪えている仕草だ!
俺の身なりがおかしいとか?
シャツ、問題なし。
股間のファスナー、問題なし。
股間、問題なし。
顔、別に何かやばいものが出てる雰囲気なし。
……わからん。
仕方ないので、恐る恐る聞いてみる。
「あの、先生。俺、なんかおかしいですか?」
「いや、あなたはおかしくないのよ。あなたはね……」
じゃあなんでそんなに笑ってるのよ。
……これは、いじめだろうか?
俺だけ仲間外れにされた気分だった。
なんとも言えない疎外感。
あれか?俺が一人だけUGNのメンバーじゃないからか?
「まぁ、ひとつハッキリしたことは」
ブラックさんが、この話はこれで終わり、とばかりに強引に話題を切り替える。
「シャドウストーカーは、そこの男の母親だな。間違いない」
それは俺も同意だ。
姉さんの話によると、異常な人物であることは間違いないわけで。
そしてこいつの話からすると、そうとしか思えない。
子供が殺人を犯したのに、まったく動じることなく死体処理を請け負うなんて。
普通の感覚じゃ無いよ。馬鹿親の域を超えている。
……姉さんが暴言を吐かれたあの日、すでにこいつの母親はジャームだったのだろうか?
ふと、考えた。
「早速、コイツの記憶を消した後、支部に戻って作戦を立てよう。大詰めだ。頑張ろう」
そう、一夫を示しながら、ブラックさんが宣言したときだった。
どこからともなく真っ赤な糸が、飛んできて。
一夫を絡めとり。
まるで一本釣りするかのように、持ち去られた。
!?
そして同時に起こるワーディング。
ふしゅるるる、ふしゅるるる。
闇の奥から、また、蜘蛛の化け物……シャドウストーカーの従者が現れる。
全部で3体。
囲まれている。
俺たちは円陣を組み。
ボッ、と俺は火炎拳を発動させ。
水無月は、魔眼槍を生成。
そして泉先生は、ジャージの上着の袖を裂けさせながら、右腕だけ鱗の生えた爬虫類の腕に変化させた。
「いくぞっ!」
「イヤーッ!」
「セイッ!」
それぞれ気合を込めながら、襲ってくる従者を撃破する。
俺は火炎拳を打ち込んで、従者を火だるまにし。
水無月は魔眼槍で串刺しにして、一発で仕留め。
泉先生は、爬虫類の爪を従者の身体に突き刺し、体内の重要器官を掴み出して仕留めていた。
3体とも倒された瞬間、ワーディングが解除される。
そして血へと溶けていく従者の死骸を見つめながら。
ブラックさんが口を開く。焦った声で。
「………まずいことになった。藤堂一美にこちらの事を知られてしまったらしい」
そして、俺の方を向き
「キミの姉さんに連絡しろ!!今すぐ逃げろと!」
その次の言葉で、俺は凍り付く
「藤堂一美は必ず、キミの姉さんを狙う!!」
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